三章  異質

3-1

 いつからだろう、勝利を虚しく感じるようになったのは。


 もちろん、俺は敗北を欲しているわけではない。むしろその逆で、敗北は最も恐れる事の一つと言ってもいい。


 だから、例えそれが喜びでなくても、俺は相対した全てに勝利したいと願っていたはずで。そうすれば、少なくとも束の間の安堵と、僅かな手応えだけは得られるから。


「……ここまでやるなんて、流石に予想外だったかな」


 喘ぐように零れたトキトー先生の声が、俺の勝利を賞賛する。


「ありがとうございました」


 礼を言う声に失望の色が混じるのを、抑えられている自信がない。


 トキトー先生の頼み通り、三年生と従器を交えてから頭によぎっていた予感は、今やほとんど確信へと変わっていた。


「じゃあ、失礼します」


「……うん、そうね。また月曜日に」


 心なしか沈んだトキトー先生の声を背に、訓練場を後にする。


 おそらく俺が思っているより、トキトー先生の頭の中には複雑な感情が渦巻いている事だろう。ただ、俺の方にもそれを慮るほどの余裕は無かった。


 はたして、俺はこれからどうすればいいのか。教師であるトキトー先生に完膚なきまでに勝利してしまった俺が、この学校でこれ以上強くなる事は出来るのだろうか。


 考えは頭を堂々巡り、すぐに答えは出そうになかった。


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