あの時私は恋していた
東雲 葵
あの時、私は恋をしていた。
きっかけは何だっただろう。友達が入った部活に、貴方が居た。普段、異性に優しくされることなんてない私は簡単に恋に落ちた。きっと、そんな程度の単純な事。
好きだと思ってから、なるべく貴方と話をしたかった。何が好きか、何が嫌いか、休みはどんなことをしているのか。たくさん話したかったけれど、私はとても臆病でいつもそばで貴方が絵を描いているのを見ているばかりだった。
私の周りには絵の上手い子が多くて、貴方と話をしていることも多かった。でも、私はこの年までそんな事これっぽっちもしたことが無かったから貴方が描くのを眺めるだけ。一度だけ描かせてもらったけれど、何もしていなかった私は線がよれたり、はみ出したり酷いもので。上手く書けなくて最後まで描くことを諦めてしまった。
恋をしている間はいつも新鮮で、ドキドキして、楽しかった。
だけど、私は一年生で貴方は三年生。好きになってからほんの数ヶ月。私は想いを伝える気なんてまだなかった。貴方をまだ良く知らない、私をまだ知ってもらっていないのに、伝えても困ると思ったから。
でも、そうもいかなくなった。原因は相談していた友達が、貴方に私の気持ちを伝えてしまおうとしたから。はたからみても、わかりやすいんだから別にいいだろう、なんて茶化されて。私の恋心は、ちょっとした身内の話題作りに使われようとしていた。
人から伝えられるくらいなら、そう思って告白を決めた。
自分の思ったタイミングではなかったけれど、私は貴方に好きだと伝えた。返事はノーだった。貴方にとっては私は妹みたいなもので、そうは見ることができないと、はっきりと伝えてくれた。
でも、正直心のどこかで『もしかしたら』なんて考えていたから、酷くショックを受けたのを覚えている。
泣いて、泣いて、大泣きして。貴方の前で頑張って笑えていたか、思い出せないくらい泣いていた記憶しかない。どうしようもないくらい悲しくて、自分用のパソコンの前で失恋ソングばかりかけて必死に自分を慰めた。
ほんの数ヶ月で咲いて、散っていった恋。今、思い返してみれば貴方への想いはきっと、恋に恋しているようなものだったんだろう。
だけど、あの時抱いていた幸せも悲しみも、全部当時の私にとっては本気だった。
私はきっと、また恋をする。何度も、何度も傷つきながら、それでも恋した人と一緒に居られる未来を願って。
あの時私は恋していた 東雲 葵 @aoi_shinonome
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