7-4 舞台裏のウラ【ほぼ動画】ラヴホテル会議【Rさんと一号さん】【二人はペンフレンド】





「ハイどうも〜! いただきますっ!! 『ゴーストイーター』のウスバカゲロウ一号ですっ!!」


「………」


「え〜〜、今回はですねっ! 二号はお留守番! 俺ひとりで来ました! 夜も輝くネオン街っ! 偶然見かけた、立派なお髭のラファエル・エンジェルに突撃取材です! 動画、出演オッケー?」


「……なんで、カメラ回してるの?」


「今、ドッチ?」


「ドッチって?」


「入ってない方のラフィか、入ってる方のラフィか」


「……見たら分かるデショ」


「ルー某柴みたいな英語と日本混じりの喋り方しないってことは、入ってない方のラフィだな!!」


「……そうだヨ」


「入ってない時のラフィは本当にテンション低いな!!」


「そんなに違ウ?」


「入ってるラフィは完全に関わりたくないヒトだし、めっちゃドSに見える!」


「あっ、ソウ」


「今、仕事中? 仕事終わり?」


「後者。なに持ってるノ?」


「これはケーキだ!」


「甘いモノ苦手」


「ラフィにじゃないって! じゃあちょっと、ホテル入ろうぜ!」


「……キミ、趣味じゃないんだケド」


「ばっか!!! そういう意味じゃねーよ! 秘密のハナシがあるの!!」


「時間ないって言っタラ?」


「お前、たぶん後悔するぞ!」


「ナンデ」


「俺、もうすぐ死ぬから」


「……分かっタ」


「おっ、素直だな。珍しい」


「痩せすぎだヨ、キミ。本当に死ぬつもりなんだネ」


「よし! じゃあ一名様ご案内〜!! 一旦切ります!!」


「秘密のハナシなのに動画まわすノ?」


「あとで説明するって!」






***




「カメラ位置、大丈夫? 二人とも入ってる?」


「ボクが椅子に行こうカ?」


「あーっ! 良いって! ベッドに座っとけよ!」


「ハイハイ」


「こんなもん? ……まぁ、いっか。どうせ、なゆと浅葱にしか見せないし。……ハイ! 場面変わりまして、ここはとあるラブホの一室! 今回のご相手、ラフィ・エンジェルのことを説明する前に……この部屋、綺麗な割に休憩料金が不自然に安いんですね〜! お察しの通り、事故物件なわけです! 【こんなにおおきくなりました】って血文字を残して、妊婦さんが包丁で割腹自殺をしたっていうハイパー曰く付きの物件! 寝ていると赤ん坊の声が聞こえるとか、ここでスると絶対妊娠するけど流れちゃうとか、いろいろ噂があります!」


「よくもまぁ、そんな部屋みつけて来たネ」


「元・不動産仲介業は伊達じゃないぜ〜? 退職後も、いや、辞めてからの方がヤバい物件の情報が集まるんだよな! でもそれが人間の良いところだろ? ラフィは違うかもしれないけど」


「ボクは天使だからネ」


「俺、はじめてお前の名前を見たとき羅睺らごうだと思ったぜ!」


「なんデ?」


羅睺らごうって羅睺羅って書いて【ラーフラ】とも言うだろ? まんま【ラフィ】じゃん。【ラファエル】とは思わないって!」


「天使の【ルシフェル】も悪魔の【ルシファー】も、頭文字が同じでショ」


「その二人は同一人物じゃん」


「天使も悪魔も、本質は同じだヨ」


「出た!! ラフィのごった煮宗教論!!」


「ボクはボクが救われるために生きているんダ」


「お前も事故物件育ちのせいで家族亡くしているもんな〜。俺は家族を取り戻すために頑張ってるけど、ラフィは取り戻すことを諦めて羅睺を消すために生きてるんだよな!」


「……だから、なんで今日は妙に説明口調なノ?」


「YouTuberはどうしてもそんな喋りになっちゃうの! なんでラフィは取り戻すのやめちゃったの?」


「……羅睺に連れ去られた人間を取り戻すには『身代わり』がいる。ボクの家族は、誰かを犠牲にしてまで蘇りたいとは思わないと気づいたからサ」


「それ聞いたとき、本当にびっくりしたな〜! あ、俺とラフィは元々オカルト掲示板で知り合った文通仲間です! 日本語めっちゃ上手かったから、外国人だと気づかずにやりとりしてて、初めてリアルで会った時はマジビビった!」


