惑星クリスマス4のクズ取り屋
青葉台旭
1.
十七歳まで、父親と一緒に銀河系各地を回って暮らしていた。
両親は、僕が物心つく前に別れていた。だから僕は母さんの顔を知らない。
小さなオンボロ貨物船が父と僕の家。
星系から星系へ、真空を漂う〈渡り草〉みたいな生活だった。
僕が生まれるずっと前、まだ若かった頃の父さんは〈歴史学者〉を目指していたらしい。
どこをどう流れてそうなったのか、今の仕事は〈惑星クズ取り屋〉だった。
何らかの原因で知的生物が絶滅した
違法か合法かと問われれば違法なのだろうが、知的生命が全滅した
亜空間航法で他の星系に行ってしまえば、売り先の商人たちは品物の
この銀河には、全ての星系で適用される汎銀河法なんてものも無けりゃ、星域を越えて全銀河を取り締まる警察機関も無い。
どの星の政府も、他の星系で起きた犯罪なんかにゃ興味がない。
どの星の警察も、恒星の重力圏の外まで犯罪者を追いかけるなんて事は滅多にない。(まあ、ごく
* * *
初めて父親の仕事を手伝ったのは
低衛星軌道の
* * *
もちろん「見下ろす」という表現は
僕らの船は、亜空間航法で星系間を旅する外航船だ。
お金持ちの星系内航ヨットみたいに強結合クリスタル・ガラス製の光学窓が船殻に
外部環境センサーが収集した情報を立体画像化して部屋の壁面モニターに映していたんだ。
モニターの遥か向こう側に広がる(ように見える)地表は赤黒く光っていて、なんだか
「緊張してるから、そう見えるだけだ」一人きりの小さな船室で、僕は自分に言い聞かせた。「大丈夫。そうそう危い目になんて会わないさ」
万が一、危険度が水準を超えていれば、父は惑星への降下を中止する
『安全第一』が父さんの信条だった。まして一人息子の初陣となれば、危険度の見積もりは普段より厳しくするに決まってる……そう思いたかった。
恒星の光を反射して赤く光る惑星クリスマス4の地表を
「サトシ、居るか? 俺だ」インターフォンを通じて父の声が船室内に響いた。
「居るよ。どうぞ」と僕が返すと、プシュッと小さな音を立てて自動ドアが開き、父の
手に、極小分子
「クリスマス星系の公用語は古代地球イングランド語の亜種だ」父が言った。「言語野脳細胞ライブラリィに
僕は再生装置を受け取りながら「現地語の
「知的生命が一人残らず死滅しても、彼らが生活する上で必要とし生産し設置した品々は残っているさ……例えば店の看板、街角の案内図、道路標識……館内自動放送装置や、自動再生ラジオ放送局の
「ふうん……新たな惑星に降りるたびに
「そういう試みはあったんだよ」かつて歴史学者だった父が言った。「通称『カッパデルタ計画』だ」
「へええ……」
「今から七千年
「不可能を証明するなんて、そんなこと可能なのかな」
「詳しいことは俺もよく知らん。何しろ七千年前の話だし、俺は
「なるほど……つまり、その瞬間が『
「そういう事だ。それから七千年間、この銀河が完全に平和だったことは一秒もない。一秒の休みも無く、この宇宙のどこかしらで、誰かと誰かが大砲を撃ち合い、爆弾を落とし合い、殺し合って来た。全ての星系・全ての知的生物に一律に適用される法の制定、全銀河警察機構の樹立、銀河公用語の策定……そんなことを言い出す奴は今の銀河には一人だって居ないさ」
「そして新しい惑星に行くたびに、こうして新しい言語を
「その代わり……そのお陰で、と言っちゃナンだが、銀河全体で統一された法律やら政治形態なんて
そのとき僕は(まだ十一歳だったけれど)父の言葉に何だか
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