「さようなら」は言わない

シュート

第1話 川口との再会、由香そしてさとみ

                 一

 京都駅を出発した新幹線は、鈍色の空の中を徐々にスピードをあげて行く。

 幸い、グリーン車は空いていて、窓側に座った畑中良太の横の席は空席だった。営業活動で、つい先ほどまで残っていた緊張感をほどき、ゆったりと窓外を眺める。流れゆく景色が、橙色から濃紺に塗り替えられ、ほどなく漆黒の闇に変わって行く。

 新幹線に乗る前に、専務の大垣に新規の受注に成功したと電話したら、『社長やりましたね』と、ひどく喜んでいた。しかし、『やった』のは、この数か月努力を続けてきた社員たちであり、自分ではない。そういう意味では、自分は人に恵まれていると感謝している。担当者ひとり一人の顔が浮かぶ。

 ちょうど通りかかった社内販売のワゴンを呼び止め、缶ビールを二缶とおつまみを買う。販売員の女性から受け取った釣り銭を財布に戻し、ビールのプルタブを開ける。泡が溢れる前に口でふさぎ、一口飲んだ後、座席前のテーブルを倒し、その上にビールとおつまみを乗せる。

 大きな仕事をやり遂げた安堵感からかビールが美味い。しかし、何かが終われば何かを始めなければならない。社長たる自分の役割は、次の『始まり』を見つけることだ。何も考えないでいられるのは、こんな移動時間くらいなものだろう。

 良太が起業してからもう10年が経つ。文学部出身の良太には、経営のことがわからなかった。会社を始めるにあたって、簿記などの最低限の勉強はした。しかし、実際に経営を始めると、予期しないことばかり起きた。初期には、優秀な社員が次々辞めてもいった。この時は『リーダーシップ』や『人事・労務管理』の本を読んだ。ライバル会社とのし烈な競争に巻き込まれた時は『経営戦略』の本を読んだ。しかし、こうした経営書は、外してはいけない基本は教えてくれるが、自分の会社の答えを教えてくれるわけではない。結局のところ、幾度もの失敗を経験しながら、自社なりの答えを見つけてきている。

 気が緩んだ時に飲む酒は酔いが早い。たった二缶のビールで気持ちがよくなり、眠気が襲ってくる。

 風景が途切れ途切れの断片になり、眠りと目ざめの境目を行ったり来たりしているうちに、暗い海に落ちた。

 瞼の裏側に現れたのは黒い蝙蝠のような得体の知れない生き物だった。暗い洞窟を飛び回るその生き物は、暗闇のその先にあるもうひとつの暗闇へ向かって、狂ったように猛スピードで突き進む。やがて、その生き物が私自身に変わっていることに気づく。私は、座席のひじ掛けにしがみつきながら必死で耐えようとしているが、体中の体液が波打っているような気持ち悪さに息が詰まりそうになる。

「間もなく名古屋」

 車内アナウンスで意識を取り戻す。

 何とも嫌な夢だった。誰かが仕組んで自分を貶めようとしているのではないかなどと考えてしまう。うまくいきすぎていると逆に不安になってしまうのである。つくづく、経営者というものの心の不安定さを思う。

 会社の経営者という人種に『安息』などない。経営は一瞬先に何が待ち構えているかわからないのである。だから、片時も息を抜けない。常に深い森を彷徨っているようなものだ。経営者の中には、意思決定に悩んだ時、占い師に相談する人がいるらしいがわからないではない。幸い、良太の会社は、今、順調に業績を伸ばしているし、プライベートもまあまあだ。しかし、こんな時こそ、落とし穴に気をつけなければならない。気を引き締めつつ、この先にたむろしてるかもしれない暗い影を追い払うように、今一度笑顔の社員たちの顔を思い浮かべて、気持ちを前向きに変える。

 窓を見ると、どんよりと重い色をした空から降りてきた雨が、窓に水滴を張り付けている。鏡になった窓に映る自分の顔を内側からなぞる。指の跡が、自分の形に残る。この分だと、列車が東京に着くころに、雨は本降りなっているかもしれない。

 しばらくして、列車は名古屋駅のホームへ滑り込んだ。多くの人が乗り込んでくる。空席だった良太の隣席にも背広を着た男がやってきて、荷物を網棚に乗せ、静かに座る。良太はその男を視界のすみに捉えはしたが、すぐに窓に目を戻す。窓の向こうの暗闇を見つめながら、今度は何も考えないようにしようと努める。

 ホームは列車を降りた人と見送りの人とでごった返している。やがて列車が走り出すと、車内の人に手を振る人たちの姿が目に入る。

 東京まで、あとに2時間弱だ。今度こそいい夢を見たいと思いながら、もう一度目を瞑る。

「あの~、すみません」

 目を開けると、隣席の男が良太の顔を覗き込んでいる。

「はい?」

 怪訝な思いに囚われながら答える。

「ひょっとして、畑中良太さんじゃないですか?吉田高校卒業の」

 吉田高校は確かに良太が卒業した高校だった。だが、隣席の男の顔から、知っている人物が浮かんでこない。

「私は川口学と言うんですが、思い当たりませんか?」

 その瞬間に緒も出した。高校時代、常に学年一、二を争う成績をあげていた優秀な男、川口学面影がそこにはあった。

「おおー、川口か。驚いたなあ、こんな偶然ってあるもんなんだな」

「いやあ、俺のほうもびっくりだよ。ふと横を見たら、畑中によく似た男が座っているんで。あんまり変わらんな畑中」

「そうか。よく見れば、そういうお前も変わってないよ」

「なんだか嬉しいな」

 少し前に見た悪夢を跳ねのけるような嬉しい出来事に、良太は思わず手を差し出して川口に握手を求めていた。川口もそれに呼応して手を出す。男同士の友情の確認だ。男なのに細くて繊細な川口の手に触れて、川口が高校時代に目指していたことを思い出した。

「やっぱり医者になったのか?」

「ああ、そうだよ」

 学会の帰りだという川口は、新宿にある大学病院に勤務しているという。川口も良太の仕事について訊いてきたきたので、簡潔に話す。しかし、お互いの仕事があまりにも違うため、会話は広がらない。必然、高校時代の話になる。二人は目指す方向の違いから、仲は良かったが一緒に話す機会はそれをほど多くはなかった気がするが、それでも共通の話題はいっぱいあった。東京駅に着くまでの間、会話が途切れることはなかった。

「じゃあ今度一緒に酒でも飲もう」 

 別に社交辞令ではなく、本気でそう言って別れたが、多忙を極める二人にいつその機会が訪れるかもまた不明であった。


                  二 

 長居していた冬が遠のき、ようやく春の気配が顔を出している。同じ気温でも、不思議なことに季節の移ろいによって体感は違う。今朝も決して高い気温ではなかったが、温もりを感じたのはそのせいだろう。

 いつもと変わらぬ朝を控え目に広げ、今日という日を始める。マンションのエントランスを出ると。管理人が手入れをしている花壇に咲くフリージアやベゴニアなどの花に、初春の淡い陽光が吸い込まれている。すうっと首筋をなでる4月の風はまだ少し冷たいが、花の美しさは良太の心を無条件に幸せにしてくれる。

