第21話

 佑樹はあらためて商品の写真を眺めた。彼の目でいくら眺めても、ギターの良し悪しなどわかるわけがないのだが、眺めているうちに不思議な感覚を覚えた。


 見ているのは自分なのだが、反対にPCに映るギターに自分が見つめられているような気がする。


「薄気味悪いギターだなぁ…。いくらなんでもこんな古臭いジャンクなギターはご免だ」


 画面を閉じようとマウスを操作した。


「うへっ?」


 佑樹は素っ頓狂な声を上げる。雑にマウスを扱ったせいか、ポインターの位置が「閉じる」ではなく「入札」のボタンの上に置いたまま2回クリックしてしまった。


「しでかしちまったよ…。落札してしまったらどうしよう。落札後の取り消しで、悪い評価がつくのも嫌だし…」


 後悔先に立たず。佑樹はデスクに肘をついて頭を抱えた。しばらくして冷静になると、佑樹も腹を決めざるを得ないと諦めた。


「まあ、いいか。とりあえずギターとして使えるんだし、万が一落札しても小遣いの許容範囲だし…」


 佑樹は、ギターのセクションを閉じた。


「さてと、ギターを弾くとなれば、やっぱサングラスは必需品でしょ」


 彼は、今度は、オークション商品の検索キーワードを『サングラス』に変えて、手頃な商品を物色する。なぜ、ギターを弾くとなればサングラスが必需品なのだろうか。

 ギターを弾きはじめる最初の必需品として、弦でもピックでもカポでもなく、サングラスに思いがいくところなど、佑樹はやはりじいちゃんの言葉を正しく理解できていないことは、誰の目にも明らかだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る