第2話「笑顔とチャーハン」

「暗くなってきたし今日はここまでだ! みんな休憩に入ってくれ!」


 カイが手を叩きながら呼びかける。私もガラクタを台車に置いて拠点に戻る。

 メアたちのところに入ってから三日が経った。

 ボランティアは最初、どうすればいいのか分からなくて何回も失敗した。でもカイが手取り足取り教えてくれたおかげで、それなりに動けるようになっていた。


「やぁメル、今日もお疲れ様。一緒に休憩しない?」


 拠点に戻ってくると、ポニーテールをほどいたメアがいた。

 私はうん、と返事をすれば、メアの向かいにある椅子に座った。

 そのとき、ふとメアが持っていた、ピンク色のリボンが目に入った。


「そのリボン……私とおそろいだ」

「おぉ本当だね。私のはかなり前から使ってるからくたびれちゃってるけど、今でもお気に入りのリボンだよ」


 リボンを咥えながら髪の毛をまとめると、リボンで後ろ髪を結んだ。いつも通りのポニーテールのメアだ。メアはそのまま焚火に手を寄せて暖まり始めた。

 私も焚火に手を近づけると、冷たくなっていた手にゆっくりと熱が巡り始める。

 ……生き返るなぁ。


「はぅ~生き返るぅ」


 心地よくてつい思っていたことが、そのまま口から漏れてしまった。


「あはは、ここにはストーブがないから焚火が唯一の暖房だもんね……そういえばそのコート、新しくもらったんだっけ? すごく似合ってるよ」

「あ……ありがと」


 自分の身体に視線を落とすと、深緑色のモッズコートがあった。

 最初のは借り物だったため、カイが「一緒にやるんだったら服もそろえないとな!」と言って、私用にくれたのだった。

 みんなと同じものを着てると思うと、不思議と嬉しかった。

 そんなことを思っていると、焚火を眺めながらメアが口を開いた。


「そういえばさ、あのタイムマシンで何をしてたの?」


 突然の質問に私は一瞬、答えるのを戸惑った。しかしすぐにメアならいいかと思った。


「友達を探してたの……一人で寂しくなる気持ちを和らげてくれる友達を」

「……そうなんだ。でも今は私たちがいるから寂しくないんじゃない?」

「うんっ、みんな優しくて寂しくないよ」


 メアは「それはよかった」と満足そうに腕を組みながら頷いた。

 そこで私もあることを思い出すと、そのまま話し始める。


「私も聞きたいことがあったんだけど、メアはなんでこんなガラクタだらけの村でボランティアしてるの?」

「実は私も昔、ある人たちにどうしようもなかった状況を助けてもらったことがあったんだよ」

「メアもなの?」

「うん、それでそのときにいた場所がこんな風にごみで溢れていた場所だったんだよ」


 焚火をぼんやりと眺めて、微笑みながらメアが語る。その表情はまるで楽しい思い出を語る子供のようだった。


「助けられたときに私は決心したんだ。あの人たちみたいに困ってる人を助けれるような優しい人になりたいって」


 メルは胸の前に握りこぶしを作る。その瞳は真っすぐしていて、輝いているように見えた。

 メアはもう自分がどんな風に生きていきたいかを確立してる。それに比べて私はまだ探している最中だ。

 私はコートの裾を握りしめていた。私もいつかメアのように生きがいを見つけられるだろうか。

 そう思っていたとき背後から声が聞こえてきた。


「メアー、夜飯を持ってきたぞー……お、メルもいたのか。ちょうどよかった。今日の夜飯だぞ」


 メアと私にカイお手製のチャーハンが出される。するとメアが口をとんがらせた。


「えぇ~、またチャーハンだけ? プリンとかのデザートとかはないの?」

「……私もプリン食べたい」

「二人とも勘弁してくれ、チャーハンが作れるだけでもありがたいんだぞ」


 カイはバツが悪そうに頭を掻く。


「まぁ、しょうがないかっ! いただきまーす」

「……いただきます」


 メアはスプーンいっぱいにすくい上げると一口でそれを頬張っていた。

 私もチャーハンを食べ始める。

出来立てなおかげでホカホカなチャーハンが口の中に広がった。

