第67話 ぷち村長

 プチ・マ・スライムの村にやって来たレインスとシャリア。彼らの前に現れた村長は挨拶もそこそこに本題を切り出してきた。


「あなた達にお願いがあります」

「……何でしょうか」

「悪いスライムが最近、多いのです。一緒に倒しましょう」


 その言葉にレインスは我が意を得たりとばかりに少し気分を上げるが、自分たちを安く買われないよう、そのことを表に出さないようにしてプチ・マ・スライムの村長に質問する。まずは情報収集が優先だ。


「悪いスライムとは?」

「黒くて、嫌な感じのする大きなスライムです。人間にも被害が出ているようですがわたくしの村の小さい子がいっぱい食べられています。そして、食べた子どもたちを黒いスライムに変えて操ります」

「……それが現れたのはいつ頃?」

「いつ、とは?」


(流石に魔物に時間の概念は難しいか……)


 ソリッドスライムの活性化や件の黒いスライムの活動と魔王の目覚めの関連性を図りたかったレインスだが、それは失敗に終わる。仕方がないのでレインスは別の質問をぶつけた。


「その黒いスライムとソリッドスライム……この子たちが倒していた固体スライムの関係性は?」


 ふぃー、すぃーと呼ばれたぷち様たちを示しながらそう尋ねるレインス。村長は淀みなく答えた。


「黒いスライムが増やして操っています。敵の手先です」

「なるほど……因みに黒いスライムはどれだけいるかは……」

「いっぱいいます」

「そんなに?」


 驚くレインスに村長は頷いて見せる。


「はい。魔素溜まりから出て来ます。また、子どもたちも犠牲になって悪いスライムにさせられています。よっていっぱいです」

「そっか……」

「そのため、シャリアさんにお願いです。共に戦いましょう」

「わかったのです!」


 深々と頭を下げる村長に快諾の意を示すシャリア。レインスとしてはもう少し中立な立場の状態で情報等を引っ張りたいところだったが、やむを得ないと割り切って話を次に移す。


「黒いスライムはどうやったら倒せる? 魔素溜まりを潰せばいいのかな?」

「黒いスライムは普通に倒せます。倒した後の魔素が問題です。黒いスライムを倒したら私たちが魔素を食べます。もしくは、シャリアさんが整えてください」

「出来るの?」

「……? 出来ますよ? 前にシフォンさんがその悪いスライムを倒した時も一応やってたのです」


 寧ろなぜできないと思ったのか、そう言わんばかりの仕草だった。その様子を見て村長がもっともらしく頷く。


「流石です」

「そんなに大したことはしてないのですよ……?」

「褒められたんだから素直に受け取った方がいいよ」

「あ、ありがとうなのです?」


 謙遜ではなく本当に何故褒められているのかよく分かっていないらしいシャリアをレインスは宥める。こんなところで揉めている暇はないのだ。今は相手が友好的だが、相手は魔物。気分が変わるかもしれないため今の内に情報を出来る限り集めたい。


「その黒いスライムっていうのは、どうやったら倒せる?」

「敵の手先と同じです。ただ、黒いスライムは魔術を使うので厄介です」

「どんな魔術?」

「個体に依ります」


 その後も幾つか質問していくレインス。得た情報からして、基本的にはそれほど強くなさそうであることが判明するがいかんせん、数が多いらしい。


(数は力だからな……)


 その辺りのことは理解しているのであろうプチ・マ・スライムたち。レインスはその黒いスライムが人類にとっても脅威であることを認めて頷いた。


「じゃあ、一緒に戦いたいと思うんだけど……他の人にどうやって説明しようか」


 共闘するに当たって問題なのはそこだった。基本的な人類の考え方……特に教国の人間としては魔族と魔物は悪なのだ。魔王討伐の旅で色々と経験したレインスやヨーク種のシャリアとは違い、見敵必殺か敵前逃亡かの二択を選ぶのが至極当然の行動になる。