「書き込みするなら、その国の言語くらい完璧にするのは当然ダヨ」


「元から頭良いヒトはズルいよなぁ〜……じゃあ、ラフィはそんなに賢いのになんで自分が家族の分まで幸せになろうと思わなかったの? 家族はみんな、ラフィの幸せを望んでいたはずだと思うけど? そんな、自分の身体に羅睺をワザと入らせて体内で消していくなんて身を削るやり方、よくないって」


「説教しにきたノ? ボクの身体は除霊に丁度良いんダ。ボクは幽霊にとって、入りやすくて出にくい体質だカラ。霊体のままじゃ感じられない快楽を、ボクを通して上書きするんだヨ。恨み辛みがなくなるマデ」


「名器だな!!」


「………」


「もぅ、入ってない時のラフィは下ネタに反応しなくてツマんない〜」


「呆れているんだヨ」


「入ってるときのラフィのぶっ飛び加減、お前に見せてやりたいぜ!」


「遠慮スル」


「でも、ここで疑問!! 羅睺に取り憑かれた人間は『身代わり』を用意しないと帰ってこれないんでしょ? じゃあなんでお前は無事なの?」


「無事じゃないヨ。……これ、言ってイイノ?」


「どうぞ!」


「……『身代わり』を用意しないといけないのは、『無傷』で取り返したい時ダケ。どこかが『欠けて』いても良いなら、ラゴウに取り憑かれても帰ってこれるんダ。キッカケがあれば」


「……いや、でも俺、弟の恒河ごうががお前みたいになったら最高に嫌かも……」


「失礼ダネ」


「羅睺や他の悪霊が入ってる時に英語混じりになるのなんで?」


「入ってる時は、言語中枢が上手く機能しないんダ。家族を奪った悪霊たちへ復讐するためにはじめたことだケド、回数を重ねるごとに生と死の狭間がエクスタシーでノンストップ……! familyをlostして出来た穴を埋めるにはbestだったのサ。コンナコトしないで、全うに生きた方がmy familyは喜ぶって知ってるケド、正論通りになんて生きられな……」


「ラフィ! ラフィ!! 入られそうになってる!!!」


「……おっと、危ない。こんな部屋で撮るカラ」


「視聴者の二人に分かりやすいかな〜って思って!」


「さっきから部屋の隅で、亡くなった子供が睨んでるケド」


「もちろん、ちゃんと解決するぜ! この部屋の怪異、赤ん坊の泣き声は発情中の猫の声で、絶対妊娠するとか流れるとか、そんな事実はありません! ただ、怖いぐらい安い部屋を選ぶようなカップルは家族計画の見通しも安かったってことですかね〜。でもここで仕込まれたベイビーでも、すくすく育ってる子はいます! 事故物件特有の、噂に尾鰭ヒラヒラパターンでした!」


「どうするツモリ?」


「ここに持ち込みのケーキがあります! ロウソクをさして……火をつけて……マッチがない! ラフィ、ライター!」


「ハイ」


「ハッピーバースディ、トゥユ〜♪」


「キミも取り憑かれた?」


「お前と一緒にするな! この物件の怪奇現象を止めるには、元凶となっていた子供に『生まれてきておめでとう』って言ってあげるといいんです! お母さんの方は死にたくて死んだからとっくに消えてるけど、子供は産まれたかったんだな〜今回の場合!」


