第28話 神器

「いっぱいいるね」

「……いっぱいいますね」

「ちょっと気持ち悪いね」

「……そうですね」

「面白くなりそうだな?」

「なりません」


 やって来ました。定番の森です。そして、隠れる私達から離れたところには今回のターゲットリザードマンです。その数なんと二十! 一体でも勝てないのにこんな数を相手に一体私はどうすればいいのか!? 必見です! ……はあ。


「じゃあ頑張って! ミッちゃん!」

「……はい?」

「ボクらちゃんと応援してるからね! フレーフレーミッちゃん!」


 ああ可愛いなあ。そんな両手をグーにして胸あたりに持っていくのは反則的可愛いさだなあ。……応援は戦力的支援をお願いします。


「安心しろ。俺もちゃんと観戦してるからな」

「せめて応援してください。って言うか無理です」


 もう観戦でも応援でもいいけど無理だから。私があの群れ相手に勝てるわけないから。


「私が勝てるわけないじゃないですか。武器すら持ってないんですよ」


 ゴブリンに折られて以来剣の一本も持っていない私。そんな私がどうやってあれに勝つ? 無理無理。やる前から結果が見えてる。


「じゃボクの貸してあげる」

「いやいやいいですよ。壊したら大変ですもん」


 そうそう。リンさんの刀借りて壊しでもすれば大変。リンさん道具は大切にしないといけないんですよ。


「なら、俺の貸してやる」

「いいですって。欠けたりしたら駄目ですもん」


 シオンさんも武器を差し出してくれた。それは二本のナイフ。すごくきれいな銀色をしたナイフ。そんなナイフを私は使えませんよ。刃が欠けでもしたらどうするんですか。


「大丈夫だ。これは絶対に壊れないし、欠けることすらない」

「え?」


 いやいや。そんな絶対に壊れない物なんてありませんし。


「これはな、神器の一つだ」

「神器?」


 神器? 何神器って?


「神器って言うのはとある馬鹿な天才科学者が作った武器だ」

「馬鹿な天才科学者?」


 馬鹿なのに天才なの? 天才だから馬鹿なの? 馬鹿と天才は紙一重なの?


「これは文字通り神の如き力を持つ武器だ。ってそいつは言ってたけどそこまで大したものじゃねえんだけどな」

「どっちなんですか」


 大したものなのかそうじゃないのか。どっちなんだろう。


「とりあえず神器は絶対に壊れねえんだ。どんな衝撃や圧力を受けようともその形が絶対に変わることはない。竜王の劫火バハムートブレイズですら無傷だ」

「え! あれですら!?」


 竜王の劫火バハムートブレイズって私がシオンさんと初めて会った時見たあれだよね。ドラゴンを一瞬で焼き尽くし空すら焼き尽くしそうなもの凄い威力の魔法。あれですら無傷? ……ないない。


「本当だっての。なあ、リン?」

「? なんでリンさんに振るんですか?」

「そりゃリンも神器持ちだから」

「え!」


 リンさんも神器持ってるの!? てっきりシオンさんが私を騙そうとしてついた嘘だと思ってたのに。


「やっぱり気づいてたんだ。そうだよ。ボクも持ってるよ。これこれ」


 そう言うとリンさんは私に背に背負った筒も見せてきた。あ、この筒が神器なんだ。ずっと背負ってるけど使ってるとこ見たことないし変わったカバンなのかって思ってた。


「ホントに折れることも欠けることもないよ。だから、安心して使うといいよ。あっ、シオンのよりボクのやつの方がいいなら貸すよ」

「い、いいです……」


 いや、本当は武器が壊れるとかはどうでもいいんです。私が言いたいことは無理なんで帰りましょう。これだけです。


「まっーたく。ほら、ミイナ手出せ」

「な、なんでですか?」

「いいから」


 いきなり手を出せってなんでですか? 嫌な予感しかしない出したく、はい分かりました出します。


「ミイナは良い子だなあ」

「いやそんなこと言われても嬉しく、え!」


 え、え! シオンさんなに!? なんで急に私の手を握ってるんですか!? 


「え、は、な、シオ」

「行ってこーい」

「ンさああああぁぁぁ!?」


 飛んでる! 私今飛んでる! 飛んでるって言うか思いっきり投げられた! 