 街を歩く人たちの中に、真新しい制服姿や背広姿を見かけるのも、この時期のこと。その表情には、未来に対する希望と、未来に対する不安を混在させた緊張感が浮かんでいる。自分にもそんな時期があったことを思い出す。一週間前に、良太の会社にも3年ぶりに大学の新卒者が二人入社が決まっていた。彼等を受け入れることについて、会社としての責任を痛感しながら、良太は会社に向かっている。

 最寄り駅から電車に乗って二駅過ぎたあたりから、背中に鈍痛が張り付き始めた。良太が背中に飼っている悪い虫は、時々思いついたように悪さをするらしい。耐えられないほどでもなく、いつの間にか消えていたりもする。

 良太が背中の痛みを意識するようになったのは、一年前位からであろうか。ちょうど大きなプロジェクトが始まった時であり、気にはなったが、実際のところそれどころではなかった。中小企業のわが社にとっては大きなプロジェクトだったし、その成否が今後の自社の命運を左右するといっても過言ではなかったから。

 大手も含む五社のコンペを勝ち抜き受注できたのは奇跡に近いと、今でも思っている。そんな仕事だったから、社長の自分だけでなく、社員全員が意気に感じてくれて、みな能力以上の力を発揮してくれた。おかげでプロジェクトは大成功で終わった。顧客企業からも高い評価をいただいた。この仕事の成功が、良太の会社の発展に繋がったことは確かだ。背中の痛みに勝る喜びだった。だが、その後も痛みは時々やってきていた。

 今日は、今年受け入れが決まった新卒社員の歓迎会と前年度の優秀社員の表彰式も兼ねた宴会が開かれる。優秀社員といっても、直接業績に貢献した人間だけでなく、裏方として支えてくれた女性社員たちも表彰するのが当社の習わしである。彼女たちのサポートなくして高い業績はあがらないからだ。良太としては、本当は全社員に感謝の意を表したいと常々思っている。今年も大盛り上がりの宴会となるであろう。

 今年は創業10周年に当たるので、その記念としてホテルの宴会場を借りて行った。一次会こそ落ち着いたものだったが、渋谷のバーを貸し切って行われた二次会は、お祭り騒ぎになった。多少羽目を外しすぎる者も出るが、この日ぐらいは大目に見る。社員たちが満面の笑みで、心から楽しんでいる様子を見るのは、社長の自分にとってもこの上ない幸せだった。だが、次第に疲れを覚えた良太は、今回の宴会の幹事でもある総務課長の竹中に後を任せ、一人早めに帰宅した。それでも、マンションの自分の部屋に着いたのは、午前2時を少し回っていた。

 身体はひどく疲れているが、精神が高揚していてすぐには寝られそうになかったので、いつもよりゆったりと風呂に入った。しっかり温まった身体ににタオルを巻いてリビングに戻る。冷蔵庫から冷えた缶ビールを出し、食器棚からお気に入りのグラスを取り出し注ぐ。コップを持ってリビングに行き、ソファに座って、一気に飲み干す。宴会の時に飲んだ酒は風呂に入ってすでに抜けていたので、実に美味い。

 毎日のように夜遅く帰宅する部屋を改めて見渡すと、そこは生活感のまるでない、がらんどうの空間のように思える。コンクリートの壁に囲まれた無機質な部屋のカーテンの向こうには、都会の孤独が暗闇に浮かんでいる。静けさが四方から押し寄せ、暗いほうに向かいかねない気分を吹き消すように、リモコンをとり、テレビを点ける。

 深夜の通販番組が、それまで支配していた静寂を一瞬にして現実に戻す。大きな音量とともに映し出された画面から目を逸らし、なんだかひどく頼りなげな手のひらを見つめながら、脳は一点について考えていた。

 これまでは仕事の多忙を理由に病院へ行くのを避けてきた。事実、そういう余裕はなかった。もし病院へ行き、自分が入院ということになってしまったら、会社の成長は停滞していたと思う。それくらい、会社における自分のウェイトは大きいという自負はある。

 それに、ずっと痛みがあったわけではない。痛みを感じない時もあった。そんな時は気のせいなのかとも思った。本当は仕事に集中していたからだけなのかもしれないのだけれど。もはや、その仕事も一段落した。もう仕事を理由づけにすることはできない。ずっと先送りにしてきた不安と恐怖に正面から向き合わなくてはならない時がきたと思う。良太は先日新幹線の中で偶然会った川口のことが頭に浮かんでいた。2杯目のビールを飲み干して、明日こそ、川口に電話すると心に誓う。

          

                 三

 途中渋滞にはまり、自宅マンションに着いたのは、午後10時を過ぎていた。もう少し早く会社を後にすることはできたはずなのに、いろいろな書類に目を通していて遅くなってしまった。創業時、仕事がなくて苦労した経験を持つ良太は、職場で仕事をしているほうが心安らかなのかもしれない。

 6階の2号室、つまり602号室の自宅ドアを開けると、すぐにハイヒールが目に入る。新井由香が来ているのだ。夕方に由香からメールが届き、『今日も行っていい』という文字を見た時、良太は一瞬迷った。このところ身体が疲れていて、今日は一人になりたいという思いがあったのと、由香が2日連続で良太の家に来ることについて、一抹の不安を感じたからだ。

「お帰りなさい。遅かったのね」

 良太の帰宅に気づいた由香が、リビングのドアを開け、こちらに向かって歩きながら言った。

「うん。途中渋滞にはまっちゃったんだよ」

「そうなの。お疲れ様です」

 自身では気づかなかったけれど、大儀そうな、迷惑そうな態度が出てしまっていたのだろうか。表情の曇った由香に言われる。

「ごめんなさい。迷惑だった?」

「いやいや、そんなことないよ。由香の顔を見られて嬉しいよ」

 慌てて否定した。

「それならいいんだけど。これでも私、小心者なんだから。良太に怒られるかと思ってドキドキしちゃった」

 そう言いながら、良太が持っていた鞄を受け取ろうと、両手を良太の前に出す。良太は無言で鞄を渡して、揃えてあったスリッパに足を通してリビングに向かう。その後ろに由香がつく。リビングはきれいに片付いていた。

「きれいになっているね」

「うん、掃除した」

 良太は背広の上着を脱ぎ、ネクタイを外してソファーに投げ出して座る。由香がそれを当たり前のように取り上げ、隣室の洋服ダンスに入れてくれる。

 LEDライトの白く清潔な光の中で流れるように行われる由香の、そのあまりに自然な行動は、自分にとっては心地よい眺めだけれど、それはすなわち由香に大きな期待を与えてしまっているような後ろめたさもある。良太の中では、由香との関係を今後どのようにしていくのか、まだ心に決めていないからだ。

「ねえ、山口さん、あの後もずっといたの」

 由香が会社を出ようとした時に入ってきたのが、取引先であるカネタ商事の山口道夫だった。おしゃべり好きの山口として、社内でも有名だった。総務部の由香は山口にお茶を出してから退社したので、気になったのだろう。

