21話「煉の家で過ごす大晦日 Part.2」
それからも相変わらず王様ゲームを続けていた。
「――なあ、もうそろそろ年明けが近いから、これラストにしねー?」
ゲームが始まる前に、
「おう、そうだな、次こそは……!!」
「ふふ、まあ、がんばりなさい」
そんな木下くんに、上から目線でものを言う
「はぁーい! あたし、あたしぃー!」
相変わらずとろんとした目で、元気そうに手を挙げて自己申告するのは
「じゃあぁ、3番さんと2番さんわぁーキスしちゃおぉうー!」
そして明日美先輩が続いて、そんなとんでもない命令を下してくる。やはり酔っていることもあってか、失礼だけれどネジが飛んで、変な思考になっているようだ。『キス』だなんて……まだ誰ともしたことないのに。それをこのゲームでしなければならないなんて……せめて、せめて木下くんにならないように、私はそう願いを込める。
「3番だぁれ?」
そんな最中、明日美先輩は私の対となる人を、まさか最初に訊いてしまう。まだ心の準備が出来ていない段階で、私はとても焦っていた。
「お、俺……」
そんな私をさらに焦らせるように、なんと……煉がそう自己申告してしまう。それに私はまたとないぐらいに驚き、さらに焦りが加速してしまう。せめて『木下くんじゃなければ』なんて考えていたのに、答えはその遥か上を超えていった。まさかあの煉と、私が一番に大好きな人と……キスをするなんて――
「じゃあぁー2番さんわぁー?」
気持ちの整理がつかない私を置いてけぼりにして、明日美先輩は今度は2番の人を訊いてくる。
「……私……です……」
そう自己申告するのが、とても恥ずかしかった。そう言ってしまえば、もういよいよ煉とキスをしなければならなくなってくるのだから。だって、
『王様の命令は絶対』
なのだから、王様がした命令は絶対に実行しなきゃ。そうじゃなきゃ、ゲームが成り立たない。なんて、自分で自分に言い訳しているけど、ホントは煉とキスがしたいだけです、はい。
「なぁ、これは無理だろ。だから何とかならないか?」
流石にこれには煉も抗議を入れる。たぶん煉は優しいから、私のことを気遣ってくれたに違いない。それにこれはもうお遊びの
「らーめ、おうさまのめーれいはぜっらい!!」
だけれど、明日美先輩はそんな煉の言葉に聞く耳を持たないようで、子供みたいにそう言ってしまう。
「はぁー……しゃーねか、
そんな明日美先輩の言葉に、呆れたようにため息をついてこちらへと向き、私の名前を呼ぶ。こ、こここ、これはッ――
「はっ、はい!?」
まさか煉、する気なのだろうか。どうしよう、途端に胸がドキドキしてきて体が固まってしまう。そして煉は私にどんどんと近づいてきて、そしてついには私の頭を左手で支えてくる。それで、煉が本気だということがわかった。それに呼応するように、私の心臓の鼓動がどんどんと早くなっていく。そして体が震えだしてしまう。私は未だ全然心の準備なんて出来ていなかった。突然の事態に、ただただ驚き、戸惑うことしかできなかった。だからもういよいよ私は目をつぶってしまう。煉に全てを任せ、ただ私はそれを受け入れる体勢をとった。もう私の頭は真っ白になって、まともに思考できないほど混乱していた。そして煉がそれをし終えるのを、待っていた。
すると数秒して、煉の唇と思しき感触が私に触れるのがわかった。しかもそれが割りと長い時間、ずっと。もう沸騰しそうなくらい体が熱くなっていて、ホント死んでしまうじゃないかと思ったほど、それは強烈だった。でも、たしかにその感触は私に触れているけれど、少し違和感があった。どうも、私の唇の少し左あたりに煉がキスをしているみたいだった。それに不思議に思っていると、煉の唇が離れていくのがわかった。そのタイミングで私も目を開けて、周りの反応を確認してみる。でも、みんなは驚いたような表情をしている辺り、キスをしたと思っているような感じだった。だけれど、当の本人である明日美先輩は――
「命令した張本人が寝てどうすんだよ!」
