霊藤有真は必ず帰る

新聞師文士

第1話 お化け屋敷でアルバイトをしています。

「七時半か・・・。」


スマホの画面を見ながらつぶやいた。今起きなければバイトには間に合わない。

でも、


「うわあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ


どぅわあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


主人公に追い詰められた敵キャラが禁断の魔術を使い、我を失って暴走したかのような叫びをあげる。

俺はただ、ただ、起きたくなかっただけなんだ!起きたくない!起きたくないよ!


大学生になっても、彼の寝起きの悪さは変わらなかった。

学生時代いつも遅刻ぎりぎりで登校して、「でも俺遅刻は人生で一回もしたことないから(笑)」とかいっていた人間の末路がこれだ。

情けない。……いや別にそうでもないな。

これはこれでいいや。個性♪個性♪俺ってばこれ以外のことはちゃんとしているからね(?)。

ひとつぐらい悪いところがあったほうが好感持てるし。

俺の朝の弱さを女子は知らないから俺はモテないんだなあ。

そうだよなあ。ははははは はは歯歯歯 は葉葉 は母。。。。。。。。


どうでもいい話はさておき。ようし時間だ、起きるぞ!時間がやばいんじゃないかって?7時50分?あと10分で出発?できるよ!無理だけど!


 いろいろあったが今日も無事にバイト先に間に合った。

俺の名前は霊藤有真らいとうゆうま

長野県内の国立大学に通っている大学1年生。

今日は休日なので午前中はずっとバイトだ。

俺は東京からやってきて4月からずっとこの遊園地「川中島スーパーランド」のお化け屋敷でアルバイトをしている。

そう、お化けになってお客をどんどん驚かしてゆくのさ!4月ではまだお化け初心者だった俺は、まじめな性格も相まってメキメキと力をつけてきた。

なんと今ではネットで「川中島スーパーランドには本物のお化けがいる」「最後に出てくるあの幽霊やばい。」「オーラが違う。あれは本物(怖)」とかいわれたりしていて、テレビが取材に来たこともあるんだ。

リアル幽霊とか言われて都市伝説にもなったんだぜ。半年で。

こっちがびっくりするぐらい客が驚いてくれたときはやりがいをすごく感じるし、逆に全然驚かなかったときは、ふざけんなもっと驚けよこっちは仕事でやってんだよ二度とくるな貴様ァァァなーんてさすがに思わないけど、落ち込んじゃうんだ。

他にもちびっ子を号泣させて罪悪感にさいなまれたり、小学生に蹴られたり鼻水つけられたり、嫌なこともたくさんあるけど、このアルバイト結構充実して楽しいんだ。


 ということで本日一発目のお客様は20代くらいの男性1人。

さっきチラッと見たら、なんか無表情で、すっごい嫌な感じがしたなあ。

なんでだろう。でもいたんだよなあ新人のころ「全っっっ然怖くないじゃねえかよバーーーカ(笑)こんなチョロい仕事俺でも出来るわ」とかいう奴。そうじゃないといいなあ。

くそっっ想像するだけでムカついてきた。平常心平常心。

やったろか?(怒)勝負したろか?(憤)どっちが客驚かせられるかやんのかコラんぁあああ?(睨)ふうぅぅぅ・・・。

よ死!落ち着いて鬼たぞ!今日も楽死みSHI★GO★TO


9時30分。川中島スーパーランドお化け屋敷「幽霊教室」オープンです♪


 ー数分後ー


 俺のひとつ前の廊下担当のお化けが本日初仕事を終えた。

今のところあの男性客が驚く声がまったく聞こえない。

お化けたちは見事に玉砕していったようだ。

これは手ごわそうだぞ。


コツ・・・。コツ・・・。コツ・・・。


客の足音。10mぐらいの近さにいる。


コツ・・・。コツ・・・。コツ・・・。コツ・・


今だ!!!


「ぎゃああああああああああっぉぉぉぉおぉぉぉぉっぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!」


これは俺の声。まずはこの世のものとは思えないような声を出して振り向かせる!そして


「ヵェシテ・・・。かえして・・・・・。かぁぁぁえぇぇぇぇしぃぃぃぃてぇぇぇぇえええええ!!!!」


とどめの台詞だ!どうやら俺のこの台詞を聞くと、言葉では表せないような恐怖感、寒気、焦りが人を襲うのだそうだ。先輩に言われた。


どうだ!お化け屋敷界のダークホース、霊藤有真の実力はわかったか!


俺は客を見てみた。すると、


「ウソだろ・・・。」


思わず声がこぼれ出た。俺がネットで取り上げられたり、テレビに取材されたりしたときからは、お化けの俺に出くわして驚かない奴なんていなかった。

なのに、目の前の男はピクリともせず、無表情で俺の前に立ち、なめるように全身を見てくる。


「ほお。が幽霊の格好をしてお化け屋敷のスタッフか。おもしろいな。」


全然面白くなさそうに男は言った。は??何言ってんのこの人?


「ああ・・・。えっと・・・。」


男の発言が理解できず、ただその場で立っていることが精一杯だった。


「まあいい。やっと自分の力で見つけたんだ。この世からは消えてもらうぜ。」


「見つけた」?「この世」?「消えてもらう」?え?俺を?


「もちろん。」


心を読まれた?口に出していた?いやどうでもいい。うんっ!きにしないきにしない。


「あの・・・後ろのお客様が追いついてしまうので、このまま出口までお進みいただけますか?」


よし。神対応。お化け屋敷は接客業ですからね!お客様への対応もばっちり!


「とぼけても無駄だ。お前が幽霊だということはわかっている。見りゃあわかるさ。いや、そのオーラ。見なくてもわかる。」


スタッフのいうことを聞いてください。お願いします。


「まさか自覚していないのか?いやそんなこと・・・。まあいい。時間もない。」


男はスマホを取り出した。


「人界追放の儀 開!


 然便用亭千間層最語誤居魚泉康菜産唱清巣側停堂得敗版帳笛転都動部貨算門界迷黄黒細魚教強週雪船組鳥野理悪球祭習終宿章商進苦朗際言有命時深族第健票副望陸移液眼規基械救陣寄許経・・・」


ついにはスマホ見て独り言始めたぞ!どうしよう!本当にどうしよう!


「・・・燃生激憲鋼樹縦曇操糖奮緯憶穏壊懐諧骸獲立還凝錦薫憩賢錮衡墾江獣壌嬢錠薪醒薦膳那緻彊餐錨諦賭諸親頭積録衛興築衞謁薗野蹄薙瓢蕗憐橙燒篤曇濃薄縛戸田壁安縫膨謀頰磨麺諭融擁謡頼上隣隷錬鮎伊謂窺


 人界追放の儀 閉!」


先輩呼んでこよっかな・・。うん。そうしよう。


「すいません。ちょっと上司のところへ行ってきます。」


「霊界門開放!」


そのときだった。視界が真っ白になって意識が遠のいていく。

体が浮いている。

なんだこれ?

夢?

体調悪かったかな今日?

ああ・・・・・・


「この世界は、人間だけで十分なんだよ」


そんな言葉が聞こえた気がした。

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