「悩んでいるようですが、どうかしましたか」

「……共闘するに当たって、人間側にどうやって説明すればいいのかと思って」

「わたくしたちを攻撃しなければ好きに戦っていただいて構いません。魔素を食べるのは黒いスライムを倒した後なので大丈夫です」


 首を傾げながら簡単そうにそう告げる村長。それに対してレインスは言った。


「それが難しい。普通の人間は魔物を見たらFight or Flightの選択行動に出る。別の魔物がいるからといって一緒にやっつけてしまおうとは思っても一緒に戦おうとは思わない」

「Fight or Flight……?」


 レインスの言葉の意味を問うシャリア。レインスも少し難しい言葉だったかと思い直して軽く説明する。


「目の前の恐怖に対して戦うか逃げるかの二択になるってこと」

「ぷちちゃんたちは怖くないのです。お話も出来るし、いい子たちなのです」

「そりゃあシャリアみたいに強ければ大体の相手は怖くないさ。でも、普通の人は違う。シャリアが簡単に倒してたソリッドスライムでさえ脅威になるんだ。ましてそいつらをいとも簡単に倒せる魔術を使う魔物ともなれば……分かるよね?」

「……じゃあどうするのです?」


 レインスの言いたいことが分かり、困り顔になりながらレインスにそう問いかけるシャリア。彼女はここに至ってようやくレインスが何か言う前に二つ返事で村長の依頼を受けたのは軽率だったかもしれないと思い直していた。一方、レインスの方はそこまで悲観していなかった。


「まぁ、難しいとは言ってもぷち様に関してはギルドで噂になってるくらいだし、受け入れてくれる可能性もあるにはあるはず……と思う」

「大丈夫なのです?」

「……問題はぷち様じゃない普通のプチ・マ・スライムの方だなぁ……ぷち様の方は町の噂になっている上、人型だから黒いスライムと見分けがつきやすいけど……申し訳ないけどプチ・マ・スライムとソリッドスライムは遠目に見たら似たようなものに見えるから」


 魔素を食べるという役割を果たしてくれるプチ・マ・スライムたちに攻撃が行くかもしれないと心配するレインス。そんな彼に対して村長は言った。


「子どもたちには危ないので此度の戦に参加するのはわたくしたちヒューマノイドの五名を予定しておりますが」


 村長の言葉にレインスは頷いた。


「黒いスライムの魔素溜まりってそれだけの数で何とかなるものなのか?」

「わたくしたち、こう見えてもよく食べるのです」


 えっへんとばかりに薄い胸を張ってみせる村長。レインスは村長の言葉を信じることにした。


「五体だけ、しかもぷち様に進化してるか。それならギルドに今の話を説明すればいい」

「そ、そんなに簡単でいいのです? レインスさんが心配してたことは……」

「勿論、根回しは必要になると思うけど基本的には大丈夫だろ……」


 そうは言うもののレインスは少し思案する。


(ただ、子どもだからという理由でギルド員たちに話を信じてもらえないかもしれないんだよな……この辺りは……そうだな。話が分かりそうな人を頼るか)


 急に黙り込んだレインスをじっと見つめるシャリア。村長もよくわかっていないがシャリアを真似てレインスのことを見ていた。そんな彼女たちに対してレインスは告げる。


「そんな顔しなくても大丈夫だ。取り敢えず、目星はついたから」

「大丈夫なのです?」

「あぁ、まずはコネを辿ってみることにする……」


(ギルドに話を通すため、まず最初に行くのはあの人たちのところだな……)


 コネ? と首を傾げるシャリア。そんな彼女に対してレインスは言った。


「ベルベットさんたちのところに行ってみよう。実力主義の精霊騎士なら……いや、シャリアの実力を理解しているあの人なら話が通じる可能性が高い」


 そう言ってレインスは村長たちにこれからの予定について話し始めるのだった。



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