3日目昼 探偵――立花レン

 寝覚めの悪い夜が続いた。

 といっても調査していて寝落ちしてしまったことも原因なのかもしれないが。


 ヤエギ。

 綾胸エリ。


 ピエロに殴り倒された二人について過去の呟きや動画などを色々と見ていた。そこでやり取りやコラボ放送があった何人かをピックアップし、彼らのSNSをチェックした。かなりの人数が多いのでまだ調べ切れていない。

 時計を見る。

 昼の三時。

 昨日とは違い、午前0時まで時間がまだある。

 調査の為の時間が……


「……どうしてこんなにムキになっているんだろうな」


 ふと手が止まる。

 僕は探偵だ。

 だからといって誰から依頼を受けたわけでもない。

 それにこれは事件かどうかすら分からない。

 そんなものを調べて、どうなるのか。

 何があるのか。


「……そんなこと、知ったことではないね」


 僕は自身の考えに対し、敢えて口に出して吹き飛ばす。

 笑みを浮かべて言ってやる。


「自分がやりたいことをやる。それが――Vtuberってやつなんだよ」


 理由なんてない。

 僕がバーチャルで探偵だから、気になった事を調べている。

 ただそれだけだ。


「えっと……あのピエロは『デスBAN』ってのが定着しつつあるんだな」


 デスBAN。

 センスがあるのかないのか分からない名称だ。

 だからデスBANでSNSを検索し、周囲の反応を確かめる。


「元画像がまだ見つかってないのか。ということはオリジナルなのかな? ………………え?」


  僕は検索する手を止めた。

 SNSにこう書いてあったのだ。


 デスBANの犠牲者これで三人目か。


「三人目!? まだ午前0時になっていないのに!?」


 僕はすぐさま検索し、三人目の犠牲者となったVtuberの名を見つける。


 リード・ザーヴェラー。


 僕が寝る前にチェックを付けていたVtuberの一人である。

 僕はすぐさまYoutubeのチャンネルに飛び、最新に投稿された――どうやら動画ではなく生放送――のアーカイブを視聴する。

 仮面と首輪が特徴的なVtuberだ。説明文を見ると『異世界にある図書館で働く魔術師とのことで、首輪は特殊な魔術により自分で外すことが出来ないという特徴がある』とある。

 そんな彼は見た目とは裏腹に中性的な声で、雑談をしていた。


『あ、あ、せ、世間では今、デスBAN、ですか? そんな物騒な人がいるらしいですね……人? ちょっと判りませんが、ピエロの姿をしている人に後頭部を――』


 そう話している間にいつの間にかピエロが背後に出現して忍び寄り、そして、ガツン!! という先の二人と同じ大きな音で放送は終わっていた。


 間違いない。

 デスBANだ。

 ヤエギと綾胸エリと同じデスBANが、リードにも来たのだ。

 時刻はコメントから推定するに、昼の12時頃。


「勝手に夜の12時だと思っていた……っ!」


 ダン、と机に拳を叩きつける。

 自分の思い込みに腹が立ったのだ。

 もしそうじゃなかったとして、何かできたわけではない。

 それでも無性に悔しかった。


「次は止めてやる……っ!」


 僕はそう誓いながら歯を食いしばった。



 しかし。

 そんな僕の決意虚しく。

 デスBANによる次の事件は起こってしまう。

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