真の強者へ

「本当に行くの?」


 大禍津がボクにそう尋ねてくる。

 今見ている光景を見てボクは行くことを決意した。

 またあの石が動き出したのだ。


「力不足かな? でも、止めないと……」


「あの石の力は、村一つを取り込むまでは持たないわ。なら今は回復することに専念してもいいと思うけど」


 大禍津はそう提案してくる。

 その提案は村に被害が出ることを意味している。


「どのくらい持とうが、逃げ遅れた人がいたなら被害大きくなっちゃうでしょ? みんなが素直に避難するとは思えないし」


「そう。貴女を今止めることは無理そうね。なら約束して。無理はしないことと、貴女の住む家の近くに私の社を建てること」


 一瞬考えるそぶりを見せた大禍津は、ボクにそんな提案をしてくる。

 社を?


「えっと、いいけど?」


「社があれば、私も遊びに行けるわ。力は使えないけど、一緒に見て回ることはできる」


 少しだけ微笑む大禍津。

 何を考えてるのかは、その表情からは読み取れないけど、社一つくらいなら問題ないだろう。


「私が司る力は『禍』。でも、正しく祀ることでその禍は福に変わるわ。それが私のもう一つの力」


 大禍津はそれだけ言うと、ボクの目の前に手をかざした。


「さ、いってらっしゃい。また会いましょう。言い忘れていたけど、あの陰石を砕くには石の弱いところを狙って。ひびの入った個所よ。そうすれば倒れるほどの力を籠めなくて済むわ」


「ありがとう、大禍津」


「ふふ。ココノツの孫とは思えないくらい純粋ね。さ、目を閉じて。次に目を開けた時はもうその映し出された場所よ」


 大禍津の言葉通りに、目を閉じる。

 すると、一瞬気が遠くなり、自分が立っているのかもわからなくなった。

 そして、浮上するような感覚の後、ボクは目を開いた。


「んっ。ここは……?」


「起きた? 私が分かりますか?」


 目の前には、手をひらひらさせたアイルさんがいた。


「アイルさん……」


「正解! さ、今危ないことになってるから撤退しましょ?」


 アイルさんがボクの手を引っ張って起こす。

 そしてそのまま、ボクの手を引いていこうとする。


「待って。ボクちょっとやることがあるんだ。それで、今見ることは内緒にしててほしいんだけど……」


「うん? いいけど、危ないことじゃないよね?」


「うん、危ないことはしません」


 アイルさんはそれだけ聞くと、ボクの手を離してくれた。

 さて、ゴブリンアーミー召喚術師の場所はっと……。


「すっ、すぴか……?」


 呆けたような声が聞こえてくる。

 ふと見ると、驚いた表情をしたアーク兄の顔があった。


「やぁ、ただいま」


 少しふらつくものの、ボクはの笑顔で精一杯の笑顔でそう言った。


「大丈夫なのか?」


「うん、妖力がまだ足りないけど、大丈夫。それよりも、あの石のこと」


 ボクが指さす先、そこには黒いオーラをまき散らしている黒い石、陰石があった。


「あぁ、あれか。あれは――」


「知ってるよ。あの石、砕かなきゃ」


「砕くたって、どうやって?」


 ボクの言葉に、アーク兄が慌ててそう言ってくる。

 だからボクはこう言った。


「みんなで、村ぎりぎりまで撤退して。ボクはちょっと試したいことがあるから少し遅れるけどね」


 ボクのとっておきは他の人に見せるわけにはいかない。

 だから出来るだけ離れていてほしいんだけど……。


「俺に家族を置いて行けっていうのか?」

 

 アーク兄は真剣な表情でそう言ってくる。

 気持ちは嬉しいけど、今はそれどころじゃない。


「アーク兄は先に行ってて」


「先に行けって、俺は!」


「アークトゥルス、少しは妹の顔を立ててやりな」


「クラマ……」


 空からはエレクトラとケラエノを従えて飛ぶ、烏天狗の女性が下りてきた。

 紅い髪の烏天狗、クラマさんだ。


「あたしが面倒みる。だから先に行きな! 人間にいられると困るのよ!!」


「わかった。早めに来いよ!」


 アーク兄はそう言うと、本隊が下がるのに合わせて一緒に下がっていった。


「クラマさんって、妖種なんですか?」


「はんっ、当たり前でしょ? あたしは生粋の天狗族よ」


 クラマさんは腕を組みながら、ボクにそう言う。

 

「クラマさんの家も結構大きいんだけどね」


「天狗族も商売上手だから生活するには困らないようですよ」


「余計なこと言うんじゃないよ。と言っても、天狐種に比べたら普通だけどね」


 クラマさんはボクの方を見ながらそう言う。

 ついでになぜか頭をなでられつつ。


「妖狐族を見てると、狗賓(ぐひん)を思い出すね。あいつらどうしてるかなぁ」


「狗賓?」


「最近は見ないけど、昔は結構いたらしいんだよね。狼の特徴を持った天狗さ。交配が進んで狼耳と尻尾の生えたケモミミ天狗になったんだけどね」


 クラマさんの話す狗賓の姿を思い浮かべてみる。

 何とも可愛らしい姿が浮かんでしまった。


「あたし、狗賓の居場所知ってるよ? 戦い終わったら教えてあげるよ」


「狗賓なら妖精郷で細々と過ごしてますね。烏天狗の紹介でなら会えるでしょう」


「ちっ、知らないのはあたしらだけってわけかい」


「そりゃ、