「キミがしなくてもいいんじゃナイ? 依頼主に任せなヨ」


「だってこれ、正式な依頼じゃないもん。俺が勝手にやってるだけ」


「無償デ?」


「もうすぐ死んじゃうからな! できるだけたくさん、役に立っておきたいんだ!」


「……やっと本題?」


「そう。前置きが長くてゴメン!!」


「手短にネ」


「俺が今『ゴーストイーター』として活動してるのは知ってるよな?」


「弟を羅睺から取り戻すんでショ。順調にいってるネ」


「全然順調じゃな〜い!! ラフィ!! なんで取り戻すには『身代わり』が必要だって教えてくれなかったんだ!?」


「ダッテ、そんなの基本のキでショ。なんの対価も無しに、失ったモノが戻るとデモ?」


「それを言われるとツライ……。身代わりが必要だって知ってたら、絶対コンビでやらなかったのに〜」


「ボクはそのためのコンビだと思っていたケド」


「ひどくない!? 俺、そんなに薄情に見える!?」


「キミとは付き合い長いけど、そういう所もあるネ」


「そんなことないって! その証拠に、YouTubeで溜めちゃったケガレを精算するために羅睺に喰われようとしてるのに!!」


「精算?」


「身代わりが必要だなんて思わなかったから、せっせと動画あげて登録者数増やしてケガレを溜めたわけよ。でも、身代わりが必要ならやっぱりケガレなんていーらないっ! なんて出来ないだろ?」


「マァネ」


「俺の相棒、俺のこと大好きだからさ。きっと、頼めばなんでも言うこときいてくれると思うんだ」


「それなら、身代わり頼めバ?」


「そんなの頼んだら絶対、引き受けちゃうから困ってるの!!」


「よく分からないケド……」


「俺にとって、弟の恒河も相棒の浅葱も同じくらい大切な存在なんだ。それに、たぶん恒河はもう戻らないさ。気配がほとんどない」


「七つまでは神のウチ、って言うからネ。子供は溶けてなくなりやすいんダ。でも、キミが死ぬこともないんじゃナイ? ケガレを溜めたからって、確実に羅睺が現れるわけジャ……」


