斬‼︎ 〜魔王軍を斬って斬って斬りまくれ! 例え仲間を見捨てでも、勇者が魔王を倒すために道を斬り開くのです!〜
桜草 野和
短編小説
「リディ様! 第15歩兵部隊壊滅致しました!」
「ご報告申し上げます。第8騎兵隊壊滅致しました!」
「リディ様、第2弓矢隊が応援を要請しております。このままでは、壊滅必至とのこと」
「ウォリャーー‼︎」
クソったれが。斬っても、斬ってもキリがない。ゴブリン、オーク、ゴーレム、オーガ、コボルドなど魔王軍のモンスターが、次々に湧いて来やがる。
「第2弓矢隊に応援は送れぬ。自力で踏ん張れと申し伝えよ。皆の者! ここが正念場だ! 何が何でも、勇者アカラス様が魔王ジーマディアクと戦えるように道を切り開くのだ!」
「おおー!」
士気はまだ高いが、このままでは分が悪い。魔王軍の結束が、このままで高いとは計算外だった。
10万の軍勢で攻め入れば、蜘蛛の子を散らすように、魔王ジーマディアクを裏切って逃げ出すと思っていたが、むしろ魔王を守るべくモンスターどもが集まっている。
「危ない!」
斬っ! 私は、ゴブリンに背後から切られそうになっていた、第1歩兵部隊副隊長のハリスを助ける。第1歩兵部隊はとっくに壊滅していた。
クソッ。これで今日ゴブリンを斬るのは何匹目だ。愛刀の疾風の剣がかわいそうだ。
「リディ、すまない」
「ハリス、謝る暇があったら、一匹でも多く、こいつらを始末しろ!」
「リディ、無事生き残ったら結婚しないか? 俺が代わりに将軍になってやるからさ」
「私は自分より弱い男に興味はない」
「これ、お前が使え。回復薬と、戦闘力を一時的に上げる増強剤だ。悔しいが、お前が使ったほうが皆のためだ。増強剤は、使った後、反動があるから、気をつけろよ」
「お喋りはいいから、戦闘に集中はしろ!」
「リディ、俺、本気だったんだぜ。ちょっと伏せてろ。ウォォーー!」
ハリスは、ゴブリンの隊列に猛進すると、爆薬に火をつけて自爆した。
ドドーンッ‼︎
多数のゴブリンが死に、隊列が乱れる。
「皆の者! ハリスの死を、仲間たちの死を無駄にするでない! 進めー! 進むのだ‼︎」
「おおー!」
隊列が乱れているゴブリンどもを、次々に斬り捨てて、進軍する。
泣くのは、勇者アカラスが魔王ジーマディアクを倒してからだ。
「リディ様、第2弓矢隊壊滅致しました……」
「第11騎馬隊壊滅致しました!」
「ご報告申し上げます。応援を求める部隊多数あり。不満の声も上がり始めております」
このままでは、勇者アカラス様が魔王ジーマディアクの元に辿り着けない……。
「各部隊の勇敢なる兵士たちに伝えよ! モンスターを10匹殺すまでは死んではならぬと! 今、ここで我らが負けてしまうと、王都が襲われ、残して来た家族が皆殺しにされてしまうのだ。モンスターの喉元を喰いちぎってでも、倒して、倒して、倒しまくれ!」
私はハリスがくれた増強剤を飲む。
「ウォリャーー‼︎」
一太刀で、オークの一部隊をぶった斬った。
「おおー! さすがリディ様! 俺たちも後に続くぞ!」
「よっしゃ、1人10匹殺すまでは死ぬんじゃねえぞ! 勇者様が魔王を倒すためだ! 自分たちの家族を守るためだ!」
兵士たちの士気が上がる。この機を逃してはならない。
「そこをどけ、クソったれのクソったれどもが!」
私は部隊を離れて、増強剤の効果があるうちに中央突破を試みる。
