11話「私がミスコンに参加した理由」

 それは数日前のことだった。朝会が始まるまでの間、席で1時間目の準備をしていた時のこと。


「ねえねえ、しおりちゃん!」


 しずかちゃんが私の席へとやってきて、キラキラした目でニヤニヤしながら、そう私に話しかけてくる。これはなにかあるな、と私は本能的に悟る。


「な、何?」


 ちょっと身構えるような感じで、静ちゃんの言葉を待つ。


「クリパの最終日に、ミスコンやってるんだけど、それに出ない!?」


 やっぱりその嫌な予感が的中した。静ちゃんはそんなとんでもない提案を私に持ちかけてくる。


「えっ!? いやいや、ムリムリ!」


 当然、そんなのムリに決まってる。ただでさえ、人前に出るのもそんな好きじゃないのに、ミスコンだなんて……だから私は手を振りながら、それを拒否する。


「あのねっ、栞ちゃんを出場させたい理由がどうしてもあるんだ!」


「理由?」


「うん、クリパではミスコンの他にミスターコンテストもやってるんだ。これは事前投票で、既に結果は出ていて25日に発表なんだけど、どうやら今年もれんくんで決まりみたいなの!」


「へぇーでもそれと私がミスコンに出ることには関係なくない?」


 ミスター聖皇が煉というのは納得がいくけれど、それとミスコンの関係性が見えず、そんな質問を静ちゃんにする。


「ううん、それが関係あるんだって! ミスコンの優勝賞品がなんと――」


 そう言いながら、手に持っていたミスコンのポスターを見せてくる。そこに書かれていた賞品は――


「ミスター聖皇と新郎新婦の姿で写真撮影……」


 それはつまり煉と新郎新婦の格好をして写真が撮れるということだ。もう聞いただけで、羨ましくてしょうがなかった。そしてその新婦の役になりたい、と自然にそう思ってしまう。


「ね、今いいかもって思ったでしょ!?」


「う、うん、まあ思ったけど……私なんかじゃとても優勝できないって……」


 『ファンクラブ』なんてものが存在するくらいに、この学園には美人が多い。その中で、私がまともに戦っていけるとは思えない。むしろ見向きもされない気がする。


「そんなのわからないじゃん!」


「んー……でもこれ、もしミスター聖皇が来なかったどうなるの? 最終日って自由登校だからこない可能性があるよね。秋山あきやまくんってめんどくさがり屋だし、そういうミスコンとかうとそうだから来なさそう」


 煉なら間違いなく来ないと思う。こういうの自体には興味はあるだろうけど、それよりも『休み』を優先しそうなタイプだし。そうなると、ミスター聖皇不在でミス聖皇1人になってしまう。そうなったら、私が出場する意味自体失われる。


「あぁー……それねー……彼、こないんだよねぇーだから今までは『実質』ミスター聖皇だったんだ」


 神妙な面持ちで、私の予想通りの結果を話す静ちゃん。


「じゃあ――」


 優勝賞品を得るためには、私がミスコンに優勝し、なおかつ煉がミスコンに参加することが前提。前者の方はまだわからないけれど、後者の方が成り立つ可能性は今の所かなり低い。それでは出る気にはなれない。そんな不確かな状態では、いくらなんでも博打ばくちすぎる。


「でもね、とあるスジからの情報だと、なんと! 今年は出るかもしれないんだよ!」


「とあるスジって?」


「ファンクラブの会員の子。なんでもね、その会長のりん先輩が『今年は何がなんでも来させてみせる!』って豪語してたらしいよ」


「へぇー」


 まだ凛先輩という人がどんな人なのかは知らないけれど、そう言うからには彼女も優勝賞品狙いなのだろう。だから、その不確かな状態をより確かなものにするため、今年は頑張っていると。


「煉くん、凛先輩にはタジタジだし、諦めて出てくれるんじゃないかな?」


「うーん……」


 でも、それでも煉が必ずしも来るとは限らない。それに仮に出てくれたとしても、今度は私が優勝しないといけないわけで……でも、優勝賞品はとても魅力的なわけで……参加するべきか、否か、私の中で天秤がゆらゆらと揺れ動いていた。


「ねえ、想像してみて。煉くんと新郎新婦の姿で写真に残るんだよ。タキシード姿の煉くん。彼と腕を組んで、お決まりのポーズをする」


 静ちゃんにそう言われて、目を閉じてみると、静ちゃんの言葉通りの情景が浮かんでくる。変な話だけど、その情景の中の私に嫉妬してしまう私がいた。いますぐにでも、それを現実で再現したくなるほど、それが羨ましかった。だから、天秤が一気に一方へと完全に傾いてしまった。


「――私、やってみるよ!」


 おそらく静ちゃんが一番待ち望んでいたであろう、その言葉を私は口にする。


「うん、その意気だよ! 私たちも全力でサポート、応援するから、頑張って!」


「うん、頑張る!」


 なんか、よくよく考えるとうまく静ちゃんの口車に乗せられて出場を決めたみたいになったけれど、私なりに頑張ってみようと思う。こうして私はミスコンに出ることになったのであった。

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