第53話 接待


 太陽がすっかり天に昇り、学園都市内にも活気が出始めた時間帯。レインス達はレインスの家を出て学園都市内の散策に出ていた。


「何か、色々と大きいわね」

「そうなのです」


 ヨーク姉妹のリティールとシャリアは物珍しそうに周囲を見つつ、レインスの傍から離れないように少しだけ宙に浮いていた。それらの少し後ろから勇子が全体を見ている。


「じゃあ、取り敢えずシャリアに好評だったアイスクリームから食べよう」

「あいすくりん? 何か本で見たことあるわ。冷たい食べ物ね」

「お姉ちゃんは知ってるのです? 流石なのです」

「まぁね」


 シャリアの言葉に得意気にするリティール。そんな姉妹にレインスはシャロからおすすめされたアイスを買って渡す。勇子もその後ろでレインスおすすめの店ということでアイスを買ってみた。


「あ、美味しい。レインス、美味しいわよこれ」

「うん。中々だね……ちゃんとしたアイスクリームだ」


 どうやらご満足いただけた様子。ついでにシャリアもデスゲルキアの時とは違う味のものを試してみてご満悦のようだ。


「それで次は?」


 大口を開けて豪快にアイスクリームを食べ終えた勇子が仲睦まじく食べ比べをしている姉妹を尻目に次を促す。


「え、図書館を見てもらおうと思ってるけど」

「ふーん……二人って字、読めるのかな?」

「読めなかったら俺が教える」

「へー、ほー、そうなんだ。ふーん」


(何だその態度は……)


 次の場所を問われて答えたら何かイラっと来る態度を取られたレインス。彼女がそういった態度を取った理由は不明だが小突きたい気分だ。そんなことを考えているレインスに対して勇子は呟く。


「なーんかなぁ。僕がレインスに優しくしても冷たいのになぁ」

「……なんかごめん」

「いーよ別に……」


 どうやら勇子は自分にだけ当たりの強いレインスを見て拗ねているようだった。子どもかと突っ込みを入れたいところだが、レインス少年は中身が大人なので言いたいことを呑み込んで謝っておく。応急処置的な仲直りだ。


「じゃあ図書館に行って、その後昼食。そして……」


 そう続けようとしたレインス。だが、その前に声が掛けられた。


「あ、レインスじゃないか」

「……ライナス! 久しぶり」


 声がした方を振り返るとそこに居たのはレインスの兄であるライナスだった。彼はレインス達一行を見ると軽く挨拶してからレインスに声を掛けて来る。


「何か邪魔してごめん。すぐ行くから」

「いやいや、紹介位はさせてよ。こっちはライナス。俺の兄さんで凄い強い」


 レインスの紹介に苦笑しながら自分でも名乗るライナス。レインスの紹介の仕方が気になったのか、リティールたちも少し値踏みするような目でライナスを見た。


「へぇ……リティールよ」

「シャリアなのです。リティールお姉ちゃんの妹なのです」

「……それでライナスは何か用?」


 自己紹介する中で既に知り合いの勇子がそう尋ねるとライナスは頭を掻きながら笑った。


「いやー……ユーコさんの魔力があったんで、ちょっと稽古つけてもらおうかなと思って来てみたんですけど……忙しそうなので」

「うーん……どうしよっかなぁ……今日はレインスの様子を見に来たんだけど、元気そうと言えば元気そうだし……」

「行ってきたら?」


 簡単にそう告げるレインス。シャリアとリティールも同意見のようだ。しかし、勇子は微妙な顔だ。レインスとライナスを見比べて首を傾げている。


「んー……まぁ、いっか。じゃあレインス。僕はちょっと行って来るけど夜には君の家に戻るから」

「はーい」

「じゃあ行こっか」

「はい!」


 嬉しそうな顔をして勇子を連れていくライナス。その影が完全に見えなくなった後にレインスはシャリアに探知をお願いしてその網にも引っかからなくなったことを確認してから息をついた。


「流石は俺の頼れる兄貴。面倒臭いのを喜んで引き受けてくれた。感謝だね」

「……両方に対して酷い言いようね。まぁいいわ。それで、図書館に行くんだったかしら? 別にリアも文字は読めるわよ」


 酷い言葉を聞いて呆れるリティール。しかし彼女もすぐに切り替えてレインスに次の目的地に着いて問いかけた。ついでに次の目的地に関連する情報をつけ加えるとレインスはあっさりと頷く。