「1人でカッコつけんなよ」
お前たちは……。第6騎馬隊隊長シリウス。
「よし、このまま俺たちが敵陣の中央まで突き進み、挟み撃ちにすることで奴らを混乱させるのだ!」
第3歩兵部隊隊長ボンバ。
「リディ様の背後は私にお任せを。リディ様はあいつらを思いっきりぶった斬ってくださいまっせ」
第1弓矢隊隊長ララ。
「私たちもお伴します!」
特別魔法部隊隊長、副隊長、双子のミクーとサクー。
「ミクー、サクー、特別魔法部隊まで壊滅したのか?」
「ご心配なくリディ様。大賢者サディオス様がご到着になられましたので、部隊の指揮をお願いしてまいりました」
「ちゃんと傷ついた兵士を治癒しておりますよ。もちろん、ケガ人を襲うモンスターには、強烈な魔法を喰らわせています」
サディオスのじじいめ、やっと来やがったか。負け戦には参加しないと言っていたが、必ず来ると思っていたぞ。
「リディ様、みっけ!」
特別暗殺部隊隊長、シェターファ。
「リディ様、魔王暗殺はやっぱ無理っす。魔神官始末するのが精一杯。ここからは、リディ様について行くっす!」
「他の暗殺部隊の者はどうした?」
「魔王軍の部隊長の暗殺に向かわせました。うまくいけば、あちこちで魔王軍の隊列が乱れますよ。期待してくれっす」
「うむ。いい判断だ」
「おいらも忘れないでくれよな!」
先鋒を務めた特別巨人族部隊隊長、オッタガ。
全身に弓矢や槍、斧が刺さっている。本当は今にも倒れそうなくせして、満面の笑みでご登場だ。
頼りになる7人が集まってくれた。
「ウォリャリャーー‼︎ お前らマジで臭すぎるんだよ!」
遮る者はぶった斬って、なんとか魔王軍の中央部まで突き進む。
「ハァハァハァ……」
私たち8人は円陣を保ち、襲いかかるモンスターを、片っ端から倒しまくった。
「ちょっとは円陣のなかで休憩したらどうだ」
「私が30秒でも休む暇があったら、兵士たちに10分休ませる時間をつくってやる」
「まったく、将軍どのに死なれると一番困るんだけどな」
「シリウス、リディ様にいくら言っても無駄だとわかっているだろ。リディ様は今、勇者様に魔王を倒してもらうことしか考えていない。そのために、なるべく犠牲を少なくとか、そんな綺麗事もちっとも考えていない。自分の命を誰よりも最初にこの決戦のために捨てておる」
「ボンバ、お前がこんなに喋るの初めて聞いたよ」
「お二人とも。リディ様の護衛は私、ララに任せて戦闘に専念してくださいまっせ。……ねっ、私が守るって……言ったでしょ」
「ララーー‼︎」
私を狙った弓矢を、ララが身代わりになって受けていた。
大きな弓矢で、腹部を貫通している。
すぐに巨人族のオッタガが、矢を引き抜き、ミクーが回復魔法を使う。
だが、ララの傷が治らない。
「きっと、特殊な毒が矢に塗り込まれているっす」
と暗殺部隊隊長のシェターファが言う。
「離脱の魔法で、ララを助けます」
サクーがララを抱きかかえる。
「離脱は認めません……。ララ、生きているのなら、まだ戦ってもらうわよ」
「もちろんです。リディ様……」
ララは立ち上がると、弓矢を放って、ゴブリンどもを射抜く。
「私としたことが、2発も外すなんて……」
強者揃いの隊長たちも、体力の限界が近づいていた。
その時だった。
「援軍だ……援軍が来たぞ!」
と巨人族のオッタガが教えてくれる。
しかし、世界中の軍隊は、ここに集結していた。どこから援軍が来たのだ?
