4本目【万国共通】グローバルな部屋

4-1 前編 【押すなと言われたボタンを押す人々】





「ハイどうも〜! いただきますっ! 『ゴーストイーター』のウスバカゲロウ二号です!」


「三号です。今日も車内から失礼します」


「今回は『グローバルな部屋』から依頼が届いておりますっ!」


「……二号さんの壊滅的なネーミングセンスは置いておくとして」


「壊滅的!?」


「依頼なんですか? この部屋」


「そうだよ! って言うか、今までの事故物件は全て依頼を受けて行ってます! 動画撮影するから個人情報の問題もクリアしないといけないし……双方同意の上で、物件にはお邪魔させてもらってます!」


「報酬もいただいているので、アルバイトって形ですね」


「でもでもっ! 金額はお気持ちで大丈夫なので、遠慮なく連絡ください!!」


「たくさん情報が欲しいです。よろしくお願いします」


「そうだ、本題に入る前に前回動画の質問について答えておこうか」


羅睺らごうのことですか?」


「そうそう。前回みたいな自殺の名所に行けば、悪い霊なんてたくさんいるんじゃないの? って」


「確かにたくさんいますけど……ただ蠢いているだけなので羅睺ではありません」


「羅睺って何? って感想が多かったよね〜」


「羅睺はいつ・どこに出現するのかわかりません。一つの存在を指すものでもありません。どこにでもいるし、どこにでもいません」


「また人を煙に巻くようなことを……」


「悪意ある霊が、歪んだ場所に集まると現れるみたいです」


「歪んだ場所って言うのは、僕らが巡っている事故物件とか廃墟とか心霊スポットとか……そういう所だね!」


「なので、ただ羅睺を探すだけなら廃墟YouTuberでも良いんですけど」


「一号の失踪に関わっている羅睺はおそらく、事故物件を住処にしているので僕らは事故物件YouTuberなわけだ!」


「そういうことです。会えたらラッキー! みたいな感じです」


「まぁ、会いたいわけじゃないけどね」


「でも、貴重な手がかりなので」


「視聴者さんもなんとな〜く、分かってくれたかな? ボンヤリとでも頭に置いといてくれると助かります! 基本は僕らライトな動画なので、おやつの時間や料理中のお供として気楽に楽しんでもらいたいです!!」


「いや、三号たちの動画をそんなふうに使う人なんていないでしょ」


「三号くん! 楽しみ方は自由!!」


「いつも見ていただいて、ありがとうございます」


「ありがとうございますっ!! それじゃ、物件の説明にいこうか。ここはね、複数の不動産業者から依頼を受けました」


「二号さん、元不動産屋さんでしたもんね」


「うん。一号も同僚だったんだよ。同期入社で、在職中はあんまり接点なかったけど……僕が辞める少し前に、先に一号が辞めたんだ」


「一号さんって、どんな人でした?」


「詳しいことは『ゴーストイーター』の過去動画を見てください! って言いたいんだけど、そうだなぁ……いつも楽しそうで、笑ってて、大ざっぱで、前向きで、人を喜ばせるのが好きな人、かな?」


「抽象的ですね。視聴者さんはもっと具体的なエピソードを求めてますよ」


「具体的に!? 一号が通りすがりに自縛霊を成仏させた時の話する?」


「ボツ」


「イエローハウスの話は?」


「さらにボツ」


「えっと……じゃあ、次回は二人で過去動画を紹介することにしようか」


「コメントがあればやります。よろしくお願いします」


「不動産仲介業としての仕事ぶりは、やる気がある時とない時の差が激しかったなぁ。やる気があれば一日に何件も契約を結んできたし、無いときは一日中机に突っ伏して寝ているときもあったよ」