「あ、読めるんだ。因みに本を読むのは好きな方?」

「まぁまぁね。ただ、最近はゴーレムが出て家に籠りっぱなしだったから外の方がいいかしら?」

「あーそっか。じゃあ……広場とか闘技場とか訓練場とかにしようかな……」


 里の中にこもりきりだったという話を思い出して外にある開放的な色々な設備を見せて回ることにしたレインス。一先ず、近くにある広場を通って闘技場を目指すことにした。


「広いのです」

「そうね……まぁ、何のためにあるのかよく分からないけど。レインス、あの大きな銅像は動いたりするの?」


 広場の中央にある大きなシンボルマークである学園都市の創始者と言われる異世界からの客人まろうどを模した銅像を見上げてリティールがそう問いかける。それに対してレインスは苦笑した。


「いや、動きはしないかな。あの銅像は待ち合わせとかに使うもので、広場は災害時の避難場所とかに使う場所かな」

「ふーん……」


 待ち合わせは会う約束さえしてしまえば魔力で探知できるし、災害時にも優秀な魔術と装備で対処できるヨークにはよく分からない感覚らしい。この大陸では地震もないため、森の中の災害と言えば火災くらいで、それも魔素の濃い未開の森では長時間燃え続けることはないので彼女たちにとってはどこか遠い出来事だ。


「で、闘技場。ここは決闘とかをする場所だけど……まぁあんまり関係ないかな」

「ふーん。中々強い結界が張られてるじゃない」

「確かに観客の保護のために強力な魔術壁が展開されてるね」


 二つの場所を案内したところでレインスはリティールとシャリアの関心があまり惹けていないことを理解する。彼女たちの興味を惹けたのはアイスクリームくらいだろうか。


(広場の銅像とか結構大きいから見ごたえあると思うんだが……まぁ、ヨークからすれば何のために作られたのかが気になるところで、為政者のただの権力誇示とかだとつまらないんだろうな……)


 観光案内はされる側でする側は滅多になかったレインス。各場所ごとにもう少し学園にまつわるエピソードなどを交えて紹介すればいいのだが、自身があまり興味がないためそれが出来ない。


「んー……じゃあ、劇でも見る……にしてはお昼時だな」

「お昼? じゃあ甘いもの食べましょう」

「……シャリアもそうだけど、ご飯はご飯で食べてデザートとして甘いものを食べる方がいいんじゃない?」

「私たちあんまりご飯食べないもの。どうせ食べるなら好きなものにしなさいってフミミが言ってたし」


 軽く遺言に触れられてレインスはちょっと黙った。だが、すぐに気を取り直して言った。


「じゃあ、ケーキセットが美味しい喫茶店に行こうか。食事もできる場所知ってるし」

「そうね。じゃ、案内してくれる?」


 そして一行は喫茶店に向かう。リティールがチョコレートケーキ、シャリアがシフォンケーキ、レインスがカルボナーラを頼んでしばし待つ。


「ケーキが足りなかったら追加で頼んでいいよ」

「そうね。それじゃあお言葉に甘えてリア、何がいいかしら?」

「すふれとかいうのは何なのです?」

「……何て言うか、甘くてふわふわした感じのケーキなんだけど……説明が難しいから食べてみたら?」


 二人でスフレ・フロマージュを食べることにしたらしく、それも追加。しばらくして出てきたのは学生向けのそれなりに食べ応えのあるメニューだった。


「美味しいわね。まぁ、紅茶はリアが淹れてくれたものの方が美味しいけど」

「おいしいケーキも作れるようにがんばるのです」

「はは……オーブン買わないとな」

「はたらいて自分で買うのです」


 逞しいシャリア。至福の時間を過ごした後は観劇に向かう。流石は学園都市というか、文化の町だけあって中々見ごたえのある劇が見れた。因みに演目は先代勇者の冒険譚だ。


「……あの魔族、ムカつくわね……全部焼き払えばいいのに」

「!?」

「お姉ちゃん、お芝居なのです。落ち着くのです」


 途中、魔力の高まりにレインスが焦る場面もあったが、ここでもヨークの姉妹は満足してくれたようだった。


 その後、市場で小物や里へのお土産品などを色々と買ったり、気になる物を買い食いするなどのイベントをこなし、レインスはリティールを満足させることに成功するのだった。



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