第37話 かくれんぼ ②

「かくれんぼ、ですか?」


 かくれんぼってあの隠れた人を探すあの遊び?


「そ。これからこの都市の中に俺とリンが隠れるからミイナは俺達を見つけろ」


 この都市の中に隠れた二人を見つける。いやいや、無理。


「こんなに人が多いのに見つけられるわけないじゃないですか」


 商業都市は街自体はそこまで広くない。でも、とても多くの人がいて、街が狭いことも相まって密度がすごい。そんな中から二人を見つけるなんて無理。


「だから、俺達はこの鈴を持つ。この鈴を絶えず鳴らし続けるからこの音を頼りに探すんだ」


 チリンチリンとシオンさんが持っていた鈴が鳴る。

 

「そんな小さな音頼りになりませんよぉ……」


 街の中では色んな音が鳴っている。人の声はもちろん、何かを焼く音や金属の音、色んな商売をする店がある分音の種類も増え、大きくなる。この音の中からこんな小さな鈴の音を見つける。やっぱり無理。


「やる前から諦めるのか? やっぱり腐ってんなお前の根性」

「こ、根性は関係ないですっ!」


 私の根性が腐ってるとかじゃなくて無理だもん。


「まあ、お前の根性が腐っていようがお前が何と言おうとがやるけどな。今回は初めてだし一時間以内に見つけろよ。じゃあ、頑張れ」 

「ちゃんと見つけてねミッちゃん!」

「え、あっ……」


 チリンチリンと鈴の音と共に二人は消えた。一時間以内に二人を見つける。強制的に始まったけど私に拒否権なんてないのでやるしかない。


「……動こう。動いて見つけよう」


 何はともあれ動かなければ始まらない。二人はもうどこかへ行ってしまった。だから、私も動き出そう。


 今私が居るのはメインストリートの端っこの方。多分二人もこのメインストリートに居るはず。この通りが一番人通りが多く音も多い。二人は鈴を持っているんだから鈴の音を隠すためにこの一番音が多いところに隠れてるはずだ。


「とりあえず、逆の端っこまで行ってみよう」


 まずはこの通りを向こうまで行こう。二人ならもう既に向こう側まで移動することも可能だし、一通り探しながら進もう。


 あたりをキョロキョロしながら歩く。おっと、危ない。あっ、すいません。うわっ、人が多すぎてちゃんと前見ながら歩かないと危ないな。……歩くだけで精一杯なのにさらに二人を見つけるなんて。しかも、リンさんは小さいし、シオンさんはシオンさんだし。どうせすごく見つけにくいとこに隠れてるはず。


 人を避けつつ二人を探す。店の中に入ってたりするかな? あっ、美味しそう。じゃなくて二人を探さないと。うーん。ん? すごくいい匂いするなあ。香ばしい美味しそうな匂い。お腹空いたなぁ。


「ん?」


 あれ? なんだろう今何か頭の後ろがふっとしたような。何かが通りすぎたような感じが。


「……ん?」


 あれまただ。さっきから何か後頭部あたりで通り過ぎてる感じが。まあ、こんなに人が多いしね。接触しそうになってそうなってるのかも。



 その後も、人を避け様々な誘惑に惑わされながら軽く探す。そして、元にいた端っこの逆側へ。


「うーん。見つからない」


 逆側まで来たけど全然見つからない。もしかして、メインストリートには居ないのかな? でも、それ以外だと鈴の音が目立つだろうしなぁ。リンさんはともかく性格の悪いシオンさんはきっとメインストリートに居るはず。


「もう一回戻ろうかな。さっきは左側を多く見てたから右を見つつ戻ろう」


 と、決め私は再びメインストリートを歩き出した。


「…………見つからない」


 が、また始めの場所に戻って来ても二人は見つからない。それどころかもう二回は往復したのに見つからない。


「おかしいなぁ。ちゃんと見たのに」


 一回目の往復では歩き辛さもあってあまりちゃんと探せなかった。だから、二回目の往復は歩く速度を落としちゃんとあたりをキョロキョロし探してたのに全然見つからない。鈴の音なんて聞こえもしない。


「……メインストリートじゃなかったのかな」


 私は一人はメインストリートに居るはずと思ってこのメインストリートを探してたけど違ったのかな。


「いや、ずっとメインストリートにいたぞ」

「ですよね。メインストリー……トおぉ!?」


 ひえ!? シオンさん!? え、いつの間に!?


