第29話 大樹寺 茜

「ギャアアアア!」


周りが白く光る。いや!これはバックゲートか?違う。白く光る真ん中は黒い。真っ暗と言える程黒い。その中心にケンタロスの様な姿の魔人が雄叫びあげながら、身体半分を黒い所に吸い込まれて行こうとしていた。だが、相手は魔人。そこから這い出て来ようとしていた。


「クッ!俺だけの力では‥‥‥だが‥‥‥」


男の後ろには、2人の幼い子供を抱きしめ必死で守ろうとする女性が居た。

その子供は気を失っているのか、動こうとしない。

男はその姿を確認すると、また魔人に目を向けた。


「もう‥‥‥これしか」


すると男はゆっくりと魔人に詰め寄る。一歩、また一歩と苦しみながら。その男の右横腹には、魔人のツノで突かれたのか、服に穴が開き血が服に染み出ていた。そして、男が歩くたびに血が地面に滴り落ちる。

魔人も黙ってはいない。口からまるで光線の様な物を吐き、必死に抵抗するが、男は片手でそれを弾き返す。そしてついに男は魔人の前に着くと、両手で魔人の口を押さえ、あの黒い空間に押し込もうとした。魔人も負けじと必死に抵抗するが


「ギャアアアア!ギャアアアア!ギャア‥‥‥」


徐々に黒い空間に吸い込まれる魔人。男も必死で押し込む。しかし、力を入れる度に脇腹からは血が地面に滴り落ち、地面には血の水溜りが出来ていた。


「くっそうおおおお!」


更に力を入れて魔人を押し込む。だがその度に血が地面に滴り落ちる。そして魔人の身体全てが黒い空間に吸い込また。しかしここで離せば魔人はまた這い出ようとする。

男は更に押し込む。そして男の両腕が黒い空間に吸い込また時、後ろを振り返り、女性と二人の子供の顔を見て安心したのか、苦しみながらも少し笑顔を見せると


「‥‥こ、子供達を‥頼む‥‥‥」


男は最後の力を振り絞り、魔人を押し込む。自分の身体も一緒に。


「い、いやあ‥‥‥あなたアアア!」


女性の叫びと同時に、黒い空間は閉じてしまった。




◇◇◇




何処の会社仕事終わりだろうか?女性がビルから出てくる。女性用のスーツ姿の女性もチラホラと見られる。


「お疲れ様でした」


そんなスーツを着た女性も、職場の仲間かに挨拶をする。そして少しため息を一つすると


「ハアッ〜、けど、この私の企画が通れば‥‥‥。あの子達の為に頑張らないと!」


女性は綺麗な黒髪をなびかせると、おもむろに空を見上げると


「もう10年になるのね‥‥‥あなた」


ポツリと呟いた。

あの日から10年‥‥‥

私は暫く泣き続けた。愛する人が突然目の前でいなくなったから。

けど‥‥‥子供達は私を励ましてくれた。一番寂しい気持ちだったはずの子供達が。

だから私は気持ちを切り替える事が出来た。

子供達の為にも‥‥‥私達の‥‥‥あの人の‥‥‥大樹寺 弦と私の子供をしっかりと育てて行くと。


「あの子達、お腹空かして待っているかな?」


そう言うと女性は足早に家路につく。夕方の街中。夕日が女性の長く、綺麗な黒髪をいっそう美しくさせる。街行く男性達は綺麗だ、美人だと目で追いかける。しかし女性が結婚し、子供もいる事を知っている。それ程の噂が流れる程の美人。そしてこの女性の名を皆が知っていた。

大樹寺 茜‥‥‥と。



◇◇◇



ジン達が乗ったハイエースワゴンが、ある二階建ての家の前で止まる。


「ジン、着いたぞ!」


「ありがとうございます。店長」


そう言うとジン達は車から降りると、店長は運転席の窓を開けると


「ジン、また今度詳しく話を聞かせてくれ。兎に角、今日はゆっくり休めよ」


「はい。ありがとうございます」


そう言うと、店長は車を出し、窓から手を少し出すと、手を振って家路に着いた。


「ここがお前らの住処か」


ギルシェが言うとジンは住処の単語に少し驚いたが、「そうです」と返事をした。

舞はチワワの姿のケルベロスを両腕で抱っこしながら、家の鍵を開けた。


『ここがマイの家か?』


「そうよ。ケルベロス」


ケルベロスはヒョイと舞の腕から離れると、物珍しそうに、周りをキョロキョロしながら歩き出した。


「ギルシェさん達も上がって下さい」


ジンはギルシェとメイリに言うと、二人は家の中へと入って行った。


「チーフ、ここがこの世界の人が住む家なんですね」


「そうだな‥‥‥」


メイリはケルベロス同様、珍しいのか、辺りをキョロキョロしながら家に上がり、いろんな物を触ったりしていた。

ギルシェは、そんなにあちこち触るなよ、と注意すると、メイリは、わかりました、と言ってまた触りだした。


『まったく。しかし‥‥‥ここがあの二人の住処か‥‥‥』


ギルシェは呟くと、ゆっくりと周りを見だした。そんなギルシェにジンは質問した。

あの時、何故、大樹寺と聞いて驚いたのかを。




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