たとえ今日死んでも明日生き返ればいいそんな日常

若宮 愁一郎

第1話 離婚…

ピピピピ…。


早く起きなさいと言っている様に

電子音が鳴り響く。

ベットサイドに手を伸ばし音を遮断するも、一睡もしてないから寝坊する事なはいと皮肉に思い苦笑いをする。


はぁ…。


大き目な溜息を1つ吐き出しノロノロと布団から出る。

少し濃いめの珈琲の芳醇な香り

こんがり焼けたトーストの

芳ばしい香り

または

炊飯器からはなんとも言えない

白米の炊けた香り

鼻孔を擽る様な味噌汁の香り


そんな物を想像しでみるがあるわけもなく、ダラダラとキッチンへ向かう。

冷蔵庫の扉を雑に開け、牛乳を取り出しパックのまま飲みながら扉を閉めた。

無造作にマグネットで扉に貼ってある

離婚届を見て先程より大きな溜息を

吐いた。

昨夜の事を色々と思い出していたら

とてつもない虚しさが襲って来た。


妻と出会ってから2年半。

特に何も問題なく過ごしてきたと

俺は思っていた。

しかし

妻にとってはそれが1番の不満だったらしい。


「啓ちゃんは、私のことが好きじゃないでしょ?ただ家のことをしてくれる人が欲しかったのよ。」


そういう言われ改めて考えてみると

出会ってから結婚まであれよあれよと

話が進み断るのも今更ぐらいまで

いっていたのだった。

ただ嫌いじゃなかったから、周りも喜んでくれているからいいではないかと言う気持ちだった事は確かだった。


「私、好きな人がいるの。その人は

ちゃんと私を見てくれてる。私を好きでいてくれるの。だから…私を必要としてくれる人と生きていきたいから別れて下さい。」


妻は俺の目を見てはっきりと

そう言った。

不甲斐ない俺だから別れを切り出されるのは仕方ないとは思っていたが

まさか浮気されていたなんて

信じられなかった。

自分が情けなくてたまらなかった。

言い訳も、罵声も、引き止める

言葉すらも思い浮かばないまま

何故か笑うことしかできなかった。


「こんな時にも笑う啓ちゃんって

やっぱり理解出来ない。離婚届、書いといてね。残りの荷物取りに来る時

貰うから。今週中には来るから早めにお願いね。」


まるで旅行にでも行く様な軽い口調で言われたら、ますます何も言い返せないまま俯くしか出来なかった。


妻はカラカラとスーツケースを押しながら玄関までいくと、くるりと向きを変え俺の元までやって来ると


「啓ちゃんは、こんな時にすら何にも

言えないのね。」


と俺の頬に平手打ちをすると部屋から出ていった。


まだ少しヒリヒリする頬を確認しながら顔を洗い、歯を磨くが


タオルがない…。


うんざりしながら着ていたテイシャツを脱ぎ顔を拭いて洗濯籠に入れる。

籠に投げ入れてふと思う…。

だれがこれを洗うのだろう。

自分は洗濯機の使い方すらわからない。また大きな溜息が吐き出された。


その後も着替え用のシャツ

靴下も何処に入っているかすら

分からない。

ソファに座り大きなため息をついた。

昨夜のスーツのポケットから、携帯を取り出しアドレス帳から会社を選び

スピーカーボタンを押すと呼び出し音が規則正しく流れ出した。

何度目かのコールでやっと出でた。


「はい、お電話ありがとうございます。〜株式会社、〜が承ります。」


コールセンター女子の顔は全くわからないが、透き通った声を聞き咄嗟に

美人ではなかろうかと思う。


「おはようございます。営業の武内ですが、体調が悪くなってしまい本日年休でお願いしたいのですが?」


俺は上手く声が出なくて声が引きつってしまった。どうも嘘は苦手だ。


「営業の武内さんですね?お風邪でしょうか、声が掠れてらっしゃいますね。お伝えしておきます。お大事にしてください。」


俺はわざとらしく咳き込み


「すみませんが、よろしくお願いします。」


と電話を切った。


はぁぁぁと大きなため息が口から

吐き出すとソファに寝転がる。

これからどうすればいいのだろう…。

まずは何をするべきなんだろうか?

数回、深呼吸をして脳に新鮮な酸素を送り込む。

目を閉じると走馬灯のように様々な

思い出が脳裏に咲き始めたが、ただ虚しいだけだった。

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