転生聖女×絶体絶命
有路 ちみどろ
プロローグ
第0話 暗闇の果てに
何も見えない。
何も聞こえない。
(私はここにいるのに……!)
真っ暗で、誰もいない、どこまでも続く空間で私は一人呟いた。
明かりもなく、自分の姿さえまともに確認することができない。手足の感覚はあるから、動くことはできるけど……。
時折、声が聞こえたような気がして辺りを歩き回ってみても、どこにも人なんていない。というより、生き物の気配がない。
私は一体どのくらいここにいるのだろう。なんだか途方もない時間が経ったように感じる。
私の予想が正しければ、恐らくここは死後の世界だ。なぜなら、
(死んじゃったのよね。)
不慮の事故で私は命を落とした。
たしか……家に帰る途中で……? よく思い出せない。
記憶さえ薄れてくる程、長い間ここに留まっているのかもしれない。
何もない空間を当てもなく彷徨い続けてきたけど、それももう疲れてしまった。
他に私ができることといえば静かに祈りを捧げることぐらい。……神様仏様、お願いです。どうか助けて……って。
自分でも笑ってしまう。願ってどうにかなるなら苦労しない。そう思っていても、何かに縋りたくなるくらい私の心は疲弊していた。
深い溜息をついて、もう一度祈る。すると――
『――来い、今こそお前の使命を果たせ』
突如、私の祈りに呼応したように、低く通った声が辺りに響く。
……ええと、これは神様の声? それとも仏様?
突然の出来事に混乱していると、黒に埋め尽くされた空間に一筋の光が差し込む様子が視界の端に見えた。どうやら先程の声はその光から聞こえてきたようだ。
すぐには理解が追い付かずじっと立ちすくんだ。しかし、光へ吸い寄せられるように一歩、また一歩と足を踏み出す。
不思議と驚きや恐れはなかった。誰だって良い、私を呼んでいるんだもの。何としても行かなければ、二度とここから出られない気がする。
ゆっくりと光へと近づいて行くと、思わず息をのむ。暗闇を縦に引き裂くような細長い切れ目から絶え間なく白い光が溢れ出ている。
察するところ、この中に入れということだろうか。深呼吸を一つしてから意を決して右手を差し出すと、ぐにゃりと切れ目が大きく広がり光が私を包みこむ。
(うぅ、眩しい! )
咄嗟に顔を背けて力いっぱい目をつむる。そんなささやかな抵抗もむなしく光の中で次第に私の意識は遠退いていくのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます