第94話
ミチエが泰滋とのデートから帰って、明日彼がやってくることを告げると、母が大騒ぎをはじめた。
何も天皇陛下が行幸されるわけではないと、いくらミチエが言っても、母は耳を貸さない。
晩御飯もそこそこ、部屋の大掃除、茶菓子の準備、客用座布団の虫干しをしなければと騒ぐ母に、長兄は友達のところへ行くと言って早々に家を抜け出し、妹はそそくさと勉強部屋に引っ込んでしまった。結局、母の指示でミチエだけが大汗をかいてその準備をする羽目になった。
夜遅くまで玄関の拭き掃除をしながらミチエは、なんで自分がこんな目にあわなければならないのかと、すこし泰滋を恨みたくなる。
それでも、彼が来てどんなことになるのかと余計な心配をする余裕がないということは、彼女にとってはよかったのかもしれない。実際、母が指示をしたすべてのことを終えて、深夜に布団に入ると、ミチエは疲れきっていて、まぶたを閉じた瞬間に眠りの園に入っていた。
翌朝、ミチエは日課である朝ご飯のお米研ぎのために、寝ぼけまなこをこすりながら庭先の水場に出た。朝の冷たい水に手肌をさらしていると、ミチエも徐々に目が覚めてくる。そこで、はたと今日の泰滋の来訪のことが心配になってきた。
『泰滋さんは、何時に来るかな?聞くの忘れちゃったわ…』
『たぶん昼過ぎよね。海の幸が食べたいなんて言ってたけど、常識的には夕飯だろうから、昼食の時間を避けるのがマナーだもの…』
『でも…昼過ぎに来て夕御飯まで何したらいいのかしら…。じっと家にいるのも嫌だし…』
『だいたい、泰滋さんは、ここに何しに来るのかしら?本当に、海の幸を食べたいだけなのかしら…。それじゃただの図々しい貧乏学生だわ…』
「ミチエさん…」
『ビーフシチュー好きの貧乏学生なんて…傑作よね』
「ミチエさん…」
「きゃっ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます