第38話 かくれんぼ ③
「こっち!? ……居ない。ん!? 後ろ!? ……居ない」
鈴の音が聞こえたと思われる方向を向くもシオンさんもリンさんも居ない。
かくれんぼを始めてもう一週間。ずっと鈴の音を聞こうと頑張ってるけど一向にちゃんと聞きとれない。ああもうなんだか頭の中でずっと鈴の音が鳴ってる気がする。あははははは。
「はっ! 見ついたあ!?」
「時間切れだ。ドアホ」
後ろから鈴の音がしたと思って振り返るとデコピンされた。くそう。また時間切れ。
「またダメだったね。……そろそろクリアして欲しいなぁ。ボクもしんどいよ」
「うっ、ううっ……。ごめんなさい……」
かくれんぼは一時間の制限時間付きで、その時間以内に見つけられなかったら罰として筋トレさせられる。その筋トレをリンさんも一緒にやってくれるんだけど、最初はノリノリだったのに最近は制限時間が来るたびに私のことを死んだ目で見てくるようになった。辛い。
「………………」
「ほら、立て。かくれんぼ行くぞー」
「す、少し休け……」
「休憩したいならさっさと見つけてくれよ」
「……そうだよ」
「うぐぅ……」
そんなこと言われても……。
「立たねえと引っ張って行くことになるぞ。いいのか?そんなみっともない姿大勢に晒して」
「……立ちます」
シオンさんなら本当にやりかねない。服の首後ろ引っ張られて街中に強制連行させる画が浮かんだもん。
「じゃあ、一時間な。いいか。ちゃんと耳を使えよ。お前はまだ第一段階だからな。はい、スタート」
「……そろそろ本気でやってね、ミッちゃん」
街に入りかくれんぼが再開される。……リンさん、私いつも本気でやってるんです。いつもちゃんと耳を使ってるんです。
街中へと消えた二人を見つける。始めは二人はこの街のどこかに隠れてると思って動きまくって探してたけど、それは無意味だと教えられた。二人は常に私の近くに居るらしい。でも、止まってないし、目で探そうとしても見つけられないようにしているらしい。全然見つけられないから教えてくれた。
目じゃなくて耳で探せ。そう言われたけど、耳で探すって無理じゃない? 二人は鈴持ってるからその音を必死に探してるけど聞こえない。他の音が邪魔をする。
街中に溢れる音の数々。それらを排除して鈴の音だけ探そうとするけど上手くいかない。なんでかなぁ。
「…………はあ。しんどい」
連日筋トレばかりさせられて身体がすごくダルい。身体の至るところ筋肉痛で痛いし、疲労でダルいしで更に見つけられない。集中しないといけないのに。
集中して他の音を排除しないと。人の声。足音。焼く音。煮る音。商業都市内の音を排除していく。排除して鈴の音を探さないと。
………………見つからない。ダメだ。集中して探しても見つからない。全然聞こえない。それになんだか頭ぼーっとしてきた。疲れて集中が切れてきたのかな。ちゃんと要らない音排除して探さないといけないのに。あー……。
チリッ……。
ん? 今何か音が。ああ、いつもの幻聴かな。はは、鈴の音が聞こえるー。なんて。
チリン。
……あれ? 今聞こえた。今のは絶対聞こえた。今のは鈴の音がだ。でも、どこだろう。集中してなかったから全然分からない。集中しないと。
…………聞こえない。あれ? どうなってるの? さっきは完全に聞こえたのに。今は全然聞こえない。どうして?
なんでさっき聞こえたのに今は聞こえないんだろう。さっきより集中して探してるのに。集中して、他の音排除しながら……、ん?
よし、さっきと今とで何が違うか冷静に考えてみよう。
さっきはなんだか頭がぼーっとしていて何もしてないと聞こえてきた。それで今は頑張って集中して要らない音を排除しようとしながら探してたけど聞こえなかった。
…………もしかして、集中してたせい? 集中してたせいで聞こえなくなってた? でも、シオンさんもちゃんと耳使えって言ってたのに。だから、ちゃんと耳使って鈴の音だけを探してたのに。……あれ? もしかして使い方間違ってた?
シオンさんはちゃんと耳使えって言ってたから使ってる気になってたけどそもそも使い方を間違ってた? でも、それなら正しい使い方ってなんだろう? シオンさんそんなの言ってくれなかったし、言ってたのってちゃんと耳使えとか、第一段階とか。
ん? 第一段階ってなんだろう? 何の段階? 耳使うことの段階? でも、耳使うのに段階なんてあるかな? 耳なんて聞くだけだし……、あ。
「あっ、あっ! そういうこと……?」
今まで要らない音を排除しようとしていたけどそれは間違いだったんだ。そんな要らない音を排除して要る音だけを聞くなんて私にはまだ出来ない。これは多分第二以上の段階。私はまだ第一段階。全部の音を聞く段階。
耳に入ってくる音をちゃんと聞くんだ。大きい音でも小さい音でも。全部の音を聞くんだ。そうすれば
「…………。…………。……っ! あっ! リンさん!」
「え? あっ」
「リンさん見っけ!」
やった! やっと、やっと見つけることが出来た!
「はああぁ。やっと見つけてくれたねえー。疲れた」
「あ、あはは。ごめんなさい」
「いいよいいよ。ちゃんと見つけてくれたし。……時間掛かったけど」
「はは……」
本当に時間かかったよね。一週間もやることになるなんて。一週間、ほぼ筋トレだった気もするけど。
「よーし、終わり。帰ろう! ボク疲れたから」
「はい!」
ついに鈴の音を頼りに見つけることが出来た。これで少しは私も音を戦闘の中で使えるようになったかな?
そんな風になれたかは分からないけど、これでかくれんぼもおしまい。やった。次は避けるの続きかな? その前に少し休みが欲しいなぁ。疲れた。
かくれんぼを終え、リンさんと二人で宿へ向かう。何か忘れてる気がするけど、まあいいや。もう疲れた。早く休みたいし。私達は二人で宿へと歩んで行った。
「……あいつら俺のこと忘れてやがる。……良い度胸してんなぁ」
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