「そうだよー。ずっとここにいたよー」

「リ、リンさんも」


 シオンさんだけじゃなくリンさんまで!? 二人共いつの間に近づいてきたんですか!?


「時間切れだ。ミイナ。あーあ、全然見つけられなかったなあ? これだから腐った根性の奴は」

「根性は、関係ないじゃないですかぁ……」


 だから、根性は関係ないでしょ……。確かに腐ってますけど……。


「人のアドバイス無視しやがって。ずっとキョロキョロキョロキョロ。そんなに周りをキョロキョロして楽しいか? キョロ助」

「キョロ助!?」


 キョロ助って! キョロ助って、……ちょっと可愛い……。じゃなくて、キョロキョロしないと見つけられないでしょ。


「音聞けって言ったろ。なんの為のこれだよ」


 チリンチリンと持っていた鈴を鳴らすシオンさん。いや、そんなこと言われても……。


「そんなの全然聞こえなかったですよぉ……」


 人の声とか焼く音とか炒める音とか色んな大きな音でそんな小さな鈴の音なんて全然聞こえなかった。


「お前が聞こうとしてなかったからだろ。ずっと俺達はお前の近くに居たんだぞ」

「え?」


 近くに居た? いやいや、そんなはず。


「ミッちゃん音にも風にも全然気づかなかったよね。ちゃんと鈴は鳴らしてたし、後ろ髪触るか触らないかぐらいでヒントあげてたのに気づかなかったよね」

「え!? あれヒントだったんですか!?」


 そういえば何回も後頭部にふっとする感覚があったけどあれがまさかヒントだったとは。いや、でも、後ろ向いても居なかったのに。


「はあ。まさかここまで出来ないなんてなあ?」

「ミッちゃんダメダメだねぇ。ガッカリだよ」

「うっ、うううっ……」


 くっ、二人揃って。こんなの出来るわけないじゃないですか。そんな小さな音を頼りに探すなんて。そんなに言うならやってほしいものです。


「な、なら、お二人がやって見せてくださいよ! 私が隠れますんで見つけてくださいよ!」

「うん、いいよ。じゃあ、ボクが探すから、はいミッちゃん。鈴」

「あっ、はい」 


 ……随分あっさり引き受けられた。ちょっとは渋るのかと思ったのに。


「六十数えたら探しに行くからねー! じゃあ、行くよー! いーち!」


 耳に指で栓をしぎゅっと目を閉じ数を数え始めるリンさん。や、やばい。早く行かないと。



「……ここらでいいかな」


 さっきいた場所から移動した私はメインストリートから離れて細い路地裏へと来ていた。ここならさっきの場所とメインストリートから結構離れてるから鈴の音がした所で聞こえないはず。ふふっ。リンさんもさっきの私みたいにメインストリートを彷徨えばいい。


「それにしても本当に見つけられるのかな?」


 持っていた鈴を鳴らしてみる。チリンチリン、チリンチリン。うーん。音は高めで他にはない音で聞こえやすいかもしれないけど小さい。


 ……リンさんが彷徨っていたらかわいそうだな。ちょっと大きく鳴らしてみよう。


 私は鈴を力強く鳴らしてみる。チリンチリン! チリンチリン! さっきより大きな音が鳴り響く。それでもこんな音がメインストリートの方まで聞こえるはずないしなぁ。やっぱり向こうに移動してあげるべきかなぁ。チリンチリン! チリンチリン!


「そんなに鳴らさなくても聞こえてるよ」

「ひええ!?」


 え、なに! リンさん!? 後ろから!?


「始めの音で聞こえてたよ。……ちょっと迷っちゃったけど」


 あの始めの小さな音で? ……嘘、じゃないんだよね。すぐ見つかったし。


「あーあ。あっさり見つかったなあ?」

「うっ。……シオンさん……」


 ああ、ああ。嫌な笑い方だ。


「出来ることが証明されちゃったなあ?」

「うっ……!」

「じゃ、頑張るしかないよな?」

「……はい」


 商業都市に一日中彷徨う冒険者が誕生した。

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