第148話

「悪いが、水をとってくれんか…久しぶりのおしゃべりでのどか乾いてたまらん」

「じいちゃん。無理しないで、この続きは明日にでも…」


 佑樹がストローのついたコップをじいちゃんに渡しながら言った。

 もちろん、おじいさんには無理をさせられない。そうは分かっていても、固唾を飲み込みながら彼の話を聞いていた汀怜奈は、ようやく知りたい話の核心に入ってきたので、ここで終わってほしくない気持ちもあり、その葛藤で心が揺れていた。


「じいちゃんがギター職人だったなんて、意外だな。親父は知っていたの」

「俺が生まれる前の話だからな、知るわけもない」


 ストローを弱々しく吸って喉を潤すじいちゃんを、佑樹と父親が見つめた。


「なに誤解しておる…わしがギター職人になったなんて、誰が言ったのだ」

「えっ、違うの?」

「だから…」


 勢い込んで話しを始めたせいか、おじいちゃんが少し咳き込んだ。汀怜奈はすかさずおじいちゃんの手にあるコップを受け取ると、優しくその背中をなぜる。


「おじいさま、本当にお話を続けてよろしいのですか」

「ああ…すまないね。今日はことのほか意識がはっきりしている。こんな日に皆に話しておかんと、話せる機会を失ってしまうかもしれん。どうか、続けさせてくれるかい」


 笑顔で答えるおじいちゃんに、汀怜奈も気持ちの整理をして、彼の話しに集中することにした。


「そのギター工房から帰るとすぐに、わしはママに言ったんだ。居酒屋で変なじいさんに声かけられて、仕事を手伝ってくれないかと誘われたことをね。そうしたら、ママは言ったよ」

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