「今日も結構いたなあ。由香のこと、最近またきれいになったと褒めてたよ」

「あの人、誰にでもきれいって言ってるに違いないもの」

「おいおい、それはないよ。ああ見えて、案外正直な男だよ」

 良太も間接的に由香をほめたことになる。実は、良太も由香が最近どんどんきれいになっているのを感じていたのだ。リビングに戻った由香が、良太の正面に座る。当然ながら、会社で見せる表情とは違う。柔らかな表情の中にある色っぽい目に出会い、思わず目を逸らす。心の定まっていない良太にとっては、由香と真剣に向き合うのが怖いのである。

「由香、水割り飲む?」

「そうね」

「じゃあ、悪いけど食器棚からウィスキーを持ってきてくれる。僕が氷の準備をするから」

 あれは6か月前のことだった。新年会で飲み過ぎて正体をなくす寸前までになっていた良太を見て、専務の大垣が営業部の中村健二と由香に私を自宅まで送っていくよう指示した。二人の自宅は良太の住むマンションと同じ方向にあったからだ。それに、由香は総務部に所属しているが、社長秘書の役割も兼ねていたからである。

 中村と由香に抱きかかえられるようにタクシーに乗せられた良太であったが、次第に酔いは醒めていた。そのことに安心したのか、途中に住まいのある中村は降り、良太のマンションの少し先に自宅のある由香が良太を最後まで送り届けることとなった。マンション前でタクシーを降り、部屋まで由香の肩を借りてたどり着く。一瞬迷ったようであるが、由香は私の鞄から鍵を取り出してドアを開け、リビングのソファーまで私を連れてきてくれた。水が飲みたいとという私のために、コップに水を入れて私に差し出す。それを一気に飲み干して、私は一息ついた。その時、初めて目の前で心配そうな顔をしている由香を意識した。心に隙の出る危険な時間帯だった。

 良太は何も言わず、由香の手を取り、由香を強く抱き寄せた。突然だったし、良太の力が強かったせいもあってか、由香は拒絶する意思を見せなかった。倒れ込むように良太の身体の中に吸い込まれた由香を抱きしめながら、不覚にも良太は泣いていた。何が悲しかったのか、今では覚えていないが、服を通して感じられる由香の身体の女性らしい柔らかさが私を酷く感傷的にして、どこか子供じみた欲望を呼び起こしていたことは間違いない。

 あの時良太は由香を抱きながら、元妻の面影を抱いていたのかもしれない。

 良太の突然の涙に驚いた様子の由香は、良太を刺激しないように優しく受け入れてくれた。良太は、そんな由香がたまらなく愛おしくなって、貪るように唇を奪った。それがどれほど続いたのかはわからないが、二人が顔を離して見つめあった時、由香は『私、前から社長のことが好きでした』と告白したのである。その時、良太は自分のしでかしたことの大きさに気づいた。由香が自分に好意を持っていることはなんとなくわかっていた。自分も由香のことが気になっていたことも確かだ。

 しかし、良太の会社のように、それほど大きくない会社の社長と秘書役の社員が恋愛関係になることはご法度だった。だから、由香の告白に対して、『ありがとう』とは答えたものの、その日はキスだけで終わった。冷静になった良太は、部屋まで送ってくれた由香にお礼を言い、自分が淹れたコーヒーを共に飲みながら軽い雑談をした後、タクシーを呼んで由香を帰した。良太は由香とのことはそれで終わらせるつもりでいた。

 あの時告白しておきながら、由香のほうもその後は何事もなかったかのように良太に接していた。仕事ができる由香は、一切の無駄口をたたかず、てきぱきと処理していく。それが徹底しているため、有能だけど、時に冷たくも映る。そんな仕事ぶりのせいか、社内の他の女性社員ともうまくやっているようではあるが、少し浮いていることも確かだった。その後も由香からは一切のアクションがない。あの日の出来事は幻だったのではないかとまで思うようになっていた。だが、そうなると、今度は良太の気持ちが落ち着かなくなってきた。人間は勝手な生き物だと思うけど、あの日のあの時のあの告白の真偽を確かめずにはいられなくなったのである。

 良太は、総務部長の山根明子が不在なのを確認した上で、由香を社長室に呼び寄せた。山根明子は、まるで目の敵のように社内恋愛を嫌っていて、朝礼などあらゆる機会を利用して、わが社は社内恋愛を禁止していると訴えている。それは社長である良太の指示ではなく、本人の意思で行っている。以前社内恋愛で、総務部の優秀な女性社員が辞めたことが山根明子の逆鱗をかったのである。良太自身は社内恋愛を禁止にする必要性は感じていないのであるが、山根に以前の事件(?)のことを持ち出されると否定できないのであった。それでも、社内恋愛は起きることがある。好きになるのは止められないからである。そんな時も目ざとい山根は、ちょっとした兆候も見逃さず、止めさせようとするのである。46歳にもなって独身を貫く山根の逆恨みと陰で囁かれてもいるらしい。そういう意味では、山根も可哀そうだが。そんなこともあって、山根には気づかれたくなかったのである。

 社長室に由香を呼び出した良太は、資料を渡すと同時にメモを渡した。そこには、今夜空いていたら、一緒に食事でもしないかと書いてある。返事は良太の携帯にメールでしてほしいと添えた。当然ながら、社長の秘書役の由香は良太の携帯アドレスを知っている。 

 席に戻った由香から返事が来たのは、10分後だった。『お供いたします。どのようにしたら良いか指示してください』とあった。良太の誘いを、仕事上のものと受け取ったかのような由香の文面に、良太は自信を失いかけたが、自宅マンションからほど近いイタリアン料理の店の名と待ち合わせの時間を指定した。住宅街にあるその店は、芸能人なども利用する隠れ家的な店として有名だった。しかも、会社からは距離があるため、自社の社員に知られる心配はない。由香の住まいからもそう遠くないため、恐らく由香も知っているに違いないと選んだのである。案の定、由香から『そのお店なら知っています。では、その時間にまいります』とメールで返事がきていた。

 良太がその店にタクシーで乗りつけると、すでに由香は着いていた。予約していた個室に入ると、所在無さげに座っている香の顔に出会う。

「遅くなってごめん」

「いえ、こういうお店初めてなので、どうしたらいいかわからなくて」

 目の前にあるコップの水にすら手をつけていない様子だった。

「そうか。気を遣わしてしまってすまない」

「いえ、そんなこと…」

 なんとなくまだぎごちない。料理はすでに予約してあったので、さっそくウエイターを呼び飲み物を注文することにする。

「まずはビールでいい?」

「はい」

 ビールとつまみを注文し、ウエイターが部屋を出ていったところから会話が始まる。まずは様子を探る意味で、仕事に関連した話から入る。由香も神妙な顔をして聞いている。その後も探り探りで会話するせいか、二人の距離は縮まらない。良太は場の空気を変えるため、自虐話をして笑いを誘うことにする。幸か不幸か、自虐ネタはふんだんにある。すると、硬い顔をしていた由香も次第に柔らかい表情を見せるようになっていた。安心したこともあってか、この日も良太は飲み過ぎ、結局自宅マンションまで由香に送ってもらうことになった。タクシーの中で、そっと由香の手に触れてみるが、拒否されることはなかった。

