第6話 成功の影に
「これからよろしくお願いします! シオンさん!」
シオンさんと出会い、弟子入りすることになったあの日。あの時の私はすごい人に弟子入り出来たと内心大喜びだった。頭の中はお花畑状態だったと言っても過言じゃない。そんな過去の私。……今の私を見たらどう思うんだろう?
「シオっん、……さん! ハァ! ハァハァ……。も、もう! 無理、ですっ!」
「きゅうじゅうごー。無理と言えるならまだ無理じゃねえな。はい、きゅうじゅうろくー」
シオンさんと出会い、弟子入りすることになったあの日から一週間。私は早速シオンさんに鍛えてもらっていた。
「きゅうじゅうなな。きゅうじゅうはち。おい、遅れてるぞ。はい、きゅうじゅうきゅうー。ひゃく〜」
「っハァ……! ハァハァ……。し、死ぬ……」
シオンさんに鍛えてもらい始めて一週間。この一週間は私の想像とはだいぶ違うものだった。想像では、すんごい魔法や格闘技術を教えてもらう日々を描いていたのに、現実は全然違って厳しいものだった。
「じゃ、次は走り込みな。ここからあの木まで往復十回」
「スクワットした直後に走り込み!?」
この一週間、私は来る日も来る日も筋トレをしていた。
「ひゅー……、ひゅー、ふひゅー……」
「空気漏れてんぞー。いつまで寝転がってんだ。早く起き上がって素振りやれよー」
……無理。もうまともな息遣いすら出来ない。空気漏れ起こしてるし。ふひゅー。
剣の素振り。スクワット。走り込み。来る日も来る日もこればっかり。無理だと言っても聞いてもらえず、気絶しても叩き起こされ、鍛えられる。そして、気絶し、叩き起こそうとしても起きなくなればその日は終了。次の日またこれの繰り返し。
「ほらー、早くしろよー。時間は待ってくれねえんだぞ」
「……ま、待って、ください……」
「だから、待ってくれねえって」
「そうじゃなくて! シオンさん、が、待ってください!」
言葉が、通じない。さっきもだし、今までずっと。ずっと言ってたけど毎回うやむやにされて修行させられてたから今回はちゃんと言おう。もう無理です。
「休憩を、じゃなくて修行がキツ過ぎます。もう少し楽なのを……」
「強くなりたいんだろ?」
「え?」
「強くなりたいから俺に鍛えて欲しいって弟子入りしたんだろ?」
「うっ……。それは、そうですけど……」
確かに私が強くなりたいと思って自分からシオンさんに弟子入りさせてもらった訳だけど、いくら何でもキツ過ぎる。
「じゃあ、ほらやれ」
「で、でも、私にはキツ過ぎます……」
少し前までただの一般人だった私にとってこの修行はキツ過ぎる。こういうのってもっと鍛えてる人がやるものじゃないの?
「だろうな。だから、やれ」
「ええ……。無理ですよぉ。それに怪我とかしたらどうするんですか」
「大丈夫だ。怪我なんてすぐ治してやるし、死んだら連れ戻してやる」
「そういう問題じゃないんです……」
そうじゃなくて私は怪我しそうな程のこの修行をどうにかして欲しいって思って言ったのに……。それよりよく怪我しないな私。
「いいか、ミイナ。強くなるには必要なものが三つある」
「三つ?」
「知識、経験、身体。この三つだ」
強くなるために必要なもの。知識、経験、身体。何となくだけど分かる。魔法とか武器の扱いとかの知識、戦闘の経験、丈夫な身体とかだよね。
「今のミイナにはこれら全て備わっていない。だから、これらを備えるためにまずは身体を作っているんだ」
確かにこれら三つを備えるためにまず身体作りっていうのも分かる。けど、何も別に一つずつ鍛えていく必要はないはず。
「で、でも、経験を積みながら身体を作っていくことも出来るじゃないですか。ほら、新米冒険者が冒険者ギルドでクエストをこなして行きながら強くなっていくようなお話もいっぱいあるじゃないですか」
作り話でも有名な冒険者の実話でもよくある。誰だって初めは一般人からで弱かったけど、クエストをこなしていくうちに強くなっていましたっていう話。実戦で経験を積みながら身体も心も成長していくみたいな。あれみたいに鍛えたい。
「ただ筋トレするだけより、より実戦的に鍛えられていいと思うんですけど……」
「……まあ、それでも別にいいけど」
ですよねー。ダメですよねー。はいはい素振りしま……いいの!?
「何驚いてんだよ。自分からやりたいって思うんだったらやってみればいいだろ」
まさか許されるなんて。でも、やった! これであのキツ過ぎる修行ともおさらばだ。
「じゃあ、明日冒険者ギルドでな。しっかり休んどけよ」
「はい!」
そう言うとシオンさんはどこかへと行ってしまった。まあ、いいや。明日から私はクエストをガンガンこなしてドンドン強くなっていく。頑張ろう!
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