「あっ、農夫に大工に引退した戦士のじいちゃんたちまで! リディ様、世界中の民が援軍に来ているっす!」
シェターファが見事な跳躍で確認して教えてくれた。
「よし、サクーは離脱の魔法で、ララと一旦退け。民の中に、解毒に長けたものがいるであろう。その者を見つけ出し、ララを回復させて、また戦闘に戻せ。今、死なれるより勝機につながる」
「かしこまりました」
「リディ様、必ず戻ります」
サクーが魔法を使って、ララとこの場から離脱する。
「よし、私たちは勇者アカラス様と合流し、援護するぞ」
すると、キマイラが、姿を現わす。
「キュラララーボ」
大地を揺るがす叫び声とともに、炎を吹き出す。
「うおっと、アチーな。やっかいな奴に見つかっちまったぞ」
「まあ、あれだけハデに暴れたんだ。仕方ないだろ」
「シリウス、ボンバ、ここはお前たち2人に任せる!」
「あのさ、リディ様。普通、こういうときは俺たちに『ここは任せろ! 先に行け!』ってカッコつけさせるとこでしょ」
「ギャハハハッ。シリウス、カッコつける暇があったら、こいつを仕留めるぞ。リディ様や、勇者様に近づけるわけにはいかないからな」
「ボンバ、お前とたたか……」
「おっと、シリウス、その先は口にするな。そういうこと言うと、死亡フラグが立っちまう。今の話は、生還した後で、くたびれたバーででも聞いてやるよ」
「相討ちなど許さぬからな。とっととキマイラを始末して追いかけて来るのだぞ」
「イエッサー」
「すぐに追いつきやすよ」
「キュラララーボ」
キマイラが炎を吹き出す。
シリウスとボンバは、その炎を避けると、キマイラに襲いかかる。
「よし、勇者アカラス様の元に行くぞ!」
私と暗殺部隊隊長シェターファ、魔法部隊隊長ミクー、巨人族部隊隊長オッタガは、勇者アカラス様と合流するために、魔王城を目指す。
クワやハンマーなどの武器を持った民たちが攻撃を仕掛け、魔王軍を押している。
いいぞ。形勢逆転だ。
恐らく暗殺部隊が、魔王軍のリーダーの暗殺にも成功し、それも功を奏しているのだろう。
勝てる。
この戦、勝てるぞ。
勝たねばならぬのだ。
なんとか魔王城に辿り着くと、モンスターどもが片っ端から倒されていた。
間違いない。勇者アカラス様のパーティが、魔王城に乗りこまれているのだ。
「ハァハァハァ。オエッ……」
「ミクー、リディ様に回復の魔法をかけてあげるっす」
「そうしたいのですが、私の魔力は先ほどシェターファを回復したときに使い果たしてしまいました。今の私にできることは、誰かの盾になることです」
「魔力を回復しるアイテムは残っていないっすか?」
「残念ながら」
「なんで俺なんかに最後の回復の魔法を」
「私がそう指示したのだ」
「リディ様が? どうして俺よりリディ様を回復したほうが良かったに決まってるじゃないっすか!」
「シェターファには、暗殺部隊隊長にしか使えぬとっておきのスキルがあるであろう。だから、お前を優先して回復した。私は責められる判断をした覚えはない」
「そんなこともわからないのか」
オッタガがそう言うと、
「お前だって、なんでリディ様を回復しなかったんだって、思っていたに違いないっす」
とシェターファが言い返す。
口喧嘩できる余裕があるだけでも、今は頼もしい。
すると、勇者アカラス様がパーティを引き連れて、魔王城から出て来た。
「これはリディ将軍。ちょうど良かった。たった今、魔王ジーマディアクと和睦してきたので、すぐに退却してください」
「魔王と、和睦……」
「はい。これ以上、犠牲者が増えないように、和睦の流れになりまして。正直、魔王ジーマディアクはかなり強くて、勝てるか微妙でしたし、魔王ジーマディアクも、もう人間に悪さをしないと約束してくれました。和睦できて良かった良かった」
「腑抜けが!」
シャキーン! しまった。思わず勇者アカラス様を斬ってしまった!
和睦など、劣勢になった魔王ジーマディアクが、一時凌ぎのたむに申し出たに決まっておろう。
人間に悪さをしないと約束しただと? 魔王が約束を守るのなら苦労はいらぬわ!
