第52話 文化違い

 取り敢えず、リティールとシャリアの身元保証人の件は勇子のお蔭で何とかなったレインス。彼は美少女同士が会話に花を咲かせている中に割って入り、今日の予定について話す。


「えーと、今日はどうするわけ? 予定通り、外に出て遊ぶってことでいいの?」

「うーん、僕はそれでいいけど」

「私もそれでいいわ。リアが暮らすところですもの、しっかり見て回りたいわね」

「私もそれでお願いするのです」


 意見は外に出ることで一致。しかし、少し時間が経ったとはいえまだ時刻は朝。朝市があるとはいえ普通の店で開いている場所は少ない。レインスがそう伝えるとリティールは自分の用件を果たし始める。


「それじゃあ、リアの荷物ここに持ってくるわね。レインスも手伝って」

「お姉ちゃん、私にもレインスさんに見られたくないものがあるのです。自分でやるのです」

「あ、あらそう……? じゃあ、レインスはいいわ。私たちでやるから」


 クローゼットの中から色々と荷物を宙に浮かせて運んでくるヨーク姉妹。その様子を見ていた勇子が驚きの声を漏らす。


「うわー……何か魔法使いの引っ越しを見てる気分」

「気分も何もその通りだと思うけど」

「凄いね。アイテムボックスも便利だったけど、そういう次元の話じゃなさそうだよねこれ……」


 同意を求めて来るがレインスはアイテムボックスを知らない態でしらばっくれておく。そうこうしている内に魔法使いさんたちのお引越しは終了したようだ。


「……これでよし、なのです」

「後は思いつく分をもう少し買い足せばいいわね」

「なのです」


 クローゼットの中はシャリアの服で半分以上が埋め尽くされた。山奥の里の割に中々おしゃれさんだったようだ。シャリアはその内の一着を取り出すと闇を周辺に纏い、着替え始める。


「うわ、斬新だね……衝立とか用意すればいいのに」

「こっちの方が早いのです。でも、あんまり見ないでほしいのです……」


 闇を身に纏いながらも恥ずかしそうにするシャリア。随分と贅沢な魔力の使い方だと思いながらレインスは視線を逸らした。その先でリティールが頷いている。


「……何で頷いてんの?」

「破廉恥な行為に出ないように自制するのはいい事だからよ。ユーコ、あんたも同性だからって見過ぎないの」

「……あぁ、そういうこと」


 注意された勇子は別に変なことは考えてないしと言いつつ視線をリティールの方に向ける。そしてしみじみと呟いた。


「それにしても二人とも可愛いねぇ……」

「何よ急に……」

「いや、レインスが間違いを犯さないか心配で」

「おい」


 突っ込みを入れるレインス。だが、勇子は至って真面目だ。


「いや、本当に。こんなに可愛い子たちと一緒に暮らすんでしょ? 大丈夫かなぁ」

「リア、レインスの奴が変な真似しようとしたらやっつけちゃいなさい」

「レインスさんはそんなことしないのです」

「シャリアだけか俺の味方は……やっぱりシャリアは俺の、んっんん」


 内なる貴公子さんが出て来そうになって慌てて誤魔化すレインス。今、変な真似をすれば勇子からの疑念の目が向けられること間違いなしだ。今の時点でレインスに向けられているリティールからの変な視線については気にしない方向だ。噛んだことにして誤魔化しておく。その間にシャリアの着替えが済んだようで闇が晴れる。

 

