繋ぎ、世界の、窓景色

いーえく

序章

序の序―不穏な予感

「また『変異体バグ』が出現したらしい、今年に入ってもう三体目だ」


 辺り一面におびただしい数のモニターが表示された広い部屋。その中を、白衣の職員たちが慌ただしく動き回っている。

 それぞれの画面には、なにかのグラフや表、データが映っている。全ての画面に違うものが映っており、その量は膨大である。

 部屋の中央には、地球を模したような球体の立体映像が浮かび上がっている。


「今回もすぐに処理できたから良かったが……最近のペースは異常だ」


 この場にいる職員たちには、一つの共通点がある。

 全員が、ある組織――『統世管理機構』に所属しているという点だ。

 各分野から集められたエキスパートたちが顔を突き合わせて、この世界を存続させるために邁進している。日々得られる膨大なデータを集積・分析し、各国政府や警察機関と連携し管理・監視を行う。

 まさに世界の明日を担う、選ばれた集団である。


「過去のデータでは多くても十年に一度程度、平均では半世紀に二から三件だ。それが今年だけで三件だぞ? 『SPHEREスフィア』に異常が発生しているとしか思えない」

「だがマザーシステムをいくら分析しても、問題は見つかっていない。ほかのデータもそうだ、『変異群バグズ』に関するデータ以外、一切異常は確認されていない」


 どうやら彼らにとって、好ましくない事態が起きているようである。何人もの人間が頭を悩ませ、問題解決の方策を練っている。


「『変異群バグズ』自体は当初から確認されている。現状ではそこまで深刻とは言えないだろう」

「増加しているとはいっても、今のところは散発的。既存の戦力で充分に対処可能だからな」

「だがこのまま増加していくとしたら、いずれは人手が不足するぞ。今のうちに人員を増やしておくべきではないか」

「一時的な増加の可能性もある。対『変異群バグズ』用の装備を量産するにも、莫大な手間とコストがかかる。充分なデータが揃っていない段階では、実行までにかなり時間がかかるぞ」


 会議は踊る、されど進まず。いくら優秀な頭脳が集まろうと、限界はある。相手が世界そのものとあってはなおさらだ。

 彼らには根本的な治療は不可能である。できることは、少しでも早く異常を発見し、迅速に対処することのみだ。



「――『SPHEREスフィア』のマザーシステムは、我々とておいそれと弄れるものではない。他に問題がない以上、現状は対症的に処理していくしかないだろう」


 まとめ役らしき初老の男性が、そのことを全員に告げる。


「己の職務を全うすることだ。それが結局は一番の予防になる。根本的な解決などは望まないことだ、今はまだその段階ではない」


 そこで言葉を切ると、中央に浮かび上がる球体を見上げる。淡い光を放つそれを、まるで神聖な存在のように見つめている。


「この世界が無事に回るか、それは我々にかかっている。各自一層の尽力を期待する。そして願わくば、どうか今年も平穏のうちに終えることを――」

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