騎士団長子息に婚約破棄された悪役令嬢は略奪愛で騎士団長と結婚しました

桜草 野和

短編小説

「ロセフィーヌ、今、なんと申した?」





「だから、おじさま、私はランドルに婚約破棄されたのです。一方的に突然に。もう、教会だって予約していますし、大勢の貴族を結婚式に招待しているのです」





「待て待て待て。だからと言って、どうしてワシがロセフィーヌと結婚する話になるのだ? 結婚式に来た貴族たちも不思議に思うだろ? 第一、ワシにはアリーという最愛の妻がいる」





「おじさま、貴族はそこまで細かいことは気にしません。結婚式で派手に騒げればいいのです。伯爵令嬢の私の結婚相手が、騎士団長子息ではなくて、騎士団長だったとしても、誰もツッコミはしませんよ。それに、奥様のアリーは、騎士団のミケランと不倫していますよ。ほら、出て来ました」








 私と騎士団長のユーベが、騎士団の宿舎を見張っていると、アリーとミケランが腕を組んで出て来た。








「なぜだ! アリーがこんなことを……。しかもミケランは騎士団一の間抜け男なのだぞ」








「その間抜けさがかわいくて、母性本能をくすぐられたみたいですわ」











「おのれ、ミケランもアリーも切り殺してやる!」








「おじさま、騎士団長がそんなことをしてはいけません。すでに私が手を打っています」








 アリーがミケランに別れのキスをしていると、私との婚約を破棄したランドルが、新しい恋人のケーキ屋の娘、ネオと腕を組んでデレデレしながら歩いて来た。








「母上、いったい何を……。なぜ、こんなところでミケランと……」





「ランドル! お願い! お父様には言わないで! お願いよランドル!」





「嘘だ、嘘だ、嘘だ! 母上がアバズレだったなんて……」





 ランドルは、腕を組んでいたネオを突き飛ばして、泣きながら走り去って行った。











 そして私は、アリーと別れた騎士団長のユーベと結婚した。





 かわいそうに義理の息子のランドルは女性不信になってしまい、男同士でしか行動しなくなってしまった。








「ロセフィーヌ、愛しているよ。君はワシを裏切らないでおくれよ」








「はい、ユーベ様。私は、生涯ユーベ様だけを愛します」











 私はアリーのようなヘマはしない。





 アリーとミケランを近づけたのも私だ。











 私は、ランドルとの結婚を諦めたわけではない。





 女性不信になって弱っているランドルの心を、焦らずに時間をかけて取り戻してみせるわ。











 その時が来たら、ユーベには消えてもらい、未亡人になった私に、あらためてランドルにプロポーズさせるの。














 たった一度の婚約破棄くらい、痛くもかゆくもない。





 ランドルは、私のために生まれて来た男なのよ。





 誰にも渡しはしないわ。











「ワシを救ってくれたロセフィーヌ。永遠に愛することを誓うよ」











 私も永遠に愛することを誓うわ。ユーベ、あなたの息子をね。

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