「可愛い服だね。人里離れた場所に住んでるって話だけど、どうやって作ってるの? それ」

「魔晶石を魔力で加工して作ってるのです」

「え、じゃあ重い?」

「? 軽いのですよ。持ってみるのです?」


 シャリアの服に興味津々な勇子にシャリアはクローゼットの中から別の服を持ってきて渡して見せる。


「……軽くて丈夫そう」

「その通りなのです」

「逆に人間はどうやって服を作るのよ」

「え? この世界だと……植物とか、動物の毛とかで作るんじゃないかな?」


 どうなんだろうという視線をレインスに向ける勇子。レインスは頷いた。するとリティールは呆れたような顔をする。


「そんなんじゃ魔術が飛んできた時に燃えたり切れたりするじゃない」

「……それが人間の普通だから」

「そうなの? 不便ね……レインスの服ぐらいならヨークで面倒看てあげましょうか?」


 どうやら善意で申し出てくれたらしいリティール。しかし、そんな凄いものを装備していれば目立つのでレインスは適当に断っておく。


「いや、成長期だから今着てる奴でいいよ」

「せーちょーき?」

「これから凄い勢いで大きくなっていくってこと」

「……もうそれなりに大きいと思うけど?」


 首を傾げるリティール。そんな彼女に勇子が答えた。


「レインスはこれで子どもの姿なんだ。今は可愛い子どもだけど、大人になると格好よくなるよ」

「ふーん……」


 どこかつまらなさそうに納得するリティール。どうやら彼女はレインスがこの状態で大人だと思っていたらしい。だが、その態度が勇子は気に入らなかったようだ。


「いや、本当にかっこよくなるんだって」

「別にそこは疑ってないわよ……」


 戦ってる最中に実際に見たことあるし。そう続けようとしてリティールはその言葉を呑み込んだ。しかし、それでは勇子は納得してくれない。いかにレインスが格好良かったかを力説し始める。それで困るのはレインスだった。


「……この人ちょっとおかしいから」

「そんなことないと思うのです。多分、本当に格好いいと思うのです」

「リア……ま、まぁそうなんじゃないの?」

「分かってくれたならいいよ」


 勝手に美化されて後で実態を見られてがっかりされるのは自分なんだと億劫そうな態度になるレインス。不貞腐れながらレインスはリティールに確認する。


「それで、リティールは甘いもの好きってことでいいんだよね?」

「……まぁ、そうだけど」

「じゃあ期待してていいよ」

「べ、別にそういうのが目的で来た訳じゃ……」


 そう反論するリティールだがシャリアによって宥められる。それを見ていた勇子がレインスに尋ねた。


「そう豪語出来るってことは僕も期待してていいんだよね?」

「いや、ユーコさんは知らない」

「何でそんな冷たいこと言うんだよレインス~僕たち仲間だろ~?」

「いや、知らない」


 頑として譲らないレインス。異世界生まれという下地がある彼の舌は非常に肥えており、レインスでは測れないのを知っているからこその予防線だが、そのことを知らない勇子にとっては冷たく感じられた。


「はー……命の恩人に対して冷たいなぁレインスは。もうちょっと優しくてもいいと思うんだけどなぁ?」

「だって、色々しつこいんだもん」

「はぁ~……」


 内心では本当に申し訳ないと思いながらも何も知らない糞ガキを装ってそう告げるレインス。勇子は大袈裟に溜息をついてリティールとシャリアを見た。


「ね、酷いと思わない? もうちょっと優しくしてもいいと思う」

「……んーでも、確かに身元証明書をタダで書いてくれる辺りいい人みたいだけど、レインスは何で嫌がってるの?」

「強引だから。今日だって何の事前連絡もなく朝早くに合鍵持って勝手に入って来てこれだよ?」

「……いや、心配だったし。一応、この学園じゃ保護者代わりだからね? 僕」


 少し目を逸らしてそう答える勇子。彼女の元居た世界ではストーカーが行う分類の行動に入ってしまう行為に手を染めているのは自覚していたらしい。そんな彼女にレインスは追い打ちをかける。


「っていうか、誰から家に戻ってないなんて変な噂聞いたの?」

「まぁ、色々と、伝手で……」

「微妙に後ろ暗いことをしてる人の言い方ね……レインスの警戒も仕方ないんじゃないかしら?」

「うぐ……」


 リティールの呆れながらの言葉に反論できない勇子。この後もしばらくこの調子で楽しいお話会を続けることで外の店が開く時間になるのだった。






 

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