戦後の後片付けとオークション

 灰色の砂になった陰石(かげいし)の残骸は風に吹かれ、飛ばされていく。

 細かくなり空に消えていったので、問題が起きることもないだろう。

 それに、強烈な力は一切感じられなくなっていた。


「結局、陰石ってなんだったんだろう?」


 エレクトラがそんな言葉を口にする。

 ボクは飛ばされていく陰石だったものを見送りながら、エレクトラの疑問に答えた。


「禍の神様が遺した力の一部。今もこの世界のどこかにいるらしいけどね」


「禍……? それってこの世界のってこと?」


「たしか、異界の神の干渉により世界が汚染されたというストーリーがありましたね。その異世界の神のことでしょうか」


 ボクの答えに、エレクトラとケラエノがそれぞれに反応する。

 ボクは、陰石だったものがすべて風に飛ばされて消えていったのを確認してから、再び視線をその場所に落とした。

 そこでボクは、小さな小さな黒い塊を見つけた。


「あっ、これ残っちゃったのかな?」


 それは陰石とは比べ物にならないほど小さく、それでいて同じような色をした黒い石だった。


「それに妖気は感じないわね。どっちかというと陰の力を宿した強い神力を感じる」


 ボクの横にやってきたクラマさんは、その石を見ながらそう言った。

 ボクはその石をコロコロと掌で転がして遊ぶ。


「異世界の神様って、本当にいたらしいんだよ。でも、今は隠れてしまっていて追い出すこともできないんだってさ」


 この黒い石が禍津へと繋がっているのかと思うと、妙な気分になってくる。

 ボクはこの石で汚染されたりしないんだろうか?


「神様かぁ。まぁいても不思議だとは思わないけど、その異世界の神様はなんだってこんなところを汚染してるんだろう」


 エレクトラは首を傾げながら悩んでいる。

 ボクはその答えを知ってるけど、今は教えられない。


『アーク兄、もう終わったからドロップ品回収に来てよ』


『お? 無事解決したようでよかった。危ないことはもうするなよ? 心配してたんだぞ? 俺もマイアもコノハちゃんも、そしてみんなも』


『うん。ごめんね』


『まぁいいさ。それじゃすぐ行かせるから、俺たちはここで待ってる』


『わかった。ボクたちもすぐいくよ』


 無事に解決したことを伝えると、アーク兄は嬉しそうにそう言ってくれた。

 まぁ心配もかけてしまったようで、その分怒られはしたけど……。


「さて、回収も要請したし、ボクたちも帰ろっか」


 ボクはそう言うと、くるりと回ってエレクトラたちの方を向く。


「そうだね、帰ろっか。もうくたくただよ」


「ふふ、なかなか大変でした。VRゲームって思ったよりも疲れるものですね」


 歩き出したボクたち。

 エレクトラとケラエノは、少しだるそうにしながらも少しずつ前へと進んでいく。

 ボクもそれに続き、最後にクラマさんが続いた。


「ふんふふ~ん」


 ボクは新しい武具一式を手に入れることができて機嫌がいい。

 みんなにも同じようにあるけど、専用にもらえたということがすごく嬉しいのだ。


「ふふ、スピカご機嫌だね~? 相当嬉しいみたいだね~。まぁあたしも嬉しいけどさ」


 こっちを向いてニヤニヤしているエレクトラだが、彼女もたまらなく嬉しいようで随分機嫌が良さそうだった。

 やっぱりいいよね、専用武器!!


「後で見るのが楽しみですね。棚ぼたではありましたけど」


「まぁ、あたしらは居ただけだからね。実際に何かしたのはスピカなわけだし。それはそうと、みんな随分汚れちゃったね」


 クラマさんの言葉を聞いて、ボクは自分の体を確認してみる。


 服は白を基調としたせいか、戦闘時の土や埃、血なんかで結構汚くなっている。

 ボクの自慢の尻尾もなんだか埃っぽいし。


「た、たしかに……。この汚れ方はひどい」


「そうだよね~。服も汚れてるんだけど、やっぱり羽根もなんだか変な感じするし、洗いたいなぁ」


「そうですね、服はまだ我慢できますけど、髪や羽根の違和感はちょっと……」


「わかるなぁ。こうなったら水浴びでもいいからさくっと洗ってしまいたい」


 天狗組は自分の体を見たり、羽根を触ってみたりしながら汚れ具合を確認している。

 ちなみに余談だが、あの羽根はなでられるとゾクゾクするらしい。

 なので、いたずらする時はその羽根の付け根をなでることを勧める。


「スピカもかなり汚れてるなぁ。その綺麗な髪の毛も耳も尻尾も、今はくすんで輝きを失ってるな」


 クラマさんはそう言うと、不意にボクの頭に手を伸ばした。


「うひっ! なになに!?」


 突如襲ってきたなぞられる感覚に、ボクはびっくりして耳を抑えて振り向く。


「あぁ、すまない。狐は耳が弱いって本当だったのか」


「そうそう、尻尾も弱いけど、一番はやっぱり耳だよ」


「一回くらい捕まえてなぞり続けてみたいですね」


 驚いた表情のクラマさんと弱点について詳しく語るエレクトラ。

 ケラエノに至っては何やら怖いことを口走っている。


「もう! 許可なくなでないでよ! びっくりするじゃないか!!」


 狐だけじゃなくて、他の獣人や妖種にも言えることだけど、許可なくなでることは問題なんです。

 最悪嫌われるかもしれないよ?


「あはは、すまないすまない。あたしら天狗ってのはどうしても羽根くらいしか弱いところがないからね。妖狐や猫又たちのように、動物に近い特徴を持ってる子の感覚ってのはなかなか分からないんだよ」


 笑顔で謝ってくるクラマさん。

 初犯ということで今回は注意に留めておくことにした。

 触るなとは言わないから、せめて触る前に一言掛けてほしい。


 ボクたちはそんな風にいじりあい、話し合いながら村へとゆっくり歩いていった。

 その間、ボク達の来た方向へ走って行くプレイヤーたちを見かた。

 彼らはドロップ品回収隊のようだ。


「ね、今のドロップ品回収するパーティーでしょ? いいの出たら安く売ってくれないかなぁ?」


 エレクトラが走っていく人を見ながらそう言った。

 ゴディアスからの武具プレゼントというイベントこそあったが、レイドの目玉といえば戦後のドロップ品オークションと相場が決まっている。

 大体の場合、武器防具は使える職業の人が優先で入札できるように配慮されたりする。

 なので、同じ職業の人が多くなければ、レイドボス産の武器防具を入手できる機会が増えるのだ。

 でも、実装されている職業が多い場合、人気職の場合はプレイヤーという母数の方が多いのでどうしてもレイドボス産の武器防具を入手できる機会は減ってしまう。

 そういう点では、ボクのような微妙な職業の人はいい装備をいち早く手に入れることができる可能性が高いのだ。

 とはいえ、オークションが始まっても落札できるかは不明だ。

 今のボクの手持ちを考えると、さすがにちょっとね……。


「水浴びで綺麗にするのもいいけど、オークションも楽しみだよね。良いアイテムや素材はゲットできるかなぁ?」


 この後の予定を考えるとだんだんとワクワクしてくる。

 どうかいいものをゲットできますよに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る