「ン! ふう……」


 あれだけ受身の修行したからか突然こんなことになっても自然と取れるようになってる。良かった。地面さんからの体当たりの衝撃を弱められた。


「いきなりなん……」


 私は投げられて受身を取り立ち上がる。そして、理解する。うん、どう足掻いたってこうなるのは予想してた。投げられた私の目の前にはもちろんリザードマン達がいて、こっちを見ていた。


「あ、あはは……。こ、こんにちはー……」

「シャアアアア!」

「ですよね! すいません!」


 やっぱり無理だ! 笑顔で挨拶すれば見逃してくれるかと思ったけど無理だった! ひええこっち来ないでー!


 投げ飛ばされてきた私にリザードマン達は敵意を向ける。多分自分達の縄張りに勝手に入ってきたから怒ってるんだろう。だとすればすることは一つ。逃げる!


 そう決めた私はすぐに身を翻し一目散に逃げ出した。逃げる先はもちろんさっきまで隠れていた場所。あそこにはシオンさんとリンさんがいる。そこに向かって逃げれば二人に助けて貰えるはず。巻き込まれれば対応せざるを得ない!


「ハァハァ! シオンさ……」


 一目散に逃げ、辿り着いた隠れ場。そこにはシオンさんとリンさんがいる。……はずだった。


「い、いない!? あれ!? 二人共どこにいぃぃ!」


 戸惑い立ち止まる私へリザードマン達が追いついてきた。そして、攻撃される。危な! 


「ちょ、やめ、ストップ! ストップ! してくれる訳ないですよねっ! すいません!」

「クククッ……」


 あ!? 今絶対何か聞こえたよ!? シオンさんの笑い声が聞こえたよ! でも、どこからは分からないし、探してる余裕なんてない!


 一撃目は避けれた私へ次々と攻撃が降りかかる。ニ撃、三撃。リザードマンは次々と攻撃を繰り出す。そして、その数はどんどん増えていく。追いついてきたリザードマンが増えるごとに。


「っ! 痛っ……。ううっ!」


 リザードマンの数が増えるごとに避けるのがキツくなっていく。はじめの二、三匹なら避けきれたが今では十は軽く超えるリザードマンに攻撃をされている。それを引きながら避けてるからか、幸いにも囲まれずにもいる。前からしか攻撃が来ないから何とか致命傷は避けれてるけどキツイ。


 でも、前からしか攻撃が来ないと言っても避けるのには限界がある。下。跳ぼう。あっ。


 足への攻撃を避けるために跳んだ私へ槍が迫る。ダメだ。これは、避けられないっ……!


「ミイナアウトー。0点!」


 槍は私の目の前で止まった。完全に私を貫くはずだった槍。それを止めたのはシオンさんだ。


「ミッちゃんこっちこっちー。撤退撤退ー」


 後ろの茂みから声が聞こえる。見るとリンさんがいて、私はリンさんに導かれるままに命からがら撤退をした。







「ないわー。さっきのはないわー」

「そうだねー。ないねー。ひどいひどい」

「………………」


 リンさんに導かれ撤退した先で後にシオンさんとも合流をした。リザードマン達はシオンさんの影踏みで動きを止められた後は追ってきてないらしい。そして、始まるダメ出し大会。


「逃げるを選択したにしても敵のことをよく把握せず、すぐ背を向けるなんてないわー」

「引きながら避けてたけどあんな動かないのはないねー」

「俺達のところへ逃げてきて、俺達がいないのを見て戸惑ってたのはありだわー。笑えた」

「………………」


 二人からさっきので何がダメだったかを言われる。ダメ出ししてくれるのはありがたいけど、それ以前に心が折れそうです。


「おい聞いてんのか、ないわー」

「私はないわーじゃありません!」


 私はミイナです! ないわーじゃありません! でも、そう言われるのも仕方ない気がするのが悲しい!


「いやー、それにしてもひどかったね。さっきのミッちゃん」

「……そんなにひどかったですか?」


 確かに最後シオンさんが助けてくれなかったら死んでただろうけど、それまではまあまあ避けられていたし、頑張ってたと思うんだけど。


「ひどいひどいよ! ホント0点だよっ!」

「ええ……」


 そ、そんなシオンさんだけじゃなくリンさんからも0点をもらうなんて……。癒やし枠が癒やしてくれない。


「ミッちゃんは敵が複数の時の戦い方がまるでなってないよ。ダメダメだよっ!」


 うぐうっ……。癒やし枠からの追撃はキツイ。リンさん私を癒やしてくださいよ……。


「いい!? ボクが対複数戦闘のいろはを教えてあげるからよく聞いてね!」


 癒やし枠による説教、指導がはじまる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る