9話「昔のキミ、今のキミ」
3組のクラスにはまだ10時ぐらいということもあってか、ほとんど人がいなかった。中を確認した
「いらっしゃいませー」
教室に入ると、おそらく煉の幼馴染であろうお二人さんがお出迎えをしてくれた。たぶん2人の煉への反応や、煉の2人への反応で間違いない。スタイルよく、そのウェイトレス姿も様になっている人と、恥ずかしがり屋さんなのか、ウェイトレス姿で接客をするのに恥ずかしそうに頬を赤らめている人。この人たちが煉の『今』の幼馴染なわけだ。なんてちょっと
「よ、
煉はいつものように軽い感じで挨拶をする。その振る舞いからも、この人たちの関係性、仲の良さが見えてくる。
「煉、どうしたの? 女の子なんかと一緒に」
スタイルのいい人が私の方を見ながら、ちょっとニヤニヤしている。彼女だと思われているのだろうか、そんなまじまじと見つめられるとちょっと照れてしまう私がいた。
「あー、こいつは俺のクラスメイトの
その煉の言い方に、ちょっとムカッとする私がいた。なんかそれだと、嫌々回っているみたいに聞こえる。煉がそう思っていなくても、このお二人がそう思っちゃうじゃん。なんて心の中で煉にちょっと文句を垂れる私がいた。
「ふーん、そうなんだ。初めまして、私、
渚さんは見た目通り、気さくな感じで自己紹介をする。見た目通り、と言っては失礼かもしれないけど、やはりこちらが姉でしたか。
「は、初めまして……」
澪さんは初対面の私に、恥ずかしそうにうつむき加減で挨拶し、軽くお辞儀をする。
「初めまして、渚さん、澪さん」
それに、私もいつも通りの感じで挨拶を返す。
「さんづけじゃなくて、『渚』でいいよ」
「えっ、でも初対面の人に呼び捨てってちょっと……」
私は呼び捨てで呼ぶようなタイプじゃないし、敬称をつけないとどこか悪い感じがしてしまう。
「んー、じゃあ好きにしていいよ。じゃあ案内するね」
そう言って、お二人は私たちを窓側の席の方へと案内してくれる。
「そういや、男どもは? なんか女子しかいないみたいだけど」
席に座って、煉がそんなことを渚さんたちに訊く。言われて気づいたけれど、たしかに男子の姿が見当たらない。教室の中にいるのは女子ばかり。ウェイター姿の人がいてもおかしくはなさそうなのに。
「あー、男子たちは買いだし要員よ。今何人かが行ってるはずよ」
男子がウェイターをやっても女子人気でそうなのに、なんて思いつつ2人の話を聞いていた。
「へーそっか。大変だねぇー」
「はい、どうぞ、メニューだよ」
渚さんと会話をしているうちに、澪さんが水とメニューを持ってきてくれた。当然、ここでも煉の選ぶものが知りたいので、煉に全てを一存する。そんな嫌いな食べ物もないし、こういうところでは誰でも好きな無難なメニューが多いだろうし大丈夫だろう。
「んー……じゃあ、オムライスにしよっかな」
「あっ、じゃあ私もそれで」
煉がそう言って注文した後、自然な流れで私も同じものを頼む。
「かしこまり! じゃあ、ちょっと待っててね!」
渚さんはやる気を見せて、意気揚々と厨房の方へと向かっていった。
「煉くんって、たしかお姉ちゃんのオムライス好きだったよね」
渚さんが向かった後もなお、澪さんはここに残ってそんな話を投げかけてくる。そんな私にとっては最高のごちそうな情報を教えてくれる澪さんに、心の中で感謝しつつ、グッとガッツポーズをする。これでまた新しい煉の情報が知れた。
「んー、まあ、あいつの作る料理の中では好きなほうかな」
それだけ好きなのであれば、今度渚さんにレシピでも訊いてみようかなと思う私がいた。でもさすがにバレちゃうか。
「でも、煉くんも自分で作れちゃうもんね」
そんな会話の中で、澪さんはさらに重要な煉の一面の情報を教えてくれる。
「いや、渚が作ったほうが断然うまいと思うよ」
その澪さんの発言に、
「へぇー、秋山くん、料理できるんだ」
男の子ってあんまり料理できないイメージがあったから、それは意外だった。それに昔の煉も、そんな料理とか微塵も興味なさそうだったし。
「まぁ、人並みには、ね」
「煉くんの作る料理はすごく美味しいんですよ」
相変わらず謙遜する煉に対して、ハードルを上げる澪さん。それだけ言うということは、たしかな腕なのだろう。
「へぇー、食べてみたいなー」
そう考えただけで、
「や、たいしたことないから、ホントに、渚の方が全然うまいし」
そんな煉が照れてて可愛い光景を目にしつつ、思う。やっぱり『今』の幼馴染の澪さんに妬けちゃう。この2人は私が知らない煉をいっぱい知っている。もし私が引っ越していなかったら、私もこうなってたはずなのに。だからホントに羨ましい。
「――はい、おまちどうさま。オムライスよ、召し上がれ」
それから澪さんと煉が雑談をしているのを、羨ましく見ている私、という構図となっていた。そしてそう時間が経たないうちに、渚さんが2人分のオムライスをお盆に乗せて、こちらへやってきた。私たちはお決まりの挨拶をして、いよいよ煉が絶賛していたオムライスを食べ始める。まず一口食べてみると、まるでお店の料理みたいにとてもおいしかった。タマゴがふわふわしてて、家庭の料理だからケチャップだけれど、その酸味がまたいいアクセントになっていた。ふと前の煉を見ると、とても満足そうな顔で、おいしそうにそうに食べていた。そんな緩んだ顔は可愛いけど、でもやっぱり嫉妬の気持ちが湧き出てくる。だからそれを、このオムライスのおいしさで忘れて、考えないようにした。
「――ありがと、うまかったよ」
それからオムライスを食べ終え、入り口でお会計を済ませる。それから渚さんたちに見送られ、あと教室を後にするだけとなった時、煉が渚さんたちにお礼する。
「それはどうも」
渚さんはどこから照れた感じで、軽くお辞儀をしてそんな返答をする。
「あっ、そうだ渚、カムカム」
何かを思い出したように煉は渚さんを手招きする。
「ん?」
渚さんはそれに不思議そうな顔をしながら、煉に顔を近づけていく。なんかその姿に、せっかく忘れかけていた嫉妬の念がまた蘇ってしまう。昔の関係なら、耳でも引っ張って引き離すのに、今のこの煉との関係がもどかしかった。
「なっ……うるさい!」
その耳打ちで何を喋ったのかはわからないけれど、どうも渚さんに恥ずかしいことを言ったみたいで、顔を真っ赤にして煉のスネにローキックを入れる。ちょっとシメシメと思いながら、それをジト目で見つめていた。
「いったっ! 褒めてんのにそれはねーだろ!?」
よっぽど痛かったのか、スネを抑えながら渚さんに文句を言う。
「うるさい! さっさと帰れ、バカ!」
煉に罵声を浴びせ、お盆で顔を隠しながら煉を教室の外へと押しやる。それにつられて私も教室を後にすることになった。ただ、その後の煉の満足そうな顔に腹が立つ私がいた。ただただ勝手に私が嫉妬しているだけだけど、なんか不服。というか、私と一緒に回っているのに、他の女の子にうつつを抜かして鼻の下伸ばしてるってどうなの、と思ってしまう。そんなちょっと
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます