ここらでひとつ日本語の話をしようか
なにかっぽいタイトルのタイトルを付けてしまったがそんな壮大な話ではなく、ネタもそれほどない。ならばなぜ書いているのかというと、カクヨムのトップの色? なんかバー? みたいなのあるじゃん? あの色がさ、最後に更新したやつのイメージカラーになってる気がしたんですよ。言っていることが分かりますか?
あまり橙いろがそんなに好きではないので、緑色に戻したいのでこれを書いています。
バスに乗ったんですね。
まぁそりゃいつも一所懸命人間を頑張っているわけですから、バスに乗ることもあります。本来はもうひとつ前の駅で降りてそこのバスに乗らなくちゃいけなくて、電車の中でそのバスの時間を調べて「降りるぞ~あの駅でおりるぞ~」とやっていたのになんでか途中でなんの脈絡もなく「可塑性」ってどういう意味だっけ? ということが頭に浮かび調べていたら降りそびれたので、本来乗るべきではないバスに乗ったのです。人間、頑張ってるでしょう?
で、この駅から乗るバスは跨線橋を通るのだけれど、その跨線橋がなぜか毎日混んでいてなぜかずっと止まっていなくちゃいけないので暇なのです。
暇だからバスの中の広告をはじから読んでいたら、奇妙な文字を発見しました。
「バスの直前直後を渡らないこと」
そんな文章の間違え方ある? と私は思ったのでした。
いやいや。こんな何人もの人の目が通るものでこんな間違え方しないだろ! と思ったのでした。
でもこういう何人も目を通してるはずなのに間違っていることってあるよなぁ、とも思ったのでした。私の原稿とかね。こっちは5万回確認してますからね。5万回の精査をくぐり抜けての誤字ですから。もうお手上げです。私たちにはどうすることも出来ない。
で、跨線橋を渡る車は本当に一ミリずつくらいしか進みませんので、私はしばらくその広告を眺めておりました。端から端まで何度も読みました。そしてふと「え?」と思ったのでした。
もしかして私が間違っているのか?
というのも最近めきめき物心がついてきて、自分が間違っていることの方が多い、ということに気がつきはじめていたのですね。というわけで辞書を開きました。ちゃんと調べました。
びっくりしました!
私が間違っていた。
私は「直前」あるいは「直後」という言葉の時間的な「前」と「後」知りませんでしたし、そういう言葉だとばかり思っていたのですが「直前」「直後」には距離的な意味もあるのですって!
え?
知ってた人はきっと私が何を言ってるのかずっと分からないですよねきっと。たぶん。わからない。私は知らない人間だから分かりませんが。
つまり、私は「直前」と言えば時間がちょっと前という意味しかないと思ってたんですよ。なのでバスの「直前」は可笑しいだろうと思ったのです。バスの通る「直前」とかなら分かるけれどバスの「直前」ってなんだ、日本語として可笑しいだろ、と思っていたわけです。
でも「直前」「直後」という意味に距離が含まれるのならバスの「直前」って別にまったく可笑しい文章じゃないですよね。バスの前ってことでしょ? あるいはバスの後ろ。でも私はその意味を知らないから、なんでこんな意味不明な文章が書いてあるんだ? と思ったわけです。
で、よくよく考えてみれば今までの文脈のなかに、もしかするとこの距離的な意味での「直前」を使っていた人がいたのかもしれない。でも私は時間的な意味での「直前」しか知らないので、その意味で取っていてそれでこれまでやってきた。
たとえば「ぶつかる直前で止まった」と言っていた人がいて、私はそのまま自然に時間が流れていっていたら「ぶつかる」はずだったけれど、そこに至る前の時間で動くのを止めた、という感覚で聞いているけれども、距離的な意味に取るとしたら、ぶつかる対象のすぐ目の前で止まった、といような感覚でいるわけですよね、きっと。
でもそれって、普通に聞いてて区別できない。というか現象としてまったく一緒だから距離でも時間でもどっちでもいいわけですよね。だからこの年になるまで私は「直前」「直後」に距離的な意味が含まれるということを知る機会がなかった。
で、それを知った時に思い出したのですが。
去年だか一昨年だかにマイソウルフレンドと旅行に行った時、なんかの流れで私が「おなか壊したことないんですよね~」と言ったんですね。そしたら友人が「あれ? でも犬怪さん胃が悪いんじゃなかったですっけ?」と返してきたんですね。だから「あ、そうですそうです。胃は悪いけどおなかは全然強いです」と答えたら、友人たちが「????」って止まってしまって、え、どういう間? と思って私も「????」ってなったんですけど。
この話の意味分かります?
私は全然分かりませんでした。何を驚かれてるのか本当に一瞬も分からなくて、なんか後ろに霊でもいるのか? と思って振り返っちゃいましたものね。
答え合わせをしますと、私は「おなか」という言葉をその時まで「腸」もしくは「下腹部」のみを指す言葉と思ってたんですね。だから私はおなかがごろごろする~みたいな言葉は腸がごろごろ言ってるんだな、と思っていたし、おなかが痛いという言葉も腸とか子宮とかが痛いんだな、と思っていたんです。
なので「おなか」という言葉の範囲に「胃」が含まれるなんて夢にも思ってなかったんですよ。すごい衝撃的だったんですね。三十年以上そんなこと思いもよりませんでしたから。
でも友人が「じゃあ犬怪さんはおなかがへった~って言ってるとき腸が減るイメージで話してるんですか?」と言うんですよ。これにはおったまげましたね。
「胃が減ってると思ってます!!!!!」
と、元気よく答えましたよね。めちゃくちゃびっくりしました。
驚きません?
不思議ですよね。
私にとっては「おなかが痛い」は腸および下腹部のみを指すし、その他の文脈で「おなか」が使われたときも腸および下腹部のみを指すと思っているのに「おなかがすいた」「おなかがいっぱい」の時だけ胃のことを指すと理解していたんですよ。しかもそのことを三十年近く生きていて一度も気づかなかったんですよ。
どういうことですかこれは?
私はなんかスキーマとかいう難しそうな学術用語が関係してると思うんですよね、ちょっと説明はできませんが。意味が通っちゃうから意味を調べたことがなかったんですよね。でも未だに「おなか」に「胃」が含まれるという感覚にはなれませんね、だってもうそれでずっと過ごして来ましたからね。
でも胃が痛い時に「おなかいたい~」って言いますか? あ、いや、言ってるのか。私が勝手に脳内でおなかを腸と下腹部に限定してるだけですもんね。相手は胃のことを言っていたのかもしれない。
ということは、私は一回もその間、相手と同じことを想定出来ていなかったんですね。こわいですね~すごくこわいですね~
言葉で何かを伝えたり理解したりすることは不可能だとずっと思ってきたし、それを信条として生きていましたけれど、実際マジの「全然ちがうこと思ってた」をカジュアルに感じるとビビるというね。切ない人間ですよ本当に。
なんか語り口変じゃないっすか? わからん。いつもこんなだったかな?
ま、そういうわけで、私は自分がかなりぼんやりと雰囲気で言葉を扱ってるんだなぁということを再認識した、という話しでした。だってこの前も「遍途」という言葉を辞書で一生懸命探しましたもんね。ありませんでした「遍途」って言葉。私はあったと思うんだけどなぁどの辞書にも乗ってない。じゃあ私が今描いている「遍途」のこの感慨はなんなのだ? この感慨を表す言葉が他にあるのか? 遍歴でも変遷でもないこの「遍途」を表す言葉はなんなんだ????
そんなこんなで、私の言葉を探す旅はまだ始まったばかりなのでした。
なんだこの終わり方。
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