2-2 後編【悲報!交通事故にあう!】




「ハイ……どうも。いただきます。『ゴーストイーター』のウスバカゲロウ三号です。現在、まだ夜中なんですが……うるさくて眠れないので起きてしまいました……」


『うるさいかな?』


「なんとなくですけど、この部屋に原因はない気がするんですよね」


『事故物件なのに!?』


「確かに、ここで亡くなった方の気配は感じるんですけど、もうだいぶ微弱なんですよ。ちなみに台所のシンクにもたれ掛かる形で亡くなったみたいです」


『いるのかよ……』


「聞こえますか? 水の音」


『え?』


「ピチャピチャって言うよりも、ズズズって吸い込まれているような音ですけど」


『聞こえる! 聞こえるよっ!?!?!?』


「これね、隣の住人がお風呂に入っている時か、洗濯機を使っている時の音です」


『!?!?!?』


「まあ、そりゃそうですよね。集合住宅だとよその家の生活音が聞こえるのはよくある話なんですけど、事故物件って先入観があるとただの家鳴りも怖く感じるものです」


『幽霊の正体見たり枯れ尾花、って奴か』


「だけど、本当に身体に害のある現象の場合もあるので……。必要以上に怖がらず、でも鈍感になりすぎないようにしておくといいんじゃないかと思います」


『難しっ!!』


「彼女はこの部屋で、たくさんの自分が歩むはずだった他人の人生を見てきて、ある程度気持ちの整理がついている感じです」


『自分が歩むはずだった人生?』



「死んじゃったら、明日がこないんですよ」



『たしかに』


「もしかしたら明日はすばらしいかもしれない、って未練が彼女を引き留めていたようですね」


『明日はすばらしい……良い言葉だね!』


「ここに留まって観測を続けた結果、彼女は人間とは同じ日の繰り返しだと気づいたみたいです」


『えっ!?』


「日々に劇的な変化なんてなくて、徐々に変わっていくしかないんですよね。すばらしい日を迎えるためには、その何倍の辛い日々を繰り返さないといけないってことに」


『ネガティブな方向に気づいちゃったんじゃん……』


「だから、死んで良かったという気持ちが感じ取れます」


『なんか、かなしいね』


「結構、理性的なタイプだったみたいなので、全盛期はかなり力が強かったと思いますよ。昔から有名な事故物件だったというのも頷けます」


『確か、理性的な幽霊の方が危険なんだっけ?』


「理性的といっても、それが自分に対してなのか他人に対してなのかによります。自分に対して理性的であるなら、彼女みたいに自然に薄れていきますけど、他人に対して理性的であるなら人を騙そうという方向に働いてしまいます」


『こわ』


「でも見抜く方法はきわめて難しいので、やっぱり幽霊や幽霊らしきものに出会ったら逃げて下さい」


『逃げ……?』


「ダッシュで逃げて下さい」


『物理的!?』


「この部屋の彼女はもう、放っておけば消えてしまうんですけど、最近うるさすぎて休まらないと言っています」


『うるさいって?』


「……やっぱり、この部屋じゃなくて目の前の家に原因がありそうですね」


『一般民家でしょ? 取材許可とれるかな……』


「動画のことのついては二号さんにおまかせしているので、明日聞いてみましょう。じゃ、頑張ってもう一眠りしますね……zzz」


『寝付き早っ!! おやすみ〜』




***




「ハイ! おはようございます! 『ゴーストイーター』のウスバカゲロウ二号です!」


「三号です。今日は朝から、二号さんに来てもらいました。いえ〜い」


「基本的には三号くんひとりで物件動画は撮ってもらいたいんですけど、今回は事情が事情なのでここからは僕も同行します!」


「三号が家から出た瞬間に事故にあっても困りますもんね。もし、車が突っ込んできたら二号さんを盾にしますね」


「……キミはそういう奴だよ。でもいいさ! キミのために死ねるのなら本望だよ」


「つまんない冗談はこれくらいにして、本題に入りましょう」


「つまらない!?」


「この部屋にこれ以上居ても得ることはなさそうなので、これからちょっと調査に行きます」


「昨日、三号くんが言っていた前の家の取材許可だけど……」


「取れたんですか?」


「取れてないです!! チャイムにすら出てくれません!」


「我々の知名度が足りないんでしょうか?」


「やっぱり、初代ゴーストイーターの頃と比べると視聴者さんもチャンネル登録数もグッと減っちゃったからなぁ」


「アカウントを引き継げばよかったのでは?」


「そうはいかないよ。初代ゴーストイーターは一号のものだからね」


「ふーん……」


「まあ過去は過去! これからは二人で頑張ろう!!」


「ハイ。少しでも面白いなと感じていただけたら高評価とチャンネル登録をお願いしま……」


「ストップ!! それは解決編が終わってからだよ!! さあ、散策に行こう!」


「取材許可、取れなかったのでは?」


「家の中は調べられなくても、家の外なら調べてもいいでしょ? と、いうことで一旦場面変わりま〜す」


「この動画、場面転換多いですね」


「メタ発言やめてよ!」




***



「はい! そろそろ動画の尺的に厳しくなってきたので結論だけ失礼します!」


「時間配分の下手な相棒ですいません」


「三号くん! 相棒ならフォローして!! カメラにヒント!」


「今回のヒントはコレです。 はい、ドン」


「これ、何か分かりますか〜?」


「手のひらサイズの正方形の石です。十字に切れ込みが入っていて、切れ込みの中には赤いペンキが塗られていますね」


「馴染みはないと思います! 難易度★みっつぐらいかな〜?」


「何段階評価なんですか? それは」


「えっ……ご、五段階くらい?」


「ビミョーな難易度ですね」


「そんなことないって! じゃあ解決編までにもう少しヒントです!



謎の石は、目の前の新築のお家の近くの溝に捨てられていました!


この辺りはずっと昔、子供と車との死亡事故がありました!



……これくらいかな?」


「そうですね。詳しくは明日の動画を確認して下さい」


「ありがとう! では、ゴーストイーターでした! ばいば〜い!」


「ばいば〜い」




「……じゃ、物件に戻ろうか。三号くんの荷物を引き取りに行かないと」


「ハイ」


「その境界標、預かろうか?」


「だいじょ……いや、お願いします。渡しておきますね」


「オッケー!」


「二号さん」



「ん?」



「二号さん!」




「なに?」




「二号さん!!」




「どうしたの?」









「あぶない!!!!!」









「えっ!?」












【衝撃音とカメラ映像暗転】





















『※ふたりとも無事です★※』






<コメント:新着順5件表示>


アカウント名:通報しません

交通事故!?

え!?どういうこと????


いや、まあテロップに余裕あるからいいや笑

解読班はよ。



アカウント名:とろろん

またアヤしいもの手に入れてるな〜

見覚えあるような、ないような……



アカウント名:二アニキ

三号くん、幽霊と交信しすぎじゃない???

不思議系に見せかけて意外と現実的だから変な感じ。


けなしてるわけじゃないよw



アカウント名:パン著

二号さん、三号くんにあしらわれるのが恒例になってきた笑


明日も楽しみにしてます!

……無事なんだよね?



アカウント名:中村ななな

境界標:隣の土地との間の境界を示す目印のこと

らしいよ。

勝手に持って来ちゃ駄目なのでは?



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