 由香に抱きかかえられるようにリビングまでたどり着き、ソファーに座り込む。決して計画した訳ではなかったが、新年会の夜と同じ状況になっていた。まるで、あの日の夜の欠片が残っていて、運命が特殊な時間を与えてくれたようだ。良太は、傍で心配そうな顔を見せながら立っている由香の手を掴み、抱きすくめようとしたが、由香は抵抗を示した。

「僕のこと、嫌いか?」

「私は好きです。でも社長は何も言ってくれません」

 そう言えば、新年会の夜も、自分の思いは伝えていなかった。

「もちろん、僕も好きだよ。ただ、僕は結婚できない。女房と別れた時、二度と結婚しないと決めたんだ。それでもいいかい」

 今考えると、こんな大事な時に、なんと身勝手なことを言ってしまったのだろうと思う。それなのに、由香は興覚めした様子も見せずにはっきり言ったのだ。夜は人を寛大にするのだろうか。

「そんなこと、私にはどうでもいいことです」

 由香の墜落死のような覚悟に、良太の気持ちは固まった。

「そうか、ならおいで」


                  四

 まだ五月だというのに、このところ夏のような暑い日が続いている。異常気象のせいだろうか、年々地球の温度が上がっているのかもしれない。太陽の光がレースのカーテンと戯れている。

今日は病院に行く日だった。覚悟したはずなのに、組んだ腕の透き間で心がかすかに揺れる。ねっとりと流れる時間を振り切り、はじかれたように立ち上がる。

 良太は、病院の待合室で友人の医師の川口を待ちながら、あたりを見回す。平日の午前中ということもあり、高齢者の姿が多い。何か、自分が場違いなところへ来てしまったかのようで落ち着かない。

 小学校低学年の頃、身体が弱く病気がちだった良太は、母に連れられよく病院に来ていた。そのこともあって、病院は嫌いだし、病院のこの息詰まるような独特の匂いが苦手である。成人してからは丈夫になり、健康には自信を持っていた。たまに風邪をひいたり体調が悪い時もあったが、市販薬で治したり、あとは気合で治していた。強い気持があれば病気も逃げていく。昔から病は気からといわれる。そのことを信じることにしていた。だから、もう20年くらい病院に来たことはない。そのせいもあり落ち着かないのだろう。

 良太は早くも帰りたくなり、そわそわしていた。

 あの日、明日こそ川口に電話しようと決意しながら、結局電話したのは、それから一か月後の昨日だった。

 自分の弱さを嘆いていたちょうどその時、エレベータから出てくる川口の姿が目に入った。良太が白衣姿の川口を見るのは、実は今日が初めてである。良太が知っているのは高校時代の、まだ制服を着ていた頃の川口と、先日新幹線の中で会った背広姿の川口である。 

 白衣を着て堂々と歩いてくる川口の姿は、別人のようにあまりにかっこ良すぎて、こちらからは声をかけられない。そんなことを思っていると、川口のほうがソファに座っている良太に気づき、軽く手をあげ近づいてきた。

 病院で待ち合わせはしたが、話は研究棟でしようということで、病院の横に建つビルへと移動する。エレベーターで5階へ上がり、山田、川口と二人の名が書かれた研究室に入る。そこは、川口とその指導教授の部屋らしいが、今日は川口のために空けておいてくれたようだ。

「そこへ座っててくれ」

 部屋の真ん中にある会議用のテーブルに備わった椅子を指す。良太が座ると、川口はテーブルを回りこんで、良太の正面に座る。改めて、川口の顔を見ると、精悍な顔つきをしていることに気づく。高校時代は、とにかく勉強ばかりしていて、いつも青白い顔をしていたのに、人間変わるものだと、ひとり感慨にふけっていた。

「ここならゆっくり話せると思ってね」

「すまん。いろいろ気を遣わせてしまって」

「水臭いことを言うなよ。お前のためにできることはするさ」

「ありがとう。感謝するよ」

 医者の友人がいることに、今回ほどありがたいと思ったことはない。白衣を着てこちらを見る川口が頼もしく思える。

「この間も言ったけど、しかし、久しぶりだ。でも、できればこんな形でまた会いたくはなかったな」

 先日東京駅では、今度飲みに行こうと言って別れたのだった。

「それは俺も同じだ」

 すっかり逞しくなった川口の顔に陰がさす。先が見えず不安を抱えたままの良太は、そんな川口のささいな仕草にも感情のバランスを崩してしまう。

「本当はまた昔話に花を咲かせたいところだけど、どうやらそんな余裕はないようだ」

 昨夜電話で現在の症状を聞かれ、答えていた。川口はもうすっかり医者の顔に戻っている。

「一応聞くけど、これまで健康診断とか人間ドッグを受けたことはないのか」

「それが、ないんだよ」

「いかんな。少なくとも健康診断は受けるべきだった。法人にはその義務があることくらい知っているだろうに」

「ああ、社員には受けさせていた」

 呆れ気味の顔をしていた川口の表情が怒りの顔に変わる。

「まったく何をしているんだよ。とにかく、まずは検査を受けてくれ」

 昨夜、すでに川口から検査入院することを言い渡されていた。専務の大垣には、3泊4日の人間ドッグを受けると伝えたら、それは良かったと言われた。体調のすぐれない良太に対して、以前から一度病院で診てもらってくださいと気遣ってくれていたのである。だから、良かったと。

「3日も必要なのか」

「いや、本当は3日でも足りない。お前がそれ以上時間が取れないというから、とりあえず今回は3日にしたんだ。検査結果によっては、改めて日にちをとってもらうことになるかもしれない」

「わかった」

「なあ、畑中。もっと自分の身体を大事にしろよ。何が一番大事かわかるか。何事も生きていればこそだぞ。仲の良かった友人として、お前にはこれからも元気で頑張ってほしいと思う。お前は俺と違って、誰からも愛される男だ。だから、今もきっと周りの人たちから慕われ、愛されていることと思う。だからこそ、言っている。もっと早く会うべきだった」

 しんとした部屋の中で、空気が張りつめているのがわかる。川口の真剣な怒りは、医者としての後悔であり、取り戻せない時間に対するやりきれない哀しさを含んでいた。川口の瞳の底で、水のように透明な炎が揺らぎ立っている。昔から、どこまでもまっすぐな男だった。

 川口は、良太とともに通っていた普通高校の中では異色の医学部受験生だった。そのせいもあり、やはりひとり浮いていた。頭も抜きんで出て良かったこともあり、いじめの対象にはならなかったが、孤独ではあったのだろう。しかし、今の川口の発言で、良太が思っていた以上に川口は辛く、寂しかったのだと再認識した。同時に、今の川口の言葉の強さから、良太は自分の状態が決して良くないことを理解した。このことを言うために、川口はわざわざ良太を研究棟まで呼んだのだろう。何年経っても変わらぬ男同士の「友情」に心が濡れる。

「ありがとう。ちゃんと受けるよ」

 その後、検査項目とその内容の説明を受けた後、再び病院に戻り、決まっていた病室へ入る。お金はかかるが、個室を選んだ。川口から個人的な話を聞くこともあろうかと思ってそうしたのである。