と煉が思わずツッコんでしまうほど、ぐっすりと就寝されてらっしゃった。まさに煉の言葉通り、命令した人が寝てしまっていてはこのゲームの主旨が崩れてしまう。結局、とことんまで酔っ払った明日美先輩に振り回された私たちであった。
「はぁ……しゃーねーな」
それに煉は大きなため息をつきながら、明日美先輩をおんぶして彼女の部屋へと運ぶようだ。私はそんな煉を見つめながら、ふと思う。もしかして煉はわざと唇を避けて、目の錯覚でしている風に見せたのではないだろうか。流石に唇同士はゲームでするのはマズい。でも空気を読まないでああだこうだ言っていては、空気が悪くなる。そのどちらの条件も満たすように、煉はわざとズラしてくれたんだと思う。そうすればさっきの渚さんたちみたいに、キスしたと思わせられるし、当事者たちは一応『唇同士のキス』はしていないから。でも結局のところキスしたという事実は変わらないのでは……と思ったけれど、これ以上考えるのはやめておこう。たぶん私の気力が持たなくなってしまう。
「――おう、早くこいよ、もう年明けるぞ」
リビングに戻ると、みんなはいつも通りの感じに戻っていた。そしてさっきの位置に座って、それぞれコップにジュースを入れて待っていた。
「あとどれくらいだ?」
「あと1分よ」
渚さんがそんな煉の質問に答える。そんな中、煉は自分の場所へと戻っていく。
そしてふと、煉と目が合ってしまう。私はすぐに目を逸らしてしまっていた。目が合った瞬間、脳裏にはあのキスの事がよぎってきてしまう。それですぐに恥ずかしくなって、まともに煉の顔なんて見られなかった。そんな2人の間に気まずい空気が流れつつも、時はそんなのお構いなしに過ぎていく。
「あと10……9……8……」
そしていよいよ年明けが目の前へと迫る。つけていたテレビのカウントダウンと共に、全員揃って同じようにカウントダウンを開始する。
「7……6……5……4」
「3」
「2」
「1」
「明けましておめでとう!」
その瞬間、私たちは手にしていたジュースを一斉に乾杯した。そしてお互いに新年の挨拶を言い合って、ジュースを飲んでいく。
「よし、んじゃ、これ飲み終わったら、初詣いくか」
木下くんはジュースを一気飲みし、そんなことを言ってくる。
「おう、いいな。渚たちは大丈夫か?」
「あ、言うの忘れてたけど、私たちと栞は今日泊まるから」
そう言えば、私もすっかり忘れていた。今日は煉のお家に泊まることになっていたんだった。あの事があった後にお泊りだなんて、なんかさらに恥ずかしくなってくる。
「了解。修二はもちろんだけど、帰るよな」
煉は木下くんに
「ま、さすがにヤバイからな」
流石の木下くんでも、公序良俗はわきまえているようで、自分の家に帰宅するようだ。ホント失礼だけれど、それにホッと安堵する私がいた。そして私たちはそれから煉の家を後にして、その初詣がある神社へと向かっていた。こっちの道はまだ行ったことがなかったので、はぐれたら確実に迷子になるなぁーなんて思いながら煉たちと共に目的地を目指していた。
「――あっ、そういや岡崎、初詣ってだいぶ人集まるけど大丈夫か?」
そんな最中、煉が思い出したように私にそんなことを訊いてくる。煉、覚えてくれていたんだ。とちょっと嬉しさを感じつつ、テレビとかで見るような初詣の風景を思い起こしてみる。あきらかにそれは人でごった返していて、私の嫌いな圧迫感がかなり酷そうだった。そう考えると、次第に不安が私の心に溢れ出してくる。
「えっ、人混み嫌いなの?」
そんな中、煉のその質問に渚さんは意外そうな顔をして、そんなことを訊いてくる。
「あっ、えっと、嫌いだけど……今日は大丈夫だよ」
ここまで来ておいて、帰るなんて空気の読めないことはしたくない。どうせ1人では帰れないし、ここはみんなと行くのがこの場の空気を壊さない最良の選択だろう。それに、煉がいるから。たぶん全くもって根拠はないけれど、煉が傍にいてくれるなら、なんか安心できて大丈夫かな、なんて思えてきてしまう。だから私は頑張って行ってみることにした。
「ま、まあ、大丈夫ならいいけど……」
ちょっと
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