 しばらく食べたところでメアが思い出したように口を開く。


「そういえば、レナードはどうしてるの?」

「あいつならずっとマシンに付きっきりで直してくれてるぜ。飯はさっき渡しに行っといた」

「そっか……あ、チャーハンおかわり!」


 空になった皿をカイに差し出す。


「おいおい、いくらなんでも早すぎないか? 俺は結構盛ったつもりだったんだけどな」


 たしかに私よりも量が多かった気がする。それにしてもすごい食べっぷりだなぁ。

 そんなことを思いながらチャーハンを食べようとしたが、気づけば私の皿もすでにチャーハンがなくなっていた。しかし困ったことにまだ満腹じゃない。


「あの……私もおかわりいいかな?」


 少し申し訳なさそうに私も皿を差し出す。思わずカイも唖然とした表情を浮かべた。


「お前ら……その髪色と食いっぷりといい、まるで姉妹みたいだな」

「私たちが?」

「……姉妹?」


 私とメアはお互いに顔を見合わせた。

 透き通るような銀髪、そしてどこまでも沈んでしまいそうな青色の瞳。

 よく見てみると私とメアは瓜二つ言っても過言ではないほど似ていた。


「確かに……似てる。食いっぷりもね……ぷふっ!」


 突然メアが私の顔を指さしながら吹き出した。それに続けてカイも私をみて笑い出した。顔に触れてみると指に何かが当たった。これは……米?


「……っ!」


 気づいた瞬間、顔が熱くなっていくのを感じた。おそらく今私の顔は真っ赤になっていることだろう。


「わ、笑わないでよっ! 恥ずかしい……!」

「アッハッハッ! ごめんごめんっ! でもおっちょこちょいだなぁと思って」

「……もう」


 頬を膨らませてメアを見た。

 でもよく考えてみたら私もドジだなぁ。


「……あははっ!」


 私は口を開けて笑い出してしまった。


「メルがこんなに笑ったのは初めて見たな」


 カイが意外そうな表情を浮かべた。


「え……? 確かにこんなに笑ったのはあんまりなかったかも」


 ここにくる以前からでもこんなに笑ったのは久しぶりな気がする。でも悪い気はしない。

 するとそのとき、メアが私の頭の上に手を置いた。


「やっぱりメルは笑顔の方が似合ってるね」

「……そう、かな?」


 私は口元を綻ばせながら、目を細めた。


     *     *     *


「ここをこうして……こうか。あとはこうすれば……よし」


 レナードが欠伸をしながらマシンを直している。私はその近くでガラクタの上に座りながらその様子を眺めていた。

レナードが離れずに作業してくれたおかげで、マシンは一週間でデコボコで穴だらけだった外殻もきれいになっていた。


「レナードは手が器用なんだね?」

「慣れているだけだよ。メアに出会うまではずっと機械の仕事をしていたからね……作業中を見られるのは恥ずかしいんだけど」


 ため息を吐きながらレナードは私を見る。


「でも機械が直っていくのって見たことがないから気になっちゃうんだもん」

「……邪魔しないならいいけど。それにしてもたった一週間で君も変わったね」

「えへへ~そうかな?」

「かなり変わったよ、一週間前の君だったらこんな楽しそうに話してはいないだろうよ」


 確かにここに来てからもう一週間も経つのか。

 一週間、メアたちのボランティアを手伝い、メアたちといろんなことを話したなぁ。


「そういえばメアがね、レナードの話もしてたんだよ。最初メアと話すときに顔を真っ赤にさせながら話してたって」

「……参ったな、そんなことまで話したのか。メル、その話は僕たち以外には話さないでくれよ?」


 頭を掻きながらレナードは立ち上がると、操縦席をのぞき込む。そして少し中をいじくったそのとき、マシンから白い煙が吹き出た。


「ど、どうしたの! もしかしてまた壊れた?」

「いや……それよりもメアたちを呼んできてもらえるかい?」


 煙を手で払いながらレナードが口の端を吊り上げた。


「マシンを直し終わったんだよ」

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