第37話

『拝啓 泰滋さまにおかれましては…』


 女文字で、一文字一文字丁寧に書かれてはいるが、堅苦しくもぎこちない頭文だ。女子高生が身の丈に合わぬ表現に手こずっていることが良くわかる。

 泰滋は思わずニヤつきながら読み進める。しかしその後に続く文章を見て泰滋は度肝を抜かれた。


『来月4月に、修学旅行で京都に行くことになりました。

 『文通運動』をさせて頂いている級友達とともに、文通でお世話になっております同志社の皆様とお会いできれば幸甚と、恥ずかしながら初めての返事を出させていただきました』


 嘘だろ。会うことのない相手だと思っていたからこそ、無防備に自分のことを何でも手紙に書くことができた。会おうと言われても、恥ずかしくて会えるわけがないじゃないか。

 泰滋の二日酔いの頭が爆発した。手紙を読んで蒼白になった息子の顔を、理由のわからぬ母は、ただおろおろしながら見つめているだけだった。

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