第23話

 今は修学旅行と言えば、受験の準備を考えて2年の秋におこなうことが多いが、ミチエ達の時代は、3年になったばかりの春に修学旅行に行っていた。


「それが何の関係があるの?」

「修学旅行で行く先は知ってるでしょ」

「ええ、毎年京都だけど…」

「その時、京都に知り合いがいた方が何かと便利じゃない」


 そう答えながらも視線を合わそうとしないアオキャンの顔を、3人はじっと見つめた。感のいいオダキャンはピンときた。


「ははーん。あんたの文通相手、あたりだったんだ」

「当たりって…なによ」

「ちょっと、手紙見せなさい」


 オダチンは、すばやくアオキャンの手紙を奪い取った。


「ちょっと、やめてったら…」


 アオキャンが慌てて取り戻そうとするが、アッチャンとミチエが彼女を阻む。オダチンが開いた手紙から、一枚の写真がひらりと落ちた。アオキャンに来た手紙だけ、相手の写真が入っていたのだ。写真には同志社キャンパスの樹木に寄り掛って、育ちがよさそうな好青年が映っていた。


「あら、結構カッコいいわね…。たしかに半年後に会いたくなるような好青年ね」


 オダチンの指摘にアオキャンの顔が真っ赤だ。


「えっ、つまりこの人に会う前に自分の印象を悪くしたくないから、私たちに我慢しろって言ってるわけ?」


 ついにアッチャンが核心を突いた。アオキャンは足の震えを止めることができない。


「ちがう、ちがう、ちがう…そんなことないって!」

「キャー、信じられない!」


 もう仲良し4人組は、ひとつの手紙を囲んでラグビーのモール状態。騒然となった。


「はい、そこの4人。もう昼休みは終わり。席にもどりなさい」


 細い竹で黒板を叩く音ともに、彼女たちの担任教師がエキセントリックな声で4人に注意を促した。


 「さすがに『忍ババ』ね。教室に入ってきたの気づかなかったわ」


 そう呟き、クスクスと笑いながら4人組はそれぞれの席に着いた。


 英語の授業は始まったものの、ミチエは教室の窓から外を眺め、どうしたものかと思案していた。やはり文通が負担でしょうがない。労力と言う面もあったが、実は手紙そのものの内容に魅力が無かったのだ。

 どんな難しい事を言ってきたとしても、それが本当に相手の心にあるものなら、襟を正して丁寧に読み返すマナーぐらいミチエは持っている。しかし、送られてきた手紙は、どこからか借りてきた知識と思想で埋まっていた。それがミチエにはなんとなく解るのであった。


「半年か…」


 ミチエはため息をつきながらも、ミミズ事件を知られた以上、やはり我慢して続けるしかないと自分に言い聞かせた。

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