第7話 成功の影に ②
「昨日はよく休めたか?」
次の日。私とシオンさんは約束通り冒険者ギルドで会っていた。
「はい! バッチリです!」
昨日は気絶することもなく早くから休めたお陰で体も元気。筋肉痛はしっかりあるけど、この一週間でもう慣れた。むしろ、筋肉痛があるのが普通で少ない今は普通じゃないぐらい。
「そうか。じゃあ、気をつけてな。いってらっしゃい」
「……え?」
え? いってらっしゃい? いってらっしゃいってシオンさんは?
「俺冒険者登録してねえしクエストに同行することは出来ねえからな。だから、いってらっしゃい」
「ええ!?」
シオンさん冒険者登録してないの!? てっきりシオンさんと一緒にクエストに行くんだと思ってたのに。
「ほら、さっさと行ってこい。ゴブリン討伐だっけ? 気をつけてな」
ひらひらと手を振って送り出すシオンさん。シオンさんと一緒だと思ってたのに。まあ、そんなこと考えてもしょうがないよね。シオンさん全く動く様子ないし。
「いってきます!」
シオンさんに送り出され、私は一人でクエストへと向かった。
「ゴブリンがよくいるのは森か草原で群れで行動する」
ギルドから出て、近くの草原へとやって来た。爽やかな風が吹き、さんさんと太陽が照らす良い天気で気持ちがいい。
「ゴブリンの群れと遭遇した場合、無理をせず退却することを推奨する。退却が出来ない場合は、個別に対処するべし。ふむふむ」
草原を歩きながら、私は図鑑のゴブリンのページを読んでいた。ゴブリンは人間の子供ぐらいの小さな体で知能の低い低級魔物。知能も低く、力も弱い。ただし、群れには注意。
「これぐらいなら余裕で倒せそう。だって冒険者が初めに受けるクエストが薬草採取かこのゴブリン討伐な訳だし」
新米冒険者が初めに受けれるクエストはこの二つ。私は薬草採取をやって、その時にシオンさんと出会った訳だけど。あれから一週間とはいえ、あれだけ鍛えたんだもん。ゴブリンぐらい余裕のはず。
「草原にはいないなぁ。じゃあ、森の方かな」
あたりをキョロキョロ見回すけどそれらしい姿は見つからない。なら、あの前に見える森の中にいるんだろう。そう思い、森の方へと足をすすめる。
「森、ん? ……あっ! スライム!」
森の方へと足をすすめている途中、同じく森の方へと進む青っぽい物体を見つけた。スライムだ。
「スライム。ううっ。嫌な思い出が」
スライムと初めて出会ったことを思い出す。危うく食べられそうになり逃げだしたあのことを。
「いや、あの頃の私とは違う。私は強くなった。出来る! ……それにこっちに気づいてないみたいだし」
自分を奮い立たせ剣を抜く。幸い、スライムは私の前で森の方へと進み、後ろにいる私の事には気づいてないみたい。チャンス!
「スライムは核を潰す。核、あっ。あれか」
以前は見つけられなかったスライムの核。今回はすんなりと見つけられた。青い山状の体の頂点あたりにあった小さな丸い物体。あれが多分核だろう。
「よし。いける。やああああ!」
構えた剣を勢いよく核へと振り下ろす。振り下ろした剣は核を簡単に真っ二つにした。
「……や、やった! スライムを倒した!」
核を潰されたスライムの山状だった体はその形を崩し、地面に水たまりのようになっていた。
「よーし。この調子でゴブリンも!」
壊れたスライムの核を剣で取り出し腰に着けていた袋へと入れる。ギルドで討伐した証として渡すために。証拠がないと討伐したことも認められず、お金ももらえない。核を入れ、袋の口をぎゅっと閉め、再び森へと歩き進める。
その後も森へ向け歩き、ついに森の入り口へと到着した。
「この森の中にゴブリンが……」
晴天の空の下、森の中は爽やかな空気で満たされ清涼なものだった。森へ柔らかな太陽の陽が注ぎ、木々は陽に照らされ輝き、地面に影を作る。風は吹き抜け、草木が揺れる。明るく、清涼な森。
しかし、私にはそうは感じれなかった。
森の入り口で足が止まる。目の前には清涼なはずの森。だけど、一歩が踏み出せない。緊張。不安。恐怖。様々な思いが私の足を重くする。
見渡す限り何もなく不安などなかった草原から、障害物ばかりでどこに敵が潜んでいるか分からない森へと変わる。清涼な森なのに私には禍々しいもののよう見える。前の森とは違う。誰の手も加わらず、自然そのものの森。危険が潜むことが当たり前の森。そのことで私は一歩を踏み出せずにいた。
「………………ダメ」
私は呟く。否定の言葉を。私を否定する言葉を。
「決めたんだから」
呟きは森の中へと吸い込まれて消えた。弱き私の意志とともに。
「私は強くなる! こんなところで止まっていられない! 進み続けるのみ!」
弱き意志と決別し私は森の中へと一歩踏み出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます