ボランティアだと思って!!

雪銀海仁@「演/媛もたけなわ!」商業連載

第1話

「源くん、ありがとう。どうにか全部埋められたよ。ほんとに助かっちゃったなぁ。神様仏様、源様って感じだよね」

 県立青嶋高校のテスト後の三年二組の教室。源恭介きょうすけは、前の席で半身になる椎名夏希なつきと向かい合っていた。

 気安い笑顔はいたずらな感じで、椅子の背に乗せた腕の近くでは、きめ細やかなショートヘアがさらさらと風に揺れていた。

「ああそう。そりゃあ良かった。またなんかあったら言ってきてくれていいよ。まあよっぽど暇だったら、だけど」

 心臓バクバクの恭介だったが、後頭部を人差し指で掻きながらクールな風に返事をした。

 すると夏希は、にこりと笑顔を大きくした。小さな口からは、きれいなわずかに八重歯が覗いている。

「ほんと? そんじゃあもうこれからどんどん頼っちゃうから。いやーつくづく、持つべきものは親切なクラスメイト、だよね」

 楽しげな調子の夏希の台詞に、「ああ、うん。時間があったらだけどな」と恭介はぼそりと返事をする。

視線は当然、教室の隅。夏希は眩しすぎて、直視できるはずがなかった。

 六月の頭の席替え以来、夏希は頻繁に後席の恭介に話しかけてきていた。

 恭介が壁を作る一方で、「源くん。君って尊敬する人っている?」とか「髪切ったんだけど、かわいいかな?」とか、かなり突っ込んだ内容の話題が多く、恭介は混乱半分、嬉しさ半分といった感じだった。

 陸上部、短距離のエースで、男女関わらず友達の多い夏希。勉強はあまりできないけどそれを隠すでもなく、前向きに明るく生きている。

 夏希は優しくて綺麗で快活で、クラスのどの女子よりも女の子していると恭介は思う。できればずっと、一日中でも見ていたい。

 だけど女子というのは、根本的に男子とは違う生き物だ。男よりも強固な友達グループを作るし、よくわからない男と妙に打ち解けるし、何より……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る