「俺、めっちゃ頑張っちゃったから」


「……?」


「いろいろ調べて動画上げて、今、かなりヤバい状況。そろそろ確実に羅睺が現れる」


「……ボクに依頼する? ボクに入れてもいいケド」


「ヤだよ。お前のそのやり方、少しずつ寿命削ってるだろ。友達を殺してまで、俺は生きていたくないね」


「友達、ネ」


「自分が蒔いた種だ。自分で刈り取るさ」


「……その結果が、自殺? 一人で背負い込みすぎでショ。それで、ボクにどうしろっテ?」


「俺がいなくなった後、たぶん浅葱は妹と組んで俺を探すと思うんだよね。その時に、目一杯怖がらせてやって欲しい。二人が行く先々で現れたり、意味深なことを言ったり」


「……その意図ハ? なんでボクが、そんな悪役演じないといけないノ?」


「アイツら、頑固で諦めが悪いからさぁ。俺がいくら『やるな』って言っても事故物件YouTuberやりそうなんだよなぁ。俺を取り戻すために」


「助けてもらえバ?」




「妹か親友を選べって言われたら、俺は迷わず自殺するね」




「……分かったヨ」


「お?」


「キミの大事な人たちが、危ないことに首を突っ込むのを邪魔すれば良いんだよネ?」


「話が早い〜! 助かる〜!」


「ボク、本気になりすぎて怪我させるかもしれないケド」


「2人なら大丈夫だろ! 俺の見込んだ2人だし!!」


「報酬は?」


「じゃん! 俺の霊力がたっぷりこもった、お札10セット!」


「倍に出来ナイ?」


「交渉次第です! 俺の札、結構効くだろ?」


「憑かれている時に正気に戻りやすいネ。【My God】もそう言ってル」


「そういや、今日マイゴッドは?」


「にゃあ」


「そこにいたのか〜」


「マイゴッドはボクのいるところなら、どこにでも現れるヨ。最後の家族だからネ。この子がボクに飛びかかった時が、正気に戻る合図ダ」


「そのたびに、だんだんお前が死に近づくとしても?」


「家族を奪った幽霊たちに復讐しながら死ねるなら、本望だヨ。気持ちイイし、悪霊狩りはやめられナイ」


「お前のそういう所、俺は直して欲しいけどな〜」


「それならボクも、キミの無駄な自己犠牲精神を直して欲しいネ。死ぬのは勝手だケド、残されたヒトの気持ちも考えてヨ」


「だって〜……こうしないと、浅葱に羅睺が憑いちゃうかもしれないしさ」


「……いい加減、撮影やめたラ?」


「いや〜そうしたいんだけどな〜……俺、なんかもう、カメラ回して無理矢理テンション上げないと会話するのもしんどくって……」


「そうだろうネ」


「アイツらが、自分の意志で俺のことを諦められるように協力して下さい!!」


「努力はするケド、保証はしないヨ」


「それで大丈夫! 俺も死んだ後、干渉できるなら干渉してみるわ〜。死んだことないから分かんないけど、動画の中なら入りやすいと思う! メッセージくらい送れるかな? どう思う?」


「ヒトにヨル」


「やっぱ死んでみないと分からないか〜こわいな〜やだな〜」


「……でも、やるんデショ」


「うん」


「そういう所が、薄情だよネ」


「そぉ? あ、この動画は2人がしつこく俺のこと諦めなかったら見せてやって。流石にこれ見たら諦めるだろ」


「イイヨ」


「まぁ、ラフィが驚かしたらすぐ心折れると思うし、実際に事故物件YouTuberすると精神的に結構クるから、途中で諦めるかもしれないけどなー」


「それならほっとけバ?」


「だけど、出来れば危ない目にあって欲しくないじゃん?心配だよ。だから、ラフィに監視役を頼みたいんだ」


「フーン……」


「それとさぁ……」




ブツッ……






***






 雨の廃病院。

 遺体安置所。


 ラフィの飼い猫に兄ちゃんの札を渡したら、ラフィの攻撃が止んだ。

 私の隣では出血と発熱で意識をなくした浅葱さんが転がっている。


 目を閉じた浅葱さんは喋っている時よりさらに影が薄くて、今にもあの世に旅立ってしまいそうだ。早く手当てをしてあげたい。

 でも、浅葱さんをここから担いで出て行く自信はない。

 試しに浅葱さんの腕を自分の首に回して身体を押し上げてみたけれど、数歩しか歩けない。


 こんなに重いなんて思わなかった。

 最初に会った時からまた随分痩せたけど、やっぱり男の人だから?


 そういえば、とうとう女だとバレてしまった。

 メンドクサいな。

 目が覚めたとき、都合良く忘れていてくれないかな。

 浅葱さんポンコツだし、騙せる気がするけど。



「にゃあ」



 窓から出て行ったはずのマイゴッドが、メモリーカードを咥えて戻ってきた。

 私が持っていたカメラをしきりにひっかくので、試しに差し込んで内容を確認してみる。



「………」



 兄ちゃんとラフィの動画だった。

 二人が友達だったなんて知らなかった。

 呆然としながら動画を進めていくと、唐突に切れてしまう。





 コンコン。





 動画が終わったタイミングで、扉をノックする音がした。

 それはさっきまでの鬼気迫る叩き方ではなくて、ただのノックだった。



「そういうことだから。ココ、開けてヨ」


「証拠はあるんですか……!」


「キミ、那由多なゆたちゃんでショ」


「……ッ!」



 今の私が那由多なゆただと分かるのは、兄ちゃんだけだ。



「女の子が男を一人で担げないヨネ? 手伝ってあげるヨ」



 罠かもしれない。


 でも、マイゴッドがしきりに私にすり寄るから、とうとう扉を開けてしまった。


「ありがとう」

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