第8話

「すっごいスピードでしたね、あのシュート。風を切るとはまさにあの事! インド人もびっくりの、スーパーミラクルシュートですよ!」

「インド人はどうかわからんけど、褒められたら、悪い気はしないな。うん。どうもありがとう」

 翌々日の月曜日、佳奈と恭介は今日も一緒に登校していた。

 佳奈は土曜日の練習試合は見に来ていたようで、試合が終わるとすぐに一人で帰ったらしかった。

(一緒に下校しようとは言い出さないんだな。本当に、こっちの言う事は、きっちりと守る子だ)

 恭介が考えていると、「先輩ってサッカー、ほんとに上手ですよね。素人の私には、プロとの違いがわからないぐらいです。いつからしてるんですか?」と、佳奈は心底興味深げに問うてきた。

「幼稚園」

「へー、長い間続けてるんですねー。私なんか幼稚園児の時にはぽけーっとしてるだけだったのに、先輩ったら真面目に一途に、ひたすらボールを追いかけてたんですね。そりゃあ、うまくなるはずです。納得」

 佳奈の賞賛は、心底感心したような語調だった。

「ああ、まあ。でも幼稚園からの奴はけっこういるよ。それに、長くやってるから偉いわけでもないし。高校から始めてプロになった人だっているから」

「そうゆう意見もありますよね。でもそうやって、一つの事をずうっと続けられるのすごいと思いますよ。先輩の根気強さに、私、脱帽です」

「ああ、ありがと」と、恭介は素直に思いを口にした。

(俺を慕ってくれてるし、喋りやすいよな。女子と話す練習、か。この子としておいても悪くないか)

「えっとさ、ところで君は何か部活してるの?」

「私ですか? 私はテニス部ですよ。中学から続けてますけど、あんまり強くはないです。頑張ってるつもりですけど、運動音痴ですからね。みんなについて行くのもしんどくて、なかなか強くはなれないです」

「下手でも何でも、頑張ったら何かしら得るもんはあるだろ。引退まで続けられたらいいよな」

 恭介は、感慨を込めて返事をした。

「ありがとうございます。みんな優しいしやりがいはあるので、最後までやる気でいます。それにしてもサッカー部って、朝練もあるし筋トレとかも多くてハードですよね。うちの部は打つ練習ばっかりですし、ほんと感心しちゃいますよ」

「うちの学校じゃ厳しい方だよな。でもあのぐらいはやらないと、勝てるチームにはならないんだよな」

 言葉を切った恭介は、隣の佳奈をこっそりと見た。ちょこちょこと歩く佳奈は、心から楽しげな佇まいである。

「ちょっと聞きたいんだけど、女子同士ってどんな話をしてるわけ? あの子と話す時の参考にするからさ」

 言葉を切った恭介は、期待を籠めて佳奈に顔を向けた。佳奈の表情は一瞬固まったが、すぐにいつもの笑顔に戻った。

「そうですね、やっぱり恋愛の話ですかね。でも好きな人とそういう話をするのは勇気がいりますよね。うーん、他の話だったら……」

 佳奈の話にじっくりと耳を傾けつつ、恭介は佳奈と隣り合ったまま校門をくぐった。

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