 今回の件は、専務の大垣の外、由香だけには知らせてあった。もちろん、人間ドッグを受けるという説明にとどめている。なので、由香は毎日病院へやってきたが、病気見舞いなどという意識はないため、なんだか楽しそうな顔をして部屋へ入ってくる。

 ドアを開け、顔だけ出してニッと笑う。そんな笑顔を咎めることはできない。検査、検査でテンションの下がっている良太も、そんな由香を見ると思わず嬉しくなる。目鼻立ちのはっきりした、派手な顔の由香が部屋に入ってきただけで、空気が特別な流れ方をして部屋全体が眩しいほど明るくなる。しかし、来てもらっても、とりたててすることはない。由香は、二~三時間他愛ない話をして帰ってしまう。由香が帰ってしまうと、とたんに部屋に静謐が訪れる。病院の消灯は10時と早いが、夜は長い。たいした用事もないのに、つい大垣や先ほど帰ったばかりの由香に電話してしまう。しかし、そんな時間も終わると、もうすることがない。部屋に戻り、日ごろは見ないテレビをつけて見るが、頭の中には入ってこない。やはり、一人になると急に自分の存在が頼りなくなってしまう。

 ただ、今回の検査入院で一人ゆっくり過ごす中で、自分の中に占める由香の大きさに改めて気付かされていた。もう自分は由香なしには生きていけなくなっているのだろうか。


                  五

 ドアホンのモニターに目をやると、そこには、なぜか不貞腐れたような、挑戦的な表情を顔いっぱいに張り付けた娘のさとみの姿があった。

 離婚した後も、月一回娘と会う機会を設けるということを、元妻の恵子はしぶしぶ認めていた。ところが、今年の4月にさとみが中学2年生になったとたん、3か月に一回に変更すると、一方的に通告してきた。それは約束違反だと、良太は強く抗議したのだけれど、さとみがそうしたいと言っているのだからしょうがないでしょうと言われてしまい、返す言葉を失ったのだった。良太はさとみ自身がそうしたいと言ったということがショックだった。難しい年頃になってきたから、そうなのかもしれないとは思うが、良太は恵子の言葉を鵜呑みにしていたわけではなかった。一度さとみに真意を確かめたいと思った。

 今日は3か月ぶりにさとみがやってくる面談日。朝から掃除機をかけたり、書類が積んであるリビングの片づけを終わったところに、ちょうどさとみはやってきた。父親に会うという行為は、女の子にとって楽しいものではないのだろうか。さとみがわが家に来た時に最初に示す反応はいつも芳しくない。

 玄関のドアを開けると、内側に怒りを溜め込んで、それを自分でも持て余しているような、所在なさげな目をしたさとみが立っていた。先ほどモニターで見せていた挑戦的な雰囲気は消えていたけれど、中に入るのを拒否して、いつまでもその場に立ち尽くしていそうな態度を崩さなかった。今日は、いつにも増して不機嫌だ。やはり、恵子の言っていたことは本当だったのか。今までに、こんなことは一度もなかったので、良太は戸惑った。

「中に入れば」

 良太は開けたドアに自分の身体を預け、さとみの通り道を作りながら言うと、無言で間をすり抜けるように中に入り、硬い背中を見せながらひとりずんずんとリビングに向かって歩いていった。良太が玄関の鍵を閉め、ドアチェーンを元の位置に戻してからリビングに入ると、さとみはもうソファーの自分の指定席に座ってテレビを見ていた。画面は、それまで良太が見ていた報道番組から歌番組に変えられていた。たかだか3か月会わなかっただけなのに、さとみは急に大人びて見えた。

「今日もママに車で送ってもらったの?」

 いつもは恵子が良太のマンションのところまでさとみを送ってくる。だが、その際には恵子から『今着いた』と連絡が入る。それが今日はなかったので、訊いてみた。

「違うにきまってるじゃん」

 テレビ画面に顔を向けたまま、否定の意思を抑揚のない低い声で表して答えた。

「えっ、電車で来たの?」

「そうだけど、それが何かあるわけ」

 取りつく島がない。苛立ちを身体いっぱいに発散している。しかし、良太の方もいつもと違うことが起きていて戸惑っているのだ。恵子も恵子だ。車で送って来ないのなら事前に連絡してくれればいいじゃないかと思う。それにしても、さとみの今日の不機嫌さの原因は何なんだろうか。良太のほうには特に思い当たることがないので対応に困る。

「いやいや別にどうと言うことはないんだけど、ちょっと心配だったもんだからさ」

 へんな言い訳をしてる自分が滑稽だ。でも、さとみはそんな答えなど聞いてもいなかった。 

 良太は自分で言うのも気恥ずかしいけれど、結構モテたほうで、女性の扱いには慣れていると自負していたが、思春期の、しかもわが娘の扱い方はわからなかった。この年代の女の子は、子供らしい快活さと大人ぶった憂鬱さを併せ持つ。さとみの苛立ちの原因もわからないので、余計なことは考えずに、ずばり言ってみた。きっと、こう言ってほしいのだろう。

「さとみ、今日機嫌悪いね」

「別に…」

 さとみは自分の機嫌の悪さの原因を聞いてほしかったのに違いない。しかし、その原因については、本人が話す気持ちになるまで、こちらから聞こうとしてはならない。

 機嫌の悪さをズバリ指摘され、さとみの心が揺れているのがわかる。『別に』の後、どう言葉を繋げようか迷っているのである。混じりっ気のないいちずな視線の奥に、何かを抱えているのかと思うと、良太の感情もうごめく。

「せっかく3か月ぶりに会えたんだから、楽しく過ごそうよ。さとみの要求だったらなんでも応えるからさあ」

 娘を一人前の女のように扱ってみる。本当のところは、恵子から買い物には制限を受けている。これまでにも、さとみに頼まれ、誕生日でもないのに高価なプレゼントを渡してしまい、ひどく怒られた。父親のところへ行けば、自分の願いが叶うと知ってしまうと、普段の生活でも抑制が効かなくなるから止めてくれというのである。その言い分が正しいことは、良太も十分わかっている。わかってはいるが、やはり娘にはいい顔をしたい。それに、女性の気持ちを高める手っ取り早い方法は、欲望を満たしてあげることだ。それは、大人の女性でも、思春期の女の子も変わらないはずだと思っている。禁を犯してでも、その手を使う。何せ、自分には3か月に一度、たったの五~六時間程度しか、最愛の娘と過ごす時間を与えられていないのだから。恵子には心の中で軽く手を合わせる。

「本当?さとみ、行きたいところがあるんだ」

 テレビ画面からこちらに向けた顔が嬉しそうだった。声が柔らかくなった。効果てきめんだ。さきほどまであれだけ不機嫌だったさとみの目が球状に見開かれ、キラキラと輝いている。やはり、このあたりはまだまだ子供だと思いながらも、この娘は母親に似て、美しい顔をしていると思う。自分にあまり似ていないのは、少し寂しいけれど。

「いいよ。どこでも連れていってあげるさ。さとみの願いなら」

 自分でも甘いなとは思うが、許せよ。恵子。

 さとみは、原宿にあるファッションの店と飲食店の名を挙げた。この歳になって原宿に行くのかと思うと、気持ちが萎えたが、さとみのためならしょうがないと気持ちを奮い立たせた。

