第27話 パーティー制度
「よーしクエストいっくよー! おー!」
貰ったお菓子も食べきり意気揚々とクエスト掲示板へと向かっていくリンさん。こんな物騒な冒険者ギルドを闊歩出来るのいいなぁ。
「うわ、すごい数ですね」
クエスト掲示板にはものすごい数のクエストが貼り出されている。さすがは冒険者の街。冒険者の数もクエストの数もすごい。
「数が多いだけじゃなく難易度も全体的に高めだな。楽しそうだよなあ?」
「いえ、まったく」
何が楽しそうなんだか。私は全然楽しくない。クエストの難易度がどうこうとかより、どうせひたすらしごかれる未来が見えてるから。
「これは? ドラゴン討伐だって」
「いやいや、こっちだろ。深海の主の討伐」
「あーそれもいいね。あっ、これも良くない? 巨大ワームを探せ!だって」
「おーいいな。全部やらせるか」
「やりません」
勝手に二人で話を進めないで。それにそんな高ランクのクエストばかり見ないで。私にはどう頑張ってもクリア出来ないから。今だに薬草採取やゴブリン討伐ですらクリア出来てないのに。
「もっと簡単なのにしてくださいよ」
「何言ってんだ。せっかくこの街に来て高ランク冒険者がいるんだぞ。パーティー制度使って難しいクエストで経験積むべきだろ」
「難易度高過ぎて積める経験なんて無いですよ!」
私が難易度の高いクエストなんて行ったところで一瞬でやられて何も出来ず終わるだけ。積める経験なんてない。
「死ぬことだって経験だろ?」
「殺す気なんですか!?」
まさかの師匠からの殺害宣言。死ぬことだって経験なんて普通の人は言えないんですよ。シオンさん自分基準で物事を考えないで下さい。私は普通に死にますから。死んでも連れ戻されるんだろうけど。
「それにしてもなんでパーティー制度なんてあるんですかね? 色々とおかしいですよね」
冒険者パーティー制度。複数人でパーティーを組み同じクエストを受けられるという制度。普通なら自分のランクに合ったクエストしか受けられないが、この制度を使えばパーティー内の最高ランクの冒険者がクエストを受ければ、それより低いランクの冒険者でも同じ高ランククエストを受けられるようになる。
これっておかしいよね。まず危ないし。弱い人に降りかかる危険を少なくするためにランク制度があるのに、このパーティー制度のせいでランクが意味を成してないし。
「こういう制度は全て貴族のおぼっちゃま達の為にある」
「貴族?」
「貴族って言うのはステータスが全てだ。爵位やら地位やら。そして、冒険者ランクも例外じゃねえ。貴族のくせに低ランクなんて許されない」
貴族か。特権階級にいる貴族なんて私みたいな平民からしたら異次元の人って感じ。そんな貴族も冒険者なんてやってるんだ。知らなかった。
「で、大抵貴族のおぼっちゃま達は弱い。ま、教育だけはいっちょ前に受けてるからな、知識はあるが経験がない。それにやる気もない。でも、ランクは上げないといかない。そこで考え出されたのがこの制度だ」
あっ、なんとなく読めたかも。
「ランクを上げるなら高ランククエストを受けまくるのが手っ取り早いから、そのクエストを受けられる奴を金で雇う。それでこの制度を使って戦うのはそいつらにやらせて、自分はランクを上げるだけ。これをやるためにこの制度がある」
なるほど。全ては貴族が楽して冒険者ランクを上げるためか。強い冒険者雇って自分はクエストに付いていくだけ。いや、実際には付いても行かないのかも。それでもパーティーメンバーがクエストをクリアすれば自分もクリア扱いになるからランクは上がる。良くできてるなー。
「お貴族様の為に制度だが、普通の冒険者だって使えるんだ。なら使わない手はねえだろ? 例えば、弱い弟子に強すぎる経験を積ませるとか」
「だから、積めないです」
だから、無理です。積めないです。何も積めないです。積もうとしても土台が弱すぎてすぐ潰れますから。
「ほら、ミッちゃんいっくよー!」
「え?」
リンさん行くってどこに? まだ何も……あ。
「受けたんですか? クエスト」
「うん!」
元気いっぱいに答えるリンさん可愛い、じゃなくて何勝手に受けてるんですか。確かに受けられるのはリンさんだけですけど。もっと話し合ってより簡単なのを受けるようにしないといけないじゃないですか。
「何受けたんだ?」
「えーとね、ミッちゃん簡単なのがいいって言ってたからね」
「え!」
え! もしかして、リンさん……
「リザードマン殲滅! ってクエスト受けた!」
「……え?」
……リザードマン? ……殲滅?
「二十匹ぐらいのリザードマンの群れが住み着いてるからそれを殲滅しろ、だって」
「二十……」
いや、リザードマン二十って。一匹ですら中級扱いで強いのにそれ二十って。無理無理。
「良かったなミイナ。簡単なので」
「どこかですか!?」
どこが!? どこが一体簡単!?
「ねえー。いこうよー」
「そうだな。行くか」
「いや、無理です! 無理ですから!」
「あっそ」
「反応それだけ!?」
…………私に選択権などなかった。
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