15話「一歩、また一歩」
「――おお、戻ってきましたねー! 流石はミスター
「――じゃあ、まずセットの中央に立って、腕を組んでください」
それからカメラマンさんが指示を出し、写真撮影となった。そしてやはり新郎新婦という設定らしく、腕を組むことに。それはつまり、私、新婦側が新郎である煉の腕を掴まなければならない。もう緊張で、その手すらも震えていた。そして、いよいよその煉の腕を掴む。そうなると、やはり距離も近くなり余計に緊張してしまう。
「数枚、撮ります、笑顔でお願いします」
そう言われも、この状況下でそんなこと出来る余裕はなかった。もうせめて普通の状態でいるように、努めるのが精一杯だった。そしてカメラマンさんが数枚を連続して撮る。どうやらそれで満足がいく出来だったようで、一発オッケーとなった。それに、緊張の糸はほぐれ、ようやく心に平穏が戻ってきた。そして冷静に物事を判断できるようになってきたところで、改めて考えてみると、私たちは隣同士だ。だから、隣同士でミス聖皇とミスター聖皇が並んでいるわけだ。なんか今更恥ずかしくなってきた。絶対に
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私と煉は昨日と同じように、夜の通学路を歩いてる。ミスコンが終わった後、私が誘った次第だ。ミスコンの余韻、というものなのだろうか、まだ煉と一緒にいたいという気持ちが強かった。だからせめてでも、いつもの並木道まで一緒の時間を過ごしたかった。私たちは寒空の下、他愛もない話をしながら、並木道へと向かって歩いていく。
「――ねぇ、ちょっと話さない?」
並木道へと差し掛かったところで、私は足を止め、煉にそんな提案をする。もう少しでもいいから煉と一緒にいたい。だから私はそんな提案をしてみた。なんか、今日の私はいつもよりも
「俺は別にいいけど、寒くない? 大丈夫?」
それに対し、煉はそんな優しい気遣いをしてくれる。
「私は大丈夫だよ、だからいい?」
そんな優しさに、私は嬉しさを感じつつ、煉にそんな確認をする。
「うん、いいよ。んじゃ、あそこに座ろっか」
そんなわけで、私たちは近くにあったベンチへと座る。そこでも私は貪欲で、広いベンチに煉と体が触れるぐらいの距離で座る。私のその攻めた行動に、煉はちょっと照れているのが見て取れた。ふふっ、煉かわいい。なんて心の中でそんな煉に愛くるしさを感じていた。
「今日はすごかったね、まだ私信じられないよ……」
そんなことを思いつつ、私は今日のミスコンを振り返る。未だに『実感』というものが湧いてはこなかった。もしかするとアレは嘘なんじゃないかと思えるほど、まだ信じられそうにはなかった。でも、煉とあの写真を撮ったのは事実。データとして、記録として一生残るんだ。
「ホント、まだ転校して間もないのにな」
「うん、でも私の名前が呼ばれた時は嬉しかったなぁー……あっ、そうだ煉くんは誰を選んだの?」
私はわざとらしく、煉の顔を覗き込むようにして、そんなことを煉に訊いてみる。煉にはちょっと可哀想だけど、今の煉がどんな人を選ぶのか、興味があった。
「お、俺? 俺は……そのー……」
その質問に、言いにくそうにしている煉。その困っている姿がなんか、可愛いらしい。どう答えようか、迷っているみたいだ。
「え、誰々? 教えてよ!」
私は念を押すように、煉に問いかける。実際のところ、煉は誰を選んだのだろうか。ちょっと予想を立てて見たくなってくる。無難なところで、明日美先輩か仲の良さそうな
「すぅーはぁー……」
煉はよっぽど恥ずかしいのか、大きな深呼吸をして心を落ち着かせている。私は息を呑んでその答えを待つ。
「――
そして彼の口から、予想を遥かに超える、あまりにも意外な答えが返ってくる。
「えっ、そう……なんだ……」
ちょっと恥ずかしそうに目を逸らしている辺り、私に気を遣ってそう言っているんじゃなく、煉は本当に私を選んでくれたんだ。私も私でその答えがあまりにも予想外のそれで、ただただ驚くしかなかった。
「でもどうして? みんなキレイだったのに」
