Espionage10 決闘

「ヌウゥン!」

「オラァ!」


 二匹の化物が拳をカチ合わせる。凄まじい衝撃波が走る。


「ビリビリ来たぜ! スゲェなお前!」

「オマエコソ! チッコイノニ、ナカナカヤルナ!」


 二匹の化物は楽しそうに拳を打ち合う。


 一匹はその巨躯に似合わぬ素早い拳を。

 一匹はその細身に不相応な威力の拳を。


「貰ったァ!」


 一匹の拳が巨躯の顔面を捉える。


「ヌウッ!」


 巨躯の頭が左に勢いよく向く。


「イイゾ! ダガ、コレハドウダ!」


 巨躯の回し蹴りが細身を吹き飛ばす。


「ぐうっ! いいねぇ! いいねぇ!」


 細身は受け身をとって地に足をつく。


 二匹の化物はお互いを見て不敵に笑う。


「最高! 最高だ!」

「マッタクダ! モットヤロウ!」

「それがいい!」


 もう二匹に言葉は要らない。ひたすら拳をカチ合わせ、蹴りを交わらせる。

 武器などいらない。己の身体を以って殺し合う、それこそ二匹の求めるものだ。


 そして今、それが叶っている。

 二匹には最高に犯罪的な快楽の瞬間。


「はぁ……はぁ……私の息があがるとは」

「ハァ……ハァ……ワタシモハジメテダ」


 激しい打ち合いを続けた二匹の周りは地面が抉れてボロボロだ。

 そして二匹の決闘は終わりの時をむかえる。


「最後に、するか?」

「アア、ソウシヨウ。スッキリシヨウ!」


「気が合うなぁ、じゃあプレゼントだ!」

「ワタシノゼンリョク、ミセテヤル!」



 一匹は巨腕から放たれる大地の重撃を。

 一匹は細脚にて描かれる月面の麗撃を。



 その二撃は交差する。



 大地の巨腕は月を墜とす事かなわず、その身に三日月の如き弧を描く細脚を浴びる。


 そして大地は三つに裂けた。


「最高だったぜ、化物」


 彼女は満足そうに笑って呟いた。










 奴が最後に笑った意味。

 人間に分からんだろうな。


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