第14話 ボクも師匠に! ④
「……ほぉー。随分なこと言ってくれるじゃねえか」
「自分で言ったんでしょ? クソ雑魚だって」
シオンさんに喧嘩を売ったリンちゃん。いや、喧嘩を売ってる訳じゃないのかもしれない。ただ、純粋にそう思ってそれが口に出ちゃっただけかも……。
「ボク、クソ雑魚の相手してる程暇じゃないんだよね。……ぷぷっ」
あっ、これ分かって喧嘩売ってるやつだ。全部分かった上でやってる。純粋とかそういうのじゃなかった。
「ほぉ。奇遇だな。俺も日光浴に忙しい」
「前も言ってましたけど、それ暇ですよね?」
出会った時も言われたけどそれは忙しいって言わない。確かにシオンさん日光浴してる時多いけど。って言うより私の指導中とかずっと気持ち良さそうに日光浴してる。
「……バカの相手してる時間もないしっ」
喧嘩売ったのにシオンさんにスルーされたからか、少しムスッとするリンちゃん。ああ、ムスッとした顔も可愛い。
「まあまあ。そう言うなよ。要するに俺がクソ雑魚じゃないって分かればいいんだろ」
クックッとかすかに笑いながらシオンさんは言う。シオンさん。こんな小さい子をからかって楽しいですか?
「じゃあ、手合わせでもしようぜ。俺とリンで。まいったって言った方が負けで」
シオンさんがリンちゃんへ提案する。手合わせをしようと。シオンさんとリンちゃんの手合わせ。ドラゴンを圧倒的火力で倒した不死で影使いのシオンさん。八匹のリザードマンから一撃も貰うことなく同士討ちさせ、片刃しかない変な剣を使うリンちゃん。どちらもすごく強いとしか私には分からない。
「ふぅん。いいよ。……怪我しても文句言わないでね」
シオンさんの提案を受け入れるリンちゃん。最後ちょっと悪い顔してたなあ。絶対何かやる気だ。でも、シオンさん不死だし。それより悪い顔も可愛いねっ。
「おうおう何でも来い。あっ、そうだ。特別に武の頂きに至りし者の力を見せてやる」
武の頂きに至りし者? そう言うとシオンさんの影が蠢き出す。
「纏え、影よ。武の頂点に至りし者の影を! 影纏い『武神ゴルドーラ』!」
シオンさんの影が形を変える。武の頂きに至りし者の形へと。
「さあ、かかってこいよ。武神の力を見せてやる」
武神ゴルドーラ。その影は人の形をしていた。中肉中背のシオンさんより一回り以上大きく、筋骨隆々とした感じの影。でも、以前のバハムートの様に圧倒的な威圧感などは感じない。むしろ、すごく静かな感じ。シオンさん自身はうるさいけど。
「変身? ……変な魔法を使うんだね」
ゆったりと構えるシオンさんに姿勢を低くし少し前のめりに構えるリンちゃん。そして、先に動いたのはリンちゃんだった。
低い姿勢のままから一歩、二歩と走り出したリンちゃん。素早い走りだけど、まだここまでは私でも追えた。ここまでは。
「え! き、消えた!?」
リンちゃんが三歩目を踏み出し、次の四歩目を出す時、私の視界から突如としてリンちゃんの姿が消えた。リンちゃんの走りはすごく早かったけど、真っ直ぐだった。一直線にシオンさんへ向かって行っていた。だから、追えるはずだった。でも、消えた。
「おっと」
シオンさんが何か動いた。でも、何したかは分からない。二人共私とは次元が違い過ぎて全然何が何だか分からない。
「…………すごい」
リンちゃんの声が聞こえた。声の元を探すとリンちゃんははじめと同じ位置にいた。
「すごい! すごい! 今のどうやったの!? それにボクの攻撃全部躱された!」
「リンこそ中々面白い技術を持ってるな。良かったぞ」
え? え? 何? 何が?
「ねへへっ! あっ、ごめんね。クソ雑魚なんて言っちゃって」
「気にすんな。自分で言い出したことだ」
「ん、そっか。じゃあ気にしない!」
気にしないんだ。
「一撃も当てられなかったし、遊ばれてたしボクの完敗だね! まいった!」
え、リンちゃん完敗なの? って言うか何してたの?
「それで何教えて欲しいんだっけ?」
「どうやって強くなったのかだな。その年齢でその強さ。優れた指導者から指導を受けてきただろ。で、あの馬鹿弟子の修行に使えそうなのがあればそれを」
「馬鹿弟子?」
あっ、どうも。馬鹿弟子です。へへっ。
「……うーん。言葉で教えるって難しいしなぁ」
なんでこっちチラッと見てから言ったの? なんだろう。すごく馬鹿にされてる感が。あっ、私馬鹿弟子だった。
「じゃあ、実際に指導してみるか? 手本見せて真似させるやり方で」
「ボクが指導?」
「そうそう。あの馬鹿弟子の師匠になるのはどうだ?」
「師匠……。ボクが師匠……!」
ん? なんだか私のことで私を無視して物事が決まる予感が……。
「うん! やる! ボクも師匠になる!」
「そうかそうか。一緒に馬鹿弟子をいじ、指導していくか」
「うん!」
あの、私の意見は……?
「よろしくね! 弟子!」
「あっ、はい。よろしくお願いします。……師匠」
ひたすら蚊帳の外にいた私。気づけば、私の意志など関係なく私の師匠が一人増えていました。
……可愛いしいいけど。
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