AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーは、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

かくて偽善者は生まれたり

01-01 過去回顧



 All Free Online

 通称AFO


 現在、巷で大人気のこのゲームで──それは突然行われた。


 誰も彼もがその言葉に耳を疑い、驚き戸惑うことになる。




≪ただ今、この世界で初めて『転職ジョブチェンジ』を行った者が現れました≫


≪つきましては、七日後にレイドイベントを開催することをお知らせします≫


≪なお、詳細については非公開事項であるためプレイヤーの皆さまに情報が開示されないことを先にお詫び申し上げます≫


≪これからも、AFOの世界をお楽しみください≫




 ざわ、ざわざわ……


 プレイヤーたちは、今の知らせを聞いて興奮しているのだろう。

 辺りから声が止むことは無く、話題はアナウンスの内容ばかり。


 街の外でも中でも、建物内でも街路でも、プレイヤーたちだけがその声を聴いて反応を示す。


 それ以外の者──自由民NPCと呼ばれる者たちは、プレイヤーの奇行を笑って済ませる。


 何もない場所で手を動かし、誰も居ない場所でブツブツと呟く者もいた。


 そういった者たちが事故を起こすことにも慣れた自由民たちは、それを何気ない日常だと感じ、日々を過ごす。






 しかし、このアナウンスを起こした・・・・者は違う──


 白髪の少年、背中から髪と同色の翼を生やした者は頭を抱えて立ち尽くす。


「どうして、こうなった」


 どれだけ心で思おうとそれを口に出して呟こうと……その答えは出てこない。

 それを見つけるためには、過去を振り返るしかなかった。


 少年はこの現象が起こった理由を思い出すために頭を空っぽにし始める──


  □   ◆   □   ◆   □


 始まったばかりのVRMMOでその者は特異な行動を示した。


 ──神々のシナリオには記されていない、運命を変える異端の行動。


 だが、それは序章に過ぎない。

 一度綻んだ運命は決して元に戻ることはなく、その者はいつも何かを塗り替える。


 ──それは魔物を救うかもしれない

 ──それは過去を奪うかもしれない

 ──それは封印を解き放つかもしれない

 ──それは同胞を滅ぼすかもしれない

 ──それは封印を施されるかもしれない


 何が起こるかは、誰にも分からない。

 行っている者にすら、予測がつかない。


 ──その者はただ焦がれていたのだ。


 全てが可能なその世界で、かつて失敗した所業をやり直そうと……。


「そうだ、偽善をしよう・・・・・・


 偽りの善行は何も生まなかった。

 昔願った小さな思いは、巨大な波に抗うこともできずに消え去った。


 それでもなお、がいて足掻いて守り抜いた想い──それが誰も救わない善行だった。


 All Free Online

 この物語はとある偽善者になることを望んだ、ごくありふれた少年にスポットライトを当てた物語だ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る