第7話
それからの事は、私に取っては、余り思い出したく無い記憶だ。
見知らぬ土地の見知らぬ人々──。
幾ら自分が連れて来られた異世界で自由に生きる為とは言え、何の罪も無い善良な人々を騙すして生きて行くのは、良心が痛むからだ。
しかし、当時の私には、他に手段は無かった。
私は汗をかきかき、街路を歩きながら、鞄の中に入れてある、未知の技術の結晶とも言えるそのボール型の装置を握り締める。
不時着から程無くして、私はここが、かつて自分のいた世界では無い事を知った。
私の故郷であるエムロードと良く似た惑星であり、そこを支配していたエムロード人と良く似た知的生命体からは、地球と呼ばれている星だった。
最も苦労したのは、喋ったり書いたりするのに使う言語だった。
イメージ的な物の意思疎通はボール型の装置で何とかなったが、やはり、言語が扱え無いと上手く潜伏する事は出来無いだろう。
養子として住む事になった、比較的お金持ちの老夫婦の家で、私はテレビと呼ばれる電波受像装置を使い、現地民の言語を習得した。
本も読んだ。
最初は子供向けの物から始め、段々と高度な内容を読みこなして行く。
そうして、2ヶ月ほどで現地語である日本語、3ヶ月で公用語である英語、4ヶ月で最も使用人口の多い中国語を身に付けた。
それから私は、ヨーロッパ大陸の人々に似ている自分の容姿に合わせて、ドイツ語とフランス語も覚える事にした。
無国籍人としてこの日本と言う国で生きて行く為の準備が整うに従い、私は
どう考えても、そこに帰還する手段が思い付か無いのだ。
そうして思い切った私は、ある行動に出る事にする。
或る日、買って貰ったパソコンでネットに接続して勉強していた私は、沢山の人々が動画の中で歌っているのを目にした。
歌は私も好きだ。
この地球と言う惑星に住む人々も、エムロード人と同様に多種類の文化を持ち、それぞれの歌を持っている。
私はカメラとマイクを購入し、練習を重ねた歌を歌っては、それを動画サイトに動画をアップし始めた。
この惑星の人類の基準では、私はかなり美形なせいか、次第に再生数が伸び始める。
そんな訳で、この私は、ネット社会ではちょっとした有名人になって仕舞った。
こうして、オーリア連邦共和国空軍、第1戦闘航空団、特殊戦隊、第332兵器試験飛行中隊、通称『エクスリスト』の5番機
そして、しばらく時が流れた。
不時着した年の翌年、国際派で知られる名門女子高校の2年次に編入した私は、周囲の生徒達と同じ様に、その生活に溶け込んで行った。
或る日、学校から帰り、パソコンを操作していると、見知らぬ人からメールが来ているのに気が付く。
ファンレターの様な物は沢山貰っているので、授業を受ける平日はその全部を読む事が出来無い為、私は海外から送信されて来たそのメールを直ぐには読まずに、後で読む事にしたのだ。
そして、やって来た次の休日──。
私は驚愕する事になる。
そのメールには、冒頭から応援の
私の目は、そのメールに記された或る物を目ざとく見付ける。
あの懐かしい、オーリア連邦の公用語の文字だ。
と言う事は、あの時、やはり他の航空機に乗っていた母星エムロードの人達も、この世界に来ていたのだ……!
この事実に私は震え、画面の向こうに存在するであろうこの異郷の惑星に生きている同朋を思い、思わず涙した。
だが、その直後──このメールは、異世界からの
その頃、既にかなりのネット通になっていた私は、こうした感動を誘う様な小粋な演出に、ひたすら強い警戒心を抱く癖が付いて仕舞っていたのだ。
確かに、メールの中に書かれていたのは、私がかつていた世界で使っていた祖国の文字だが、メールの差出人までが、私と同じ来訪者とまで証明されている訳では無い。
そこで、私はお礼のメールを書き、英語で次の文を添えて返信する事した。
初めにいた鳥は何羽?
重たい木の実を放り投げた鳥は何羽?
これは、あの最後の作戦──
新型兵器を投下し無かった
鳥の数を質問している以上、正しい答えが0以上の自然数である事は、文面から推測出来て仕舞うだろう。
あてずっぽうで当てて来る可能性も、僅かだがある。
だが、この2つの数字が正確に分から無いのなら、それは私の様な
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