ぼっちのおっさん、悪役令嬢に襲われて大変です!

桜草 野和

短編小説

 まるでセレブ御用達のリゾート地みたいだ。





 ビーチには、トップレスで日焼けする美女たちや、キャーキャー騒ぎながら波打ち際ではしゃいでいる美女たちがごった返している。





「はい、おじさま。搾りたてのパイナップルサワーですよー」





 ブロンド美女が、とにかくハミ乳が半端ない巨乳を俺の顔に近づけながら、パイナップルサワーを持って来てくれた。





「どれどれ」





 俺は一口飲んでみる。





「マズっ! こんなもの俺様に飲ませるんじゃねーよ‼︎」





「おじさま、怖〜い。でも、おじさまのそういう所がス・テ・キ」





 美味しかったのだが、やや酸味が強く、もの凄く美味しいというわけではなかったので、パイナップルサワーを美女に突き返す。





「ああ、エイディー、抜け駆けしてズルいです〜。おじさま、アーヤのスイカビールを飲んでくださいです〜」





 そうだ。パイナップルサワーを持って来てくれた巨乳の美女の名前はエイディーだったっけ。


 そして、ツインテールで小柄なこの子がアーヤだった。


 次々増えるので、名前をすぐに忘れてしまう。





「しょうがないな」





 俺はスイカビールを一口飲む。





「ぬるいな。もっと冷やしてこいよ」





 アーヤにスイカビールを突き返す。





「ごめんなさい。おじさま。アーヤのこと嫌いにならないでです〜。もっと氷入れて来るです〜」





 エイディーとアーヤが、





「私のおじさまに近づかないで」





「嫌です〜。アーヤのおじさまです〜」





と言い争いをしながら去って行く。





 少しはゆっくりさせてもらいたいものだ。美女たちが、ひっきりなしに迫って来るので、昼寝もできない。





 まさか、こんな未来が俺を待っていたとは夢にも思っていなかった。





 国王様が乗る馬車の前に飛び出したというだけで、当時15歳だった俺はまだ童貞のまま、この無人島に島流しの刑にされた。





 俺の人生は終わった。俺は女を知らないまま、この無人島で死んでいくのだと思っていた。





 しかし、ここへ来てから30年(多分それくらい)が経ち、奇跡が起きた。





 美女たちが、次から次へとこの島に置いていかれるようになったのだ。





 その理由は皆同じで、“婚約者と結婚するためにあらゆる罪を犯した”というものだった。





 そう、この無人島はいわゆる“悪役令嬢”が島流しにされる場所になったのである。





 悪役令嬢たちは皆、男の俺がいることに驚いた。この島には、男はいないことになっているそうだった。





 まあ、俺がこの島に来てから30年も経つのだから、とっくにくたばっていると思われたか、存在そのものを忘れられたのだろう。





 だが、この島には幸い、多種の野菜やフルーツが自生していたし、水源もあった。





 それどころか、温泉も湧き出ている上に、一年中氷ができる洞窟までついていた。





 ストレスなく、かなり優雅に暮らしていた。ただ、女がいなかったこと以外は……。





 そして、俺の初体験は悪役令嬢5人が相手だった! デビュー戦でいきなり美女5人とだ! 彼女たちは、令嬢だけあってその作法にも長けていた。俺の妄想では登場することのなかった、超絶テクのオンパレードだった。女を知らずに過ごした俺の30年が報われた最高の一夜だった。





 ちなみに今の俺は、そういった行為の専門書を執筆できるほどの経験を重ねている。経験値ありすぎで、遊び人Lv.69はゆうに超していることだろう。





「おじさま、一緒に温泉に行きますわよ」





「早く、早く」





「あの気持ちいい、温泉に入りましょう。うふんっ」





 悪役令嬢たちが、漂流物のハンモックに俺を乗せると、





「せーのっ!」





と力を合わせて、俺を温泉場に運んで行く。今はもう、世界一美女の密度が高い場所になっている。





 ちなみに、悪役令嬢たちが島流しでここに来るようになってから、お酒、ビキニや紐パンなどの衣類、さらには、馬まで無人の船に積まれて流されて来るようになった。





 特に驚いたのは、もはや船というよりも、大理石をふんだんに使った立派な城が流れ着いた時だった。





 金持ちの家族や、悪役令嬢とはいえ美女ばかりなので、隠れファンたちが差し入れしているのだろう。





 おかげで今は、悪役令嬢たちと、絶好のロケーションの海上キャッスルで極めて快適な暮らしを満喫している。





 まあ、俺にバレないように、裏では悪役令嬢たちのバトルが絶えないようだが、そんなこと俺には関係ない。





「よいしょっ。よいしょっ」





 悪役令嬢たちが俺を温泉場に運ぶのはかまわないが、揺れがやや激しい。





「こんなに揺らすんじゃねーよ」





と俺が注意すると、悪役令嬢たちは、





「おじさま、ごめんなさーい」





と谷間を寄せて素直に謝る。





 なにしろ、この島に男は俺だけなのだ。“一つだけしか存在しないもの”は、無条件に特別扱いされる。


 もちろん、無人島で30年も生き抜いて来たのだから、俺自身にワイルドな魅力もある。





 鹿とウリ坊(子供の猪)を狩ってきて、焼肉をご馳走すると大喜びされる。


 そして、たっぷりのお返しをしてもらえる。目のクマが最近の唯一の悩みだ。





 この唇の上のホクロがセクシーな子が、リーナだったかな。


 それから、ひと際色白のこの子がルーシーで、ピンクの長髪の子がモモコだったような。





 うーん、毎日のように悪役令嬢たちの奪い合いの的になっているので、やはり名前を覚えられない。





 たった1人を除いて……。





 温泉場につくと、美女ばかりの悪役令嬢の中でも、群を抜いて美しい絶世の美女のカナエがいた。


 計算された清楚な浴衣姿に、あおいでいるうちわでなびく水色の髪がたまらない。





「おじさま、今日も元気そうでなりよりですわ」





 カナエはそう言いながら、うちわを捨てて帯に手をやる。





 あの時、国王様の馬車にひかれそうになっていた、ヨロヨロのセミを助けてよかった。





 きっとオスのセミだったのだろうな。





 最後まで諦めない、見捨てない。そんな当たり前のことが、結局は生きる上で1番大切なのだと、酒池肉林の温泉に入りながら思う。





 今日こそ、カナエと最後まで……。いや、まだその楽しみはとっておこう。ここでは誰にも取られる心配はない。


 むしろそうすることで、カナエの俺に対する気持ちは強くなっている。





 ああ、それから俺をここに島流しにした国王は、反乱によって野郎だらけのデンジャラスな島に送られたと悪役令嬢の誰かが言っていた。





「おじさま、私、こんな気持ちになったの初めて……」





「おじさまがいるなら、もっと早くこの島に来れば良かったです〜」





「婚約破棄されて良かったですわ。おじさま、私のほうも、ちゃ・ん・と、見てくださーい! チュッ」





 さて、俺と悪役令嬢たちとの世界一の無人島暮らしをこの場でお見せするのは、ここまでにさせていただきたい。


 大人の時間なので察してほしい。





 俺はあなたで、あなたは俺。ここから先は、思う存分楽しむとしよう。





 ここは俺が暮らしている無人島だけど、あなたの無人島でもあるから。





 悪役令嬢たちだって、俺の言うことを聞くように、あなたの言うことを聞いてくれる。





 ようこそ、美しき悪役令嬢たちと、素晴らしい日々が待っているこの理想の無人島に!

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ぼっちのおっさん、悪役令嬢に襲われて大変です! 桜草 野和 @sakurasounowa

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