第12話

さて、今日はゴールデンウィークだ。

 あの後、星宮さん、古賀さん、晴翔に加え、星宮さんの友達だと言う笠間怜と共に、ラインを通じてどこに行くのかと、集合場所と日時を決めた。

 決まった先は遊園地だ。遊園地といっても、そんなに大きな施設ではなく、空いていれば半日で全ての乗り物に乗れるぐらいのアトラクション数と、ちょっと広めの公園がある程度である。

 しかし、ゴールデンウィークとあっては、そうはいかない。親子やカップルなどで賑わい、歩くのも少し難しい。


「うわぁー!すげぇー!!」


 それでも、子供のようにはしゃぐ晴翔は、相変わらずの顔だった。


「えっと、笠間さん、だよね?」

「はい!笠間怜です!」

「俺は黒瀬健介…って、同じクラスだし、タメでいいよね?」

「ですね!」


 同級生どころか同じクラスなことを忘れ、初対面の挨拶は敬語になってしまう。

 その現象が笠間さんとの間で同時に起こり、笑いになる。


「ほら!早くぅ〜!置いていくよー!」


 ずんずんと勇ましく進む晴翔を追っていた古賀さんが、振り返って手を振って二人を呼ぶ。


「今行くー!」

「ちょっ、早いんですけどー!」


 しかし、あの日の帰り道以降、星宮さんとはまた距離ができてしまった。

 「優しすぎ」というワードが脳裏に焼き付いて、無意識が考えることを諦めてくれない。


「ねぇ、おばけ屋敷だってよ!入ってみようよ!」

「一度に入場できるのは三人までみたいだな」

「じゃあ、三人と二人に別れよう!うーん、男女で別れると綺麗だよね!」


 古賀さんの提案に晴翔が口添えをし、笠間さんが冷静に言った。

 もちろん、古賀さんの顔は曇ってしまう。


「え〜?それだと、つまんなくなーい?」


 案の定、古賀さんが反対を促す。それは勿論、晴翔と少しでも距離を縮めたいからだろう。

 あわよくば、古賀さん自身と晴翔のペアを狙っているらしい。

 

「うーん、じゃあ、男女一人ずつペアと、残りの三人でオッケー?」

「そうだね!賛成!」


 ということで、ジャンケンのグーとパーだけを使い、二組に分かれる。

 組み合わせの結果、最初に古賀さん、晴翔、星宮さんが、後から俺と笠間さんが入ることとなった。

 決まった瞬間、古賀さんの狂気に満ちた視線を感じるのだが…。


 二人になりたかった気持はわかるけども!俺にどうしろと!?

 よくよく考えたら、三人とはいえ晴翔もいるし、事情を知っている星宮さんもいるのだから、当たりの方だろー!?


「ほんじゃ、先にゴールで待ってるわ!」


 そう言って、先にお化け屋敷の中に入っていった。

 次に入る俺らは、少々待たされる形になる。それは勿論、お化け屋敷内の仕込み直し、及び仕掛け直し等々、前の組との間隔もあるだろう。

 当然、中から晴翔達の悲鳴が聞こえるわけでもなく、現在進行形で時間を持て余す暇の所業である。

 チラリと笠間さんを見る、視線に気付き「何?」と首を傾げる。


「いやぁ、あの、待つの退屈だなぁーって」

「そうだねー」


 わかってはいたが、流石に会話にならない。

 話題という話題を脳内検索してみるが、結局自分のことになってしまった。


「ねぇ、笠間さん、優し過ぎる人って、どう思う?」

「優し過ぎる人??」


 顎に手を当てて考える。きっと、笠松さんなりの“優し過ぎる人”をイメージしているのだろう。


「うーん、それって、そもそも優しさなのかどうかも怪しいんじゃない?」

「ん?どういう事?」

「例えば、食べきれないぐらいのお菓子をプレゼントされたら、なんか嫌じゃない?量が少なくとも、貰う側が嫌いなものを上げてしまうとか、物じゃなくとも、自分でできる事をできない前提で過保護に接されたら、あまり気持ちの良いものじゃないと思う。“優し過ぎる”と言われてしまうのは、その積み重ねなんだと思う」


 なるほど…。

 すごくわかりやすく、しっくりくる答えだった。

 一回答としては優秀で、そうかもと思えるが、解決策には結びつかない。


「あー、あくまで私個人の感想だからね!」

「うん、ありがとう!助かる!」

「そんな真剣に言わないでよ、それとも誰かに言われたの?」

「いや、ただの哲学的な話」

「はぁ?遊園地に来てまで、そういう話するとか、下がるわぁ」

「ごめんごめん!」


 この会話が良い暇つぶしになったようで、俺らの順番が回ってきた。

 一歩踏み入れた途端、肌を刺すような寒気が下から登ってくる。


「笠間さんは怖いの大丈夫な方?」

「うーん、ダメな方かも。黒瀬は?」

「ホラー映画なら多少は大丈夫だけど、こういう体験型はなぁ…」


 こういう時は、男性が女性をかばいながら進んでいくものだろうが、そんな雰囲気ではないので、並んで歩く程度にとどめる。

 このお化け屋敷は迷路になっていて、ゴールまでたどり着くというものだ。方向感覚には自身があるものの、ゴールが入って右にあるのか、左にあるのか全くわからないので意味が無い。しかし、現在位置の把握には一役買っている。


「あれ?さっきもここ通らなかったっけ?」

「いや、ちゃんと進んでるはず。同じ分岐点を演出して、ミスリードを誘ってるんじゃないかな?」

「ふーん、じゃあ次はどっちにいく?」

「うーん、同じ演出を用意してミスリードを誘うなら、さっきと同じ方向かなぁ」

「じゃあ、左だね」


 なんだかんだで確実に前に進んでいる。

 時々の不意打ちに面食らうものの、笠間さんは俺の腕を掴む程度で悲鳴をあげることはなかった。

 俺はというと、びっくりする反応速度が笠間さんより遅いうえ、腕を掴まれるたびに青少年の心が、怖いと感じる地点までの到達を許さなかった。暗いことと、少し寒いこの室内のおかげで俺の紅潮はばれていないはずだ。

 ほんと、思春期バンザイ、暗闇バンザイだ。でも、やっぱり無意識に思春期を発動するのは嫌だな…。


「ねぇ、黒瀬」

「ん?何?」

「私も黒瀬に聞きたいんだけどさ」


 “私も”ということは、先ほどの“優し過ぎる人”について聞いたことに対比された言葉かな?無論、答え無いはずが無いわけだけど。

 しかし、その問いは意外なものだった。

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