 車で原宿まで向かう。助手席に乗ったさとみは、無防備なあどけなさと、母親に似た不思議な翳りが宿った顔で、まっすぐ前を見据えている。さとみには、思春期手前の、この特別な時間が一番似合うような気がして、できればこのままでいてほしいと願ってしまう。

 歩道沿いに植えられた街路樹が、青々と陽を反射させながらリズミカルに続いている。灰色の切り絵のような高層ビルが途切れると、車はなだらかな坂道を登る。

 離婚が珍しいことではなくなったとはいえ、この娘には悲しい思いをさせてしまったことは確かだ。自分はそれをどう償ったらいいのだろうか。今、さとみの抱えているものが何なのかまだわからないけれど、精一杯さとみの生きる力になれるようにしたいと思う。

 車を駐車場に入れ、原宿の街を歩く。何十年ぶりかの原宿の街は、記憶をたどっても合致するものは何もなく、すっかり変わっていた。

 おじさんになってしまった自分にとって、原宿という場所は、色彩が重なり合ってできた街のように、落ち着かない場所になっていたけれど、周りを歩く子供たちや、さとみにはまったく気にならないようだった。蝶が羽ばたくように楽しそうに歩くさとみが自分を置いて街に溶け込んでいく。さとみのお目当ての店は竹下通りにある「アナップ」という店であった。一緒に入るのには抵抗があったが、支払いのこともありついていく。

 買い物が終わると、今度はカワイイモンスターカフェという店に入る。どうやらこの街はなんでもカラフルにしてしまうらしい。良太にとっては食欲を感じさせないカラフルな食べ物を食べ終わり、これまたカラフルな飲み物を飲みながら、さとみは突然言った。

「ねえ、パパとママはなんで別れちゃったの?」

 まっすぐ良太を見つめながら硬い言葉を発したさとみの表情には緊張の色が浮かんでいた。恐らくさとみはこの問いをずっと抱えていたに違いない。こういう雰囲気の店の中で言われることに良太は違和感を覚えたが、そう思っているのは良太だけなのだろう。

 今日さとみが不機嫌だったのは、このことが原因だったのかもしれない。さとみの伏せた睫毛の翳りを見ながら、彼女の心の奥の一番深いところにある、もろく危うげなものに寄り添うためにはどうしたらいいのだろうかと思う。

「なんで突然…」

 なんで突然の後に、こんな場所でと続けようとして、良太は言葉を飲み込んだ。さとみにとってはこういう場所がホームで、こういう場所だからこそ言えたことなのかもしれないと思ったからだ。ここだったら、聞けると勇気を振り絞って聞いたのだと思うと、切なくなった。さとみのことを愛おしいと思う気持ちが強まった。でも、そんなさとみに対して、納得できるような答えを話せる自信はない。自分たちでさえ簡単には説明できない靄のように揺らめく心の領域なのだから。

 窓の外を見ると、先ほどから突然降り出した雨が街を暗く陰気なものにしている。窓ガラスの水滴は小刻みに震えながら下へ下へと落ちて行く。さとみも苦しんでいる。納得する答えを聞くことで、自分も次のステップへ行けると思っているに違いない。

「う~ん。それは…」

 さとみのあまりに直截的な質問に、自分の言葉は途方に暮れてしまった。

「ママのことが嫌いになっちゃったの?」

 嫌いになったから別れたというのであれば、さとみにはわかりやすいのかもしれない。でも、それは事実に反する。

「それは違うよ。ママのことは今でも好きだよ。きっとママもパパのことを好きだと思う。でも、好き同士でもうまくいかなくなることってあるんだよ」

 さとみは良太を見つめたまま何も言わない。

「パパは自分の会社を作ったでしょ。でも、最初はうまくいかなかったんだ。だから頑張らなくちゃいけないと思って、そのことに一生懸命になり過ぎちゃったんだね。その分、ママとかさとみのことに気が回らなくなってしまったんだよ。だから、パパが悪いんだよ」

 本当のところは、それほど単純な理由ではない。自分たち夫婦が共に暮らし、共に生きてきた中で、それぞれの思いが複雑に絡み合い、ほどけなくなり、出口が見つからなくなってしまったのが原因だ。もちろん、二人で話し合った。けれど、ただ堂々巡りするだけだった。しかし、ここでさとみに、絡み合い、こんがらがった糸の一本一本について話してみても理解してもらえないであろう。だから、できるだけ単純化して話した。さとみは黙って聞いているが、決して納得した顔はしていない。

「わかってくれた? だから、離婚の原因はパパにあるんだよ。ごめんな、さとみ」

「それっておかしいよね」

「おかしい?」

「だって、ママは自分が悪いって言っていたもん」

「ママにも聞いたのか」

「聞いちゃ駄目なの? 私には聞く権利あるよね」

 さとみの言うことはもっともだった。自分がまだ判断できない小さな時に離婚が決まってしまったのだから、当然ながら、そこにはさとみの意思は入っていない。だから、本当のところを聞きたいというさとみの気持ちもわかるし、さとみに聞く権利はある。

「ママは、パパが大変な時にもっとパパのことを思って大事にすればよかったのにそれができなかったから、ママのせいなのと言っていたわ」

 恵子らしいと思う。離婚する数年前から、二人の関係にはひびが入っていた。そんな時でも、恵子はさとみに良太の悪口は言わなかったようだ。それは、離婚した後でも変わらないのであろう。それには深く感謝している。だけど、恵子のその優しさが良太を苦しめもした。

「ママ、そんなこと言っていたのか。優しいなママ」

「だから、おかしいって言うのよ。何よ、二人ともいいカッコしちゃって。本当にそうなら、別れなくて済んだんじゃないの。ズルいよ、そんなの」

 少し涙声で、訴えるように言われ、返す言葉が見つからない。さとみはもう十分大人になっていた。本当の原因はそんなところにないことを見抜いている。両親の話す綺麗ごとに腹立たしい思いをしているのだろう。自分が辛く、悲しく、苦しく、寂しい思いをした真因を知らなければ、自分がこの先どう生きて言ったらいいのかわからないという思いがあるのではないか。もう少し大きくなれば、いい意味でも悪い意味でも割り切れるようになるとは思う。しかし、多感な時期にいる今の娘の真剣な問いかけにちゃんと答えたいとも思う。

 さとみに改めて問い詰められ、良太はもう変色し、ぼやけはじめていた自分たち夫婦の離婚原因について心の中で向き合う。しかし、本当のところ、どうしてそうなってしまったのか今でもわかっていない。ただ、窓から差し込む陽の光が時間とともにわずかずつ色を変えていくように、二人の関係も変わっていた。変わっていたことに気付いた二人は、そのことについて何度も何度も話し合いをした。しかし、話し合いをすればするほど、それまでお互いに気づかなかった考え方や意見の違いが明らかになり衝突した。結局、これ以上一緒にいても、もうどこにも向かわないんだと気づいたから離婚という結論を出した。だから、二人にとって離婚は、お互いが次のステップに向けてスタートするための正しい判断、正しい選択だったと思っていた。しかし、その結論も、実はある種の情熱的な性急さにほかならず、頼りないものだったのかもしれないという思いが、胸の内にひたひたと静かに溢れてくる。心が微かに揺れた。かといって、元には戻れないことは百も承知しているが。