この戦いのために、どれだけの犠牲をしいられたと思っているのだ。
「シェターファ、ミクー、オッタガ、勇者アカラス様のパーティから、使える物を全て奪ってしまえ!」
私がそう言うと、勇者アカラス様を斬られて動揺しているパーティから、シェターファたちは使えそうな物を奪い取る。
「魔力、完全回復です!」
良かった。勇者のパーティは、魔力回復のアイテムを持っていた。
「オーペリランテ!」
ミクーの回復魔法で、私の体力が完全回復する。
もちろん、シェターファとオッタガも、ミクーに体力を回復してもらう。
「シェターファ、よいか私の身体を使うのだ。これは命令だ」
「えっ……」
「では、魔王ジーマディアクを倒しに参るぞ!」
魔王の間の玉座に、魔王ジーマディアクが鎮座していた。
ただ強いだけではなく、知性を感じる。
「何の用じゃ。和睦したのだ。さっさと退け」
「シェターファ、やれ」
「ミクシーゼハイーム」
「お、お主、何をした?」
「ヘヘヘッ。暗殺部隊隊長奥義、心臓入れ替えの術を使わせてもらったっす。ここまで近づくことができれば、余裕っす」
「よくやった。シェターファ。よく聞くがいい。魔王ジーマディアクよ! 今、貴様の身体に私の心臓が入っており、私の身体にお主の心臓が入っている。つまり、私がこの心臓を突き刺せば、貴様がどんなに強かろうが死ぬのだ! 和睦に成功して油断していたな」
「しかし、そんなことをすれば、お主の命もないぞ」
「この命、とっくに民に捧げている」
「ま、待って!」
愛刀の疾風の剣で、心臓を突き刺そうとすると、シェターファが慌てて止める。
「リディ様、早まりすぎ。魔王の心臓はここ」
シェターファが、自分の心臓を叩く。
「この術は、使った本人の心臓としか入れ替えることができないっす」
「シェターファ、共に戦えて光栄であったぞ」
私がシェターファの胸、つまり魔王の心臓を突き刺そうとすると、
「お待ちください。サクーが、ララを連れて戻ってきます」
とミクーが止める。
「サラマンディアラゾーン!」
「危ない!」
魔王の闇の魔法を、オッタガが受ける。
ドスンッ。体力を完全回復したばかりのオッタガが、一撃で気絶してしまう。
「オーペリランテ!」
ミクーが回復魔法をかけるが、
「ダメです。闇の魔法によって、一時的に回復魔法が効きません」
勇者アカラスが言っていたように、確かに魔王ジーマディアクは強いようだ。
「はーい、弓矢の天才ララ、ただいま戻りました。話はサクーから聞いています。では、おいしいところ、いただきまっせ!」
サクーと姿を現したララが、弓矢でシェターファの心臓を射抜く。
ミクーとサクーは魔法でコンタクトをとっていたようだ。
ドスッ。シェターファと、魔王ジーマディアクが同時に生き絶える。
これで犠牲が報われる。
世界に平和が戻ったのだ。
「でも、なぜ私がシェターファの心臓を突き刺してはいけなかったのだ?」
「だって、そんなことしたら、本当にシェターファ、リディ様に殺されちゃうじゃないですか。リディ様、容赦ないから。その点、私は心臓を止める。つまり、仮死状態にできるように、射抜けますから」
「何、魔王はまだ完全には死んでいないのか?」
私がシェターファの心臓を突き刺そうとすると、
「リディ様、ここはミクーとサクーに任せて」
とララに止められる。
ミクーとサクーは、魔王ジーマディアクと、シェターファの身体から心臓をえぐり出した。
そして、シェターファの心臓を身体に戻して、
「オーペリランテ!」
と回復魔法をかけて傷を治す。
「おっ、俺生きているっす! さすが、ララ、信用してたっす!」
「さては、私に内緒で計画していたのだな」
「リディ様、顔にでるから魔王にバレてしまうっす」
「それでは、リディ様、魔王ジーマディアクの心臓に剣を刺してくださいまっせ」
「いや、シェターファが、命がけでやったことだ。ここはシェターファが魔王に完全にとどめを刺すべきだ」
「ダメっすよ。リディ様の活躍あっての勝利っす」
「そうです。リディ様がとどめを刺してくださいまっせ」
「私たちもそう思いまーす」
シェターファ、ララ、ミクー、サクーにそう言われたので、私は魔王ジーマディアクの心臓に剣を突き刺すべく、剣をかまえる。
気絶しているオッタガが文句言うこともないだろう。
すると、傷だらけのシリウスとボンバが魔王の間に入って来て、私の前にやって来る。
グチャッ。
「ウワッ、俺、なんか踏んじまったよ」
「シリウス、このクソったれが!」
シリウスに斬りかかろうとする私を皆が止める。
「私は血も涙もない人間だけど、魔王の心臓をこの剣で突き刺して、最後は笑いたかったんだから!」
斬‼︎ 〜魔王軍を斬って斬って斬りまくれ! 例え仲間を見捨てでも、勇者が魔王を倒すために道を斬り開くのです!〜 桜草 野和 @sakurasounowa
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