幼馴染の恋人を王子に奪われたが俺の『通訳』のスキルは実はチートスキルだった

桜草 野和

短編小説

 ドラゴンのメスが卵を産むときに流す涙。





 その涙を偶然浴びたタンポポだけが、永遠に咲き続ける『ドラゴンドロップフラワー』になる。





 日が当たらなくても、絶えずキラキラと輝き、その香りはどんな悪人でも聖人に変えてしまうほど、究極の癒しを与えてくれる。





 そして何より、『ドラゴンドロップフラワー』には、ある特別な力が秘められていた。








 俺の名前はトーマス。明日結婚してしまう幼馴染のレイナにプレゼントするために、『ドラゴンドロップフラワー』を、2週間ほど前から山を歩き回り探していた。





 3日前にようやく見つけたのだが、『ドラゴンドロップフラワー』が咲いているということは、そこはドラゴンの巣だ。「失礼します。ちょっと、このお花を取らしてください」というわけにはいかない。





 レイナのためなら命は惜しくない。


 だが、この花を持ち帰らなければ意味がない。





 3日3晩、チャンスを窺っていた。





 ドラゴンは逆ハーレムの習性を持ち、1匹のメスと13匹のオスのドラゴン(そのうち、1匹が子供のドラゴンだった)が群れを形成していた。





 全員が同時に眠ることはなく、オスのドラゴンが交代で見張りをしていた。しかも、1匹ではなく、見張りはかならず2匹以上で行っていた。





 ただ強いだけはなく、かなり用心深い種族だった。





「お母さん、どうしてこのキレイなお花を食べたらダメなの? とってもおいしそうだよ」





 子供のドラゴンが、母親のドラゴンに尋ねる。





「このお花を食べたドラゴンは人間になってしまうの。前にも教えてあげたでしょう。このお花が咲いたら、巣を変えることも許されない。もし変えてしまったら、石化してしまいます。ずっと、守らなければならないのです」





「どうして人間になったらダメなの? 僕、人間になってもいいから、このお花を食べたいよ」





 子供のドラゴンがよだれを垂らす。





 俺は、どの種族の会話もわかる『通訳』のスキルを持っていた。





「この子ったら、放っておいたら我慢できずに食べてしまいそうだわ。人間がどんなに愚かな連中なのか教えてあげる必要があるわね」





 メスのドラゴンは、見張りに3匹のオスのドラゴンを残して、巣から出て行った。








 確かに、ドラゴン3匹なら勝てる。洞窟の天井を見上げて、俺は頷いた。








 俺はダイヤの槍を手に取ると、見張りをしていた3匹のドラゴンに襲い掛かる。





「な、なんだこいつは?」





「ずっと隠れていやがったのか?」





「花を守らないと、ボスに殺されるぞ」





 ドラゴンたちが鋭い牙や爪、しっぽを使って攻撃してくる。この程度の攻撃なら、見切ることができる。『ドラゴンドロップフラワー』を守らないといけないので、火を噴くことはできない。





「ウギャギャギャギャャャーーーーー‼︎」





 俺は3匹のドラゴンの心臓に、ダイヤの槍を突き刺して退治した。








 そして、根を傷つけないように、慎重に『ドラゴンドロップフラワー』を掘り起こして鞄に入れる。





 これで明日の結婚式までに、レイナにこの花をプレゼントすることができる。














 幼馴染だったレイナは、『キャーロット王国』のグリン王子に一目惚れされ、その場でプロポーズされた。


 俺と花畑にデートに行っている時だった。


 レイナは断ることができず、俺も止めることができなかった。





 そんなことをしたら、俺とレイナだけではなく、それぞれの家族にまで罪が課せられてしまうからだ。








 俺がもっと強かったら。








 『通訳』のスキルを持つ俺は、勇者のパーティのガイドをしたこともあった。


 ダイヤの槍はその時のお礼として、勇者からもらった物だった。





 だが、勇者のパーティに入ることはなかった。ドラゴンを倒せるだけの強さはあるが、勇者のパーティに入るには不十分だった。

















 翌日・キャーロット城――





 馬車に乗って、レイナとグリン王子が教会に向かっていた。





 俺は花屋に扮して、馬車の前に立ちふさがった。





「無礼者め! さっさと道を開けぬと切り殺すぞ!」





 衛兵が俺をどかそうとするが、俺は衛兵を押しのけて馬車まで近づき、





「結婚祝いに、王女様となるお美しい花嫁様にこの花をプレゼントさせてください」





と言って、『ドラゴンドロップフラワー』をレイナに渡した。





「ありがとう……」





「もう気が済んだであろう。今日は気分が良いから、特別に許してやる。俺の気がかわらぬうちに、さっさと立ち去るのだ。」





 グリン王子は俺にまったく気づかなかった。





 そして、レイナは『ドラゴンドロップフラワー』に、“行き先”を告げる。





「私とトーマスが結婚している未来に連れて行って」





 レイナの涙が『ドラゴンドロップフラワー』にこぼれると、あたり一帯が白い光の閃光に包まれた。

















 俺とレイナは花畑で、サンドイッチを食べる。





「プロポーズなしの結婚になってしまったね」





「トーマスと結婚しているのですから、それくらいの代償はたいしたことありませんわ」





 『ドラゴンドロップフラワー』には、行きたい未来に連れて行ってくれる力が秘められていた。





 プロポーズはできなかったが、ダイヤの槍を分解して、ダイヤの指輪、ティアラ、イヤリング、ネックレス、アンクレットをレイナにプレゼントした。








 そこに、グリン王子の一行が通りかかる。





 グリン王子は馬から下りると、ひざまずいて、





「トーマス様、レイナ様、国王の伝言を預かって参りました。我がキャーロット王国は、他国と戦争しないこと、民を守ること、むやみにモンスターを襲わないことをお誓い申し上げます」





と言い、頭を下げた。





「これは我が王国からのお気持ちです」





 グリン王子は、財宝が詰め込まれた箱を差し出す。








 俺は『通訳』のスキルを使って、神々の声を聞き、世界中の人々に伝えるようになっていた。





 今では、このように王族たちも俺に気に入られようと必死だ。





 俺はグリン王子に財宝を返す。





「受け取るわけにはいきません」





 グリン王子は渋々と、衛兵を引き連れて帰って行った。








 あの時。ドラゴンの巣で、メスのドラゴンが出て行った時、





「今よ!」





「この機を逃すでない!」





「戦うのじゃ!」





と天からの声が聞こえた。











「ルチュルミチェルティックハイモル。はい、トーマス。私は今、なんて言ったでしょうか?」





「私はトーマスのことを永遠に愛します」





「正解。適当な言葉で言ったのに、トーマスの『通訳』のスキルはすごいわね」





「モヤテハギュメリタロモライラニメーデ。じゃ、俺は今、なんて言ったでしょうか?」





 レイナは、『通訳』のスキルも持っていないのに、俺が適当に言った言葉の意味を当てた。








 そう、俺はレイナを永遠に愛します。

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