「さとみの言う通りかもしれない。本当のところ、複雑な思いがこんがらがってしまって離婚したから、うまく説明できないんだよ。最初は小さな傷だったと思う。相手に対する小さな疑問符や不信感が積み重なって、気づいた時にはお互い許せなくなっていた。わかりやすく言えば、お互い、少しずつ嫌いになっていたのかもしれない。だから、さっきパパが今でもママのことが好きだと言ったけど、あれは正確ではないんだ。離婚した今は、大事な友人として好きに戻れたという意味なんだ。だからといって、元には戻れないこともわかってほしい。うまく説明できなくてごめんね、さとみ」

「別に謝ることじゃないよ」

 少しくぐもった声で言う。

「そうだな。でも、いつかさとみが納得できる答えを出してあげたいと思っているよ」

「うん。急がなくていいから聞かせて」

「わかった。さとみの思いに応えられるようにするよ」

「ねえ、パパ、この飲み物美味しいと思わない」

 フルーティ・ヘブンリーという名の不思議な飲み物を、不思議な空間で飲んでいると自分たちまで不思議な感覚になる。さとみは、重く垂れこめていた時間を断ち切るように、突然話題を変えた。雨は止み、目でなぞる風景が再び鮮やかな色を持ち始めている。指先から安らかな温もりが伝わってくる。さとみの、いじらしいほどの真剣さだけが、そこに残っていた。


           六

 川口から連絡があったのは、検査入院してからちょうど二週間後だった。

 いつもより少し遅い朝の光が弾けていた。風がたっぷりと熟した果実のような甘酸っぱい香りを運んでいる。もう戻ることのできない道に迷い込んだ時のような複雑な思いで、病院を目指す。 

 大学病院の大きな自動ドアが目の前で大きく割れ、吸い込まれる。指定された時間に、3階の内科受付で名前を伝え、待合室の椅子に座って待つ。受付上の電光掲示板には、番号が掲示され、順次患者が診察室に向かって行く。病院内は、ひっきりなしに患者や看護師などが行き交い、診察室からは番号を呼び出すアナウンスが聞こえるなど、決して静かではない。良太は、そんなざわめきの中にゆるやかに紛れている。

 これから川口からどんな結論を聞かされることになるのか。空気が重しとなって良太に覆いかぶさってくる。不安が自分の身体の中に積み重なっていくようだ。

 今まで仕事では、かなりハードな場面にに出くわしたこともあったが、そんな時でも良太は案外冷静沈着に対処することができていた。だから、今回のことも、病院に来るまでは落ち着いていた。しかし、今この場で川口を待つ段になり、急に狼狽えてしまっている。川口と会うことが怖い。このまま逃げ帰りたい。目線を宙に浮かせたまま、自分の負の影に怯える。声が漏れないよう、淡い吐息をつく。

 待合室の椅子に、強烈な磁石が装着されているかのように、良太の身体は身動きできない状態になっていた。次第に鼓動の動きが早くなっていく。診察室から現れた川口が一直線に良太の元まで近づき、『じゃあ行こうか』と促し、良太の感覚をピンと弾く。もう逃げられないと諦める。無言で川口の後について診察室へと向かう。廊下の両サイドに診察室がある。恐らく10以上あると思われる、その一番奥の部屋へ入る。川口は、背もたれとひじ掛けのついた診察用の椅子に座り、良太は川口の差し出したパイプ椅子に座る。

「この間の検査はお疲れ様。結婚しんどかっただろう」

 検査づけの日々は、体力というよりも精神的な疲れを催すものであった。

「ああそうだね。案外しんどいものだと知ったよ」

 言葉を発することで、良太もいくらか平静を取り戻す。川口の良太を見る目に変化はない。これから、恐らく大事な何かを告げるという気負いも緊張も浮かんではいない。良太はそんな川口の医者らしい落ち着きを見て、少し安心する。

「慣れない検査には、みんなしんどい思いをするものさ。さて、じゃあそろそろ検査結果について説明しよう」

 そう言って、机の引き出しから茶色の大きな紙袋を取り出した。そして、中に入っていたレントゲンの写真と思われるものなどが机の上に並べられる。良太の心臓が早鐘のように打ち響く。そのうちの一枚を機械に張り付け、説明しようとこちらを見た川口の目の奥が微かに動いた。その時良太は、身体全体がひんやりとする中で、すべてを悟り、覚悟ができた。すると、心はストンと落ちた。川口の説明を受ける前に、良太から言っておきたいことがあった。

「川口、すべて包み隠さず話してくれ。俺は今、すべてを受け止める覚悟ができている」

 そんな良太を川口はじっと見つめた。それは、良太の覚悟の重さを確かめているようでもあった。狭い診察室の中に、一瞬緊張が走ったが川口は静かに表情を戻した。医者としての川口と親友としての川口がせめぎあっているのだろうか、川口の中に曖昧な感情があるのが見て取れた。少しだけ間をあけ、レントゲン写真を見ながら川口は言った。

「そうか、わかった。もちろん、俺もすべてを話すつもりだった。これからはあくまで担当医師として、患者である畑中良太さんに、検査結果および治療方針、治療方法、今後守ってもらいたい事項などを説明するので、しっかり聞いてもらいたい」

 良太が覚悟を決めたように、川口も覚悟を決めたのだろう。結果は胆管癌だった。しかも、ステージ4だった。先程の川口の目の奥の揺らぎから、悪い結果を予想してはいたが、予想を上回る最悪のものだった。先日京都出張の帰りの新幹線の中で見た不吉な夢は仕事のことではなく、このことだったのだろうか。だが、さきほど覚悟を決めたせいか、意外なほど心は落ち着いていた。というか、この時点では、何もかも現実感がなかった。

「余命を教えてほしい」

 自分が想像する以上に、硬い声になっていた。

「余命は半年と思ってくれ」

 自分の命に対して、半年という具体的数字をつきつけられ、心はゆっくり変形していく。

「半年かあ…」

「医者として、現在の状態からはそうとしか言えない。だが、畑中、諦めないでくれ。半年と宣告されても、その後10年以上生き延びた人もいる。俺も最善のことはするから、畑中も気持ちを強く持ってほしい」

 恐らく壁に空いた穴のような目をしていたのだろう。そんな良太を少しでも励まそうと、川口は必要以上に強い口調で言った。

「ありがとう」

 川口が単なる気休めを言っているのでないことはわかる。実際に余命を超えて生きた人がいることは、良太も耳にしたことがある。世の中にはごくたまに奇跡が起きる。そういうことだろう。しかし、残念ながらやはり奇跡はごく稀にしか起こらない。それが奇跡というものなのだから。

 病院を出た良太は、自宅へ戻ることにした。本当は会社へ戻る予定だったが、さすがにそれは辛かった。会社に電話すると、よりによって電話口に出たのは新井由香だった。動揺を悟られぬよう、事務的に短く用件を話す。

