エネルギー問題
nobuotto
第1話
「済みません、休憩お願いできますか」
「またかよ。えーと次のサービスエリアは」
「現状速度だと、十八分二十七秒で生島サービスエリアに到着します。サービスエリアのブロック三五から四十まで、Bブロックはほとんど空いていますので、バッテリー補給所に一番近いボックスは…」
「ストップ。それ以上話したらバッテリー切れになるだろ」
俺は、追い越し車線に割り込み一気に加速してサービスエリアに向かった。急がないとジェーンがバッテリー切れになる。
サービスエリアについて、ストップしていたジェーンを起動させバッテリー補給所に二人でいく。何組も並んでいた。バッテリー切れになってしまったロボットを台車に載せて汗だくで運んで来る人もいる。この猛暑では一仕事だ。見ている方も汗が出てくる。
十分充電したジェーンと相手先企業の会議室で待っていると、秘書ロボットを連れた営業部長がやってきた。最新型のロボットである。やはりこの企業は成績がよいらしい。これからの商談は期待できそうだ。
「いらっしゃいませ」
清々しい笑顔で秘書ロボットが挨拶をする。ジェーンとも長い付き合いだが、そろそろ替え時かもしれない。
会議室の大型プロジェクターにジェーンが資料を映し出しプレゼンを始める。軽やかなBGMに乗せたわかりやすい内容だ。俺はここまでの資料も作れないし、こうは話せない。
この秘書ロボットは、プレゼンと会議内容を記憶しているようだ。最新型は音声だけでなく映像まで記憶しているようである。
商談も無事に済んだ。
「秋葉部長、そちらは最新型のようですが」
「そうなんだよ。非常に優秀なんだがねえ」
「バッテリーですか」
「そこだよ。優秀で多機能な分だけ消費が早いのはしょうが無いが、思ってた以上だ」
軍事用ロボットは図体も大きくバッテリーも数週間という単位で持つが民生用のロボットは人間型であり大きなバッテリー装置をつけることもできない。
会社に戻る頃にはバッテリーが失くなっていたので、補給ルームに連れて行く。
ここでも多くの社員が並んでいた。加藤も秘書ロボットと並んでいる。
「お前も帰る間際にバッテリー切れか」
「それがさ、これから接待なんだよ。接待の途中に止まったらいけないんで、一応充電をな。しかし、もう少し充電できればいいんだけどな」
「世界中で充電してんだから、制限はしょうがないよ。残り少ないエネルギーを大事に使いましょうってことだもんな」
部屋に戻りジェーンの会議レコードを見ながら報告書を作成する。同じように残業している社員が沢山いる。以前は、報告書をジェーンに作らせて俺は確認するだけだったが、この充電量だとバッテリーが持たない。機能を抑えるモードにすると長間持ちするが、質問の回答が雑になるし、記録も飛び飛びにでてきてしまう。それに、朝一の仕事が充電切れのジェーンに朝食ってのは御免だ。ここは我慢して人手作業をするしかない。
今日の仕事もやっと終わった。ジェーンを待機モードに設定して会社を出る。
いつものように馴染みのバーで一杯ひっかけることにした。最近入店した女の子を呼ぶ。これで今日も少し憂さ晴らしができるだろう。
やってきた店員が酒をつぐ途中で止まってしまった。酒がズボンに流れ落ちた。
「ちゃんと充電しとかないと駄目だろ」
女の子は「そうですね」と言って不愉快そうに他の店員を呼んだ。見た目は可愛いが、こういうところで性格の良し悪しが出てくる。もう指名するのは止めよう。
「俺、充電してくる」
気分転換も兼ねてバーのバッテリールームに俺は行った。
それにしても、一昔前ならあの交通事故で死ぬはずだった俺が、進歩した医学のおかげで内臓と右足を機械化するだけで助かった。この内臓と右足をスムーズに動かすのに充電が必要なのは少々面倒だが、死なずにすんだだけで十分だ。そして、なんと言っても俺の充電はほんの僅かで済むのだ。
「俺に比べ、あいつらは電気を食い過ぎだろ。エネルギーを無駄に使うんじゃねえよ。無限にあるわけじゃねんだぞ」
思わず愚痴を漏らしつつ、俺は充電コードを脇腹にさした。
エネルギー問題 nobuotto @nobuotto
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます