変わること
nobuotto
第1話
僕は勇気を出してホームルームの司会者に立候補した。
本当は人前に出るなんて恥ずかしくてしょうがない。けれど、今変わらないといけないと思った。目立たない僕が立候補したことがクラスで受けたようで対立候補も出ないまま決定してしまった。
初めてのホームルームの日。
先生から「じゃあ、アキラ君お願い」と言われて、黒板の前に立たされた。先生は自分の机で答案の丸つけをしている。
「今日ホームルームで話し合いたいことがある人はいますか」と定番通りに聞く。誰も何も言わない。ほっとした。何か問題が出れば討論会を行わないといけない。そして何かしらの結論を出さないといけない。それを仕切るなんてとても無理だと本音では思っていた。
僕は今日の落とし物確認を行った。
「理科教室に筆箱の忘れ物がありました。名前が書いてないのですが誰のですか」
するとタケシが「ぼ、僕のです」と手を上げた。僕はタケシに落とし物を渡した。これでホームルームは終わった。
次の日のホームルームも何事もなく過ぎた。ただ前に立って「何か問題ありませんでしたか」と聞き、なさそうな雰囲気であればすぐに終わりにする。みんなだって早く帰りたいのだ。
そして最後に落とし物確認。
「視聴覚室にハンカチが落ちていました。これは誰のですか」と聞く。
また、タケシが静かに手をあげた。
「またタケシの忘れ物かよ」という声がしたが僕は無視した。
そしてまた次の日のホームルーム。みんなは帰り支度をしている。今日も誰も何も言わない。
そして最後の落とし物確認。
「下駄箱の上に下履きが片方落ちていました。これは誰のですか」
タケシが済まなそうに手をあげた。クラスのみんながざわつき始めた。
「タケシお前、下履き片方だけかよ」と言って周りの子がタケシの足元を覗こうとしている。
先生も少し気になったのか仕事の手を止めて「下履き片方だけなくすなんて。タケシ君なにかあったの」そう言ってクラスを見渡した。帰り支度をしていたみんなも手を止めた。「何もありません」とタケシは小さな声で言った。先生も「そう」と言って仕事を始めた。
次の日から落とし物はなくなった。
僕もタケシも気が弱い。だから狙われる。タケシが狙われたとき僕は何もできなかった。先生に直接話す勇気はなかった。先生に話したらいじめの対象が自分になりかねない。
タケシとは小学校1年から同じクラスだった。いつも一緒に遊んでいた。しかし4年生になってタケシが狙われるようになってから、僕は離れた。だけど、いじめっ子達がタケシの持ち物を隠すときは後ろからそっとついて行ってタケシに気づかれないように返してきた。
タケシも悪い。タケシは何回隠されても何も言わない。だから、いじめは終わらない。
僕は勇気を出してホームルームの司会に立候補した。タケシのいじめを終わりにするために考えた僕なりの答えだった。
それから、タケシへのいじめはなくなった。
僕だってやろうと思えばできるんだ。
そんな幸せな気持ちがずっと続くわけはなかった。やっぱり今度は僕が狙われることになった。
昨日はハチマキがなくなり廊下の洗い場に落ちていた。そして今日は、算数の定規がなくなっていた。
なんであんなことをしちゃったんだろうと本当は後悔していた。柄にもないことしたって、良いことなんてなんにもない。
暗い気持ちでホームルームの司会をした。みんなもいじめがあるのをわかっているのに何も言わない。みんなにとってはちょっとした悪ふざけが流行っているだけで、関わる気もないのに違いない。
「何も問題ないようですね。では今日のホームルームは終わりにします」
そう言った時、
「落とし物です」とタケシが小さな声で言った。
そして、今度は大きな声で「落とし物です。この定規は誰のですか」と言って立ち上がった。
「おいおい。今度はアキラかよ」といじめっこ達が騒いだ。するとこれまで興味なさそうにしていた女子が「あなた達、いい加減にしなさいよ」と怒り始めた。
それを見ていた先生もやっと気づいてくれたらしい。先生が席から立ち上がって僕の横まで来た。
「アキラ君。今日のホームルームは議題がありそうね」
みんなの視線が僕に集まった。
僕は司会ができるかどうか不安だった。
だけど、大きな声で「はい」と言った。
変わること nobuotto @nobuotto
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