病院を出たが、まっすぐ自宅に戻る気にはなれない。自宅でひとりになったら心臓が縮まって身動きできなくなるような気がして、近くの公園に向かう。検査入院した時、病室の窓から何気なく見たのが、緑の島のようにも見えるその公園だった。都会のビル群の中で、そこだけはオアシスのように思えた。勘を頼りに道を進むと、公園の入口が見えてきた。信号が変わり一斉に歩き出す群衆。一人取り残された良太は、なかなか一歩が踏み出せない。

 鬱蒼とした森のような緑の塊に入ると、良太のささくれ立った心を幾分鎮めてくれる。

 平日の午後3時という時間帯のせいか、公園内を歩いている人は少ない。園内の整備された道に沿って、ゆっくり歩く。陽光が木々の間からまばらに落ちている。幾分空気がひんやりしてしているのが、心地よい。

 木陰にある古い木のベンチに座る。大きな公園のため、業者が定期的に整備していると見えて、園内は案外整然とした美しさがある。 

 ほんの少し前に川口から告げられたことが遠い昔のことのように思える。先ほど覚悟できたつもりだったけれど、こうして冷静になってみると、というか冷静になったからこそ、その理不尽さに心が委縮する。

 なんで、という気持ちが強い。なんで自分が選ばれてしまったのか。自分は何か悪いことをしたのか。思い当たることなど、何ひとつ浮かばない。それとも、自分の知らぬうちに何か罪を犯したというのだろうか。身体中の血を失ったように、良太は冷たくなっていく。

 かなたに押しやっていたはずの記憶がどんどん色濃くなっていく。考えれば、中学生の時に両親を交通事故で亡くしたあたりから自分の不運は始まっていたと思う。あの時、自分はこの世のあらゆる負の気分を吸い込んでしまい、すべての重さが半分になっていく感覚に陥った。あの時に、自分は人生における不運のすべてを出し切ったはずではなかったのか。残念ながら、その後伯父の家に引き取られた後も数々の辛い目にあっている。人の好い伯父夫婦ではあったけれど、やはりそこには言葉ではいい尽くせない感情のもつれがあった。

 それでも、両親を失った悲しみに比べれば大きくはなかったから耐えることができた。大学にも行かせてもらったのだから、感謝もしている。だが、就職時は運悪く氷河期だったため、自分の望んだ企業には就職できなかった。一年後には景気が回復し、就職環境も好転していたのだから、ついていない。

 望まない就職が、結果的に独立開業に繋がった。恵子という美しい女性と巡り合い、結婚してさとみという子供もできた。この期間だけは自分にとって幸せな時間を過ごせたと思う。しかし、結局離婚してしまったことで、人生はまた暗転してしまった。

 単純に死ぬことが怖い。滑稽なほど、理屈抜きに怖い。中高生の頃、『死』というものについて考えたことがある。その時もやはり『死』は怖かった。でもそれは、観念的、精神的な怖さだった。すでに両親の死というリアルな死を経験していたけれど、それでも、それは自分の死ではなかった。今回初めて自分の死と真正面から向き合うことになり感じた死の恐怖は、肉感的な生々しさで迫ってくるものだった。

 自分の肉体が消える。自分の存在が消える。今発している言葉も、今感じている感覚もすべてが肉体とともに消えてしまう。世界から自分が剥がされていく感覚といってもよい。自分がいなくなっても、日々は退屈な日常の一コマとして、いつもと変わぬ姿で流れていく。

 自分と一緒に世界のすべてが朽ち果てるのであれば、すんなりと受け入れられるのかもしれない。だけど、自分だけが消えなければならないという理不尽さがひどく虚しいのだ。少し前まであった自分の頭の中の未来図があっけなく砕け散る音を聞いた。

 空洞になった胸を抱きかかえるようにして立ち上がる。ふらふらとしながら、公園の奥へと進む。広場の真ん中にある噴水の水しぶきの一粒一粒が光を受けて生きているように輝いている。自分は何かを選んだつもりでいたけれど、ただ空をつかんでいただけなのか。

 突然目の前に己の『死』を見せられて、いい歳をしてボロボロになった。もう帰ろうと、公園の出口に向かって歩いていると、内側から光を放つような笑顔の、娘と同じ歳くらいの二人の女の子とすれ違った。急に胸が締め付けられるように苦しくなる。『さとみ』と呟いて見る。『さとみ、さとみ、さとみ』。さとみと別れなければならないことが何よりも辛い。大声で『誰か助けて』と叫びたい衝動が起きる。『嫌だ、嫌だ、嫌だ、死にたくない』と小さく口に出していた。

 公園を出ると、太陽はビルの陰に隠れ始めていた。道路を走り抜ける車の音。歩道を歩くサラリーマンたちの、無表情な顔。列をなす街路樹が風にゆらゆらと揺れている。それらは、いつもと変わらぬ日常の光景。鼻の奥がつんとして声をあげて泣いてしまいそうだった。悲しみは空中に舞うちりのように儚く重さのないものだった。

 その後、どうやって自宅に帰ったのか、まったく覚えていない。気づいたら自分の部屋にいた。とりあえず風呂に入るが、頭の中が白く靄がかかったように燻っている。目の前にはぽっかりと空白が浮かんでいる。

 風呂からあがった良太は、いつものように冷蔵庫から缶ビールを取り出し、一気に飲んで見る。こんな状況でも美味いと感じることが不思議だった。ああ、俺はまだ生きている。そこで初めて『生きたい』と素直に思った。

 もう暗い結果について考えるのは止めることにする。もちろん、『死の恐怖』が消えたわけでも、死を受け止められたわけでも、覚悟ができたわけでもない。ただ、諦めただけ。自分ではどうしようもないことに心をすり減らしても何の意味もないと思えたから。

 そうであるなら、いつかその時が来るまで、今自分の出来ること、やり残したことに時間を使いたい。短いとはいえ、未来が残されている。未練や後悔は小さく折りたたんで、そんな未来を自分のものにするしかないではないか。決して割り切れたわけではないけれど、そうすることで運命を自分のものにしてしまいたかった。誰のためでもない、自分のためだけに『残り少ない未来』を使い切ろう。

 自分が両親から受け継いだ一番の長所は、ポジティブなところだと思っている。とはいえ、平凡でごく普通の人間である自分は、途中何度も『死の恐怖』や不安に怯え、狼狽することになると思うけど、とにかく一歩前へ進もうと思う。『川口、これでいいんんだよな。今日お前が言いたかったことは、こういうことだったんだよな』

 空に向かって言って見る。

 ガラスを叩く風の気配がする。立ち上がって近づくと、窓の外には見慣れた風景があった。

 どうせ人間はいつかは死ぬ。少し早いくらいで文句を言うなと自分に言い聞かせる。振り返った部屋の中に、確固たる自分がいるような気がした。

 何事も見方次第で世界は変わる。これまで縦方向にしか見て来なかったものを水平方向に引き伸ばすことで、今まで見えなかったものが見えるようになったような気がする。気持が普段通りに静かになっていく。一度は真っ黒に塗りつぶされた心に、糸のような細い、でもしっかりした希望が浮かんでいる。ビールの味を確かめるために、冷蔵庫からもう一缶取り出し、飲み干す。今日一日の感触が、ゆっくりと変色していく。 

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