「三号も、一号さんみたいな立派な不動産屋さんになりたいです」


「話、聞いてた!? 仕事中に堂々と寝ちゃうような人だよ!?」


「オンとオフの切り替えは大切です」


「じゃあ僕らも切り替えていこう! ……この部屋は、立地が少々特殊で」


「外国人の方が多いんでしたっけ」


「周辺に外国人労働者を広く受け入れている企業が複数あるからね。でもここは、事故物件にも関わらず入居者が絶えないんだ」


「でも入れ替わりが激しいと」


「うん。告知事項ありって言葉、僕らはドキッとするけど外国人の方はあまり気にされない方が多いみたい」


「家賃が破格ですからね、問題の物件は」


「調べたところ、ブラジル・香港・フィリピン・ベトナム・ペルー・オーストラリア・ニュージーランド・インド・トルコなどの方々が住民になった記録があるようです!」


「多種多様ですね」


「まさにグローバルだと思わない?」


「………」


「無視!?」


「でも皆さん、少し住むと何か共通した内容を記したメモを残して、出て行かれるんですよね?」


「そうなんだ。しかもある時からこの部屋を貸し出しする条件として『前の住民が残したメモには触れないこと』って決まりができてね」


「それをみんな、守らないわけですか」


「だって、押すなって言われたボタンは押すでしょ?」


「人間のかなしい性分です。ところで、今日はいつになくオープニングが長いですけど」


「それはね、事故物件の撮影許可は取れたけど周辺の建物の許可が取れなくて、物件の外観を撮影することができないからです!!」


「尺の関係ですか」


「でもそろそろ目標時間になったので終わりま〜す。じゃあ三号くん、はりきってどうぞ!!」


「いってきます」




***



「はい……いただきます。三号さんのザル交渉のおかげでロクに室内も映せないんですけど」


『ごめんなさい!! 外国企業を挟むと権利関係がややこしくて』


「わかる範囲でお伝えすると……家賃の割にはとても広いですね。部屋がふたつもあります。一つはフローリングで、もう一つは……和室ですね。資料によると、ここで強盗殺人事件があったみたいです」


『やたらと障子が新しいのが気になるんだけど』


「空けましょう」


『ヤダー!!!! 不自然に一枚だけ色の違う畳!!!!』


「そして和室の突き当たりに、前の住民が残したメモがあります」


『映して映して!』


「付箋のような紙が、押しピンで留められています。映しますね……」






【on/yüz】






『何語……?』


「こんなこともあろうかと、良いものを持ってきましたよ。じゃーん」


『電子辞書だ!!』


「グローバルな部屋って事前情報だったので」


『用意周到だね! えらい!!』


「えいっ」


『三号くん!? 剥がしちゃダメだって言われているメモをなぜ剥がすの!?』


「早速調べましょう」


『出てくるかな……?』


「……これ、ユーの上にチョンチョンってなってる単語ってどうやって打つんでしょうか」


『残念!! 英語じゃなかった!!』


「……特に今、心霊現象も起きてないんですけど。メモも剥がしましたし、一晩寝れば何かしらのアクションがあると思います」


『何かしらって……w』


「ちょうど参考書も持ってきているので、電子辞書で英語の勉強でもしましょうか」


『……さっきから色の違う畳の付近の映像に、変なノイズが走ってるんだけど』


「一旦切りま〜す。ごちそうさまでした」


『でも後で三号くんに確認してもらったら「カメラのせいです」って言われちゃったから、みんなも怖がらないでね★』


「ばいば〜い」


『残されていたメモの内容は、言語は違うけど内容は出て行った住民全て共通です!! 果たしてどんな意味なのか??? 封印が解かれた今、何が起きても不思議ではない!! どうなる!? 後編に続く!! ばいば〜い』





<コメント:新着順5件表示>


アカウント名:エden pak

ライトな動画w

でも自分は通勤途中にラジオとして聞いてるよ!

一号と二号の過去動画は探せば出てくるけど、なんでか止まっちゃうから紹介してくれるならして下さい!!


イエローハウスとか初めて聞いた!!



アカウント名:手編み64

ラゴウって正直よくわかんないけど、それを捕まえるためにYouTuberやってるってこと?

つかまえたらゴーストイーターの活動しなくなっちゃうの?

それなら捕まえないでほしい笑


アカウント名:XDポインター

う〜ん!

今日も無駄のない編集と無駄ばかりの雑談!!


畳の上の画像の乱れ、マジで怖いんだけど。

そういうのをちゃんと編集してくれよ。



アカウント名:りんちゃん

調べてみたらトルコ語だった


【on/yüz】→【10/100】


だって。

これを住民全員が残していったの?

なんだろ。

約分すると1/10? 0.1???

本当に意味があるのか疑わしい。


次動画早く出して〜。



アカウント名:マミー

みえてますよ。




……三号くんが広げた参考書の中身が。

高校生の教科書じゃない?

ひょっとしてまだ高校生なの???

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