僕の好きな彼女は彼女じゃない

澤田慎梧

1.アキラとアキラ

 幼馴染の沢渡玲さわたり あきらは、「男前」な女の子だった。顔が、ではない。その性格――生き方が「男前」だった。

 東にいじめっ子がいればドロップキックを食らわせ制圧し、西に喧嘩する二人がいればその両方を殴り飛ばし説教を始める。そして最後には、全員を「子分」としてまとめ上げてしまう。

 「姉御肌」とはちょっと違う。どちらかと言えば昭和の「ガキ大将」の方がしっくりくる。そんな女の子だ。


 一方、その玲とは幼稚園からの腐れ縁である僕こと青葉暁あおば あきらは、絵に描いたようなインドア少年だった。

 外で遊ぶよりも家の中で本を読む方が好き。

 肉よりも野菜の方が好き。

 勉強は出来るけど運動はからっきし。

 体も他の子より一回りくらい小さかったから、よくいじめられては玲に助けてもらう毎日だった。


 同じ「アキラ」なのに、あり方は正反対。

 それでも僕と玲は、一番の親友同士だった。

 正反対だからこそ、逆に馬が合う部分もあったんだろう。玲は怖気づく僕を野山に連れ出して遊んでくれたし、夏休みの宿題に苦戦する玲を助けるのは僕の役目だった。


 ――だから、僕の初恋の相手が玲だったのは、とっても自然なことだったはずだ。

 幼い頃は小麦色の肌と傷だらけの手足のせいで男の子にしか見えなかった玲も、小学校高学年になる頃にはぐっと女の子っぽくなった。見た目だけは、だけど。

 中身は相変わらずの「男前」。でも同年代の女子よりも目立つ二つの膨らみが、どうしようもなく「女の子」であることを感じさせて……気付けば僕は、玲のことを「友達」ではなく「好きな女子」として見るようになっていた。


「今は無理だけど、きっといつかは彼女に『好き』と伝えるんだ」


 一人密かに心の中でそんな誓いを立てて、僕は玲の「親友」を演じ続けた。「きっといつか」と秘めた思いを抱き続けた。


 でも結局、僕が玲にその気持を伝えることは無かった。

 僕の恋心は絶対に実らないと知ったから。


 僕がそれを知ったのは、中学二年生の秋のことだった――。

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