その事実がだんだんと頭で理解できていくと、気恥ずかしくなってしまう。でも、せっかく私を選んでくれたのだから、その理由が訊きたかった。煉の反応や、さっきまでの言動を見るに、適当に選んだわけではなさそうだ。だから、その選んだ理由を言葉にして、伝えてほしかった。
「んー……ま、そりゃみんなキレイだったけどさ……なんつーか、その中でも特に岡崎に惹かれたんだと思う」
気恥ずかしそうにしながらも、洗いざらい私を選んだ理由をちゃんと吐く煉。
「えっ……?」
私にはそれはあまりにも驚くような発言だった。その言葉を、私の中で
「なんか、すげぇー輝いてるように見えたからさ……だから俺は選んだんだと思うよ」
私に追い打ちでもかけるかのように、さらに恥ずかしいことを告げてくる煉。
「そっかぁ……うれしいなぁー……」
私の好きな人から言われるその言葉は、恥ずかしくて仕方がなかったけれど、でも同時にやはり嬉しかった。このミスコンはただ単に、煉と新郎新婦の姿で写真を撮るだけのためのものと思っていたけれど、そうではなかったようだ。煉はちゃんと私のことを見ていてくれて、なおかつその煉の眼中に入ることができた。それだけでも、私のこのミスコンへの参加はとても意味があるものだったようだ。
「そ、そう言えばさ、空、キレイだね」
恥ずかしさに耐えられなくなったのか、煉は唐突に話題を変えてきた。
「え、あ、うん、そうだね」
そう言われ、私は空を見上げる。そこには眩いばかりの星たちがキラキラと輝いていた。昨日は雪だったけれど、今日はどうやら晴れたようだ。お月様までキレイに見えている。
「そういえばさ、岡崎がいたところはどうだったの?」
そんな星々に見惚れていると、煉が急にそんな質問をしてくる。
「えっ?」
「星は見えた?」
「ううん、全然。都会で暮らしてたから……」
私がいたところは『眠らない街』なんて言葉があるくらい、あまりにも地上の光が多すぎて、星なんて見られたものじゃなかった。それこそ、ちゃんとした見られるスポットにわざわざ見に行かないと星は楽しめなかった。だから、こんなにもキレイな星が見れるこの島は、私からすれば楽園のような場所だった。
「そっか……んじゃ、よかったね、こんなキレイな星が見れて」
「うん。……私ね、まだそんなに経ってないけど、ここに来てよかったと思うんだ」
「どうして?」
「だって緑は多いし、空気はキレイだし、星はキレイだし、みんなも優しくしてくれるし」
それに……煉にまた会えたから……なんちゃって。
「そっか、なんかそう言ってくれると嬉しいなあ」
「ふふ、ホントに嬉しそう」
「そう……かな?」
それに軽く笑い合う私たち。こんなことも、転校したばかりの頃はなかった。確実に関係が進んでいる実感が、そこにはあった。
「――ックシュッ!!」
そんな折、煉が突然くしゃみをする。体を震わせて、寒そうにしていた。
「ずいぶんと長居しちゃったね、そろそろ帰ろっか」
煉との距離や、恥ずかしさの熱で忘れていたけれど、ここは外。当然、長居していたら風邪を引いてしまう。まだ名残惜しいけれど、そろそろ帰ることにした。
「そうだな、風邪うつしちゃマズイしな」
私たちは席を立って、再び歩き始め、そしていつもの分かれ道へと着く。
「じゃあ、煉くん。良いお年を……じゃあね!!」
別れ際、私は煉に年の瀬の挨拶をする。たぶん、煉とは冬休み明けまで会えないだろうから、ちゃんと挨拶はしておきたかった。
「おう、良いお年を」
煉も同じような挨拶を返し、私たちはそれからそれぞれの方向へと歩きだす。私はそんな中、自然と今日のことを振り返っていた。ホントに、まさかミスコンに優勝できるとは思わなかった。私を選んでくれた人たちには、もう感謝の念でいっぱいだ。それに、このミスコンのおかげでまた一歩、煉との距離が縮まった。もう最初のころに比べれば、普通に会話できるほどに進展を見せた。これが年内までに済んでよかったと思う。やり残したことがあるまま、新年を迎えるのは嫌だったから。でもこれで安心していてはダメだ。ここから肝心なところなのだ。ここからもっともっと煉と時間を共有して、関係を深めていきたい。そしてできれば――私はそんな思いを胸に、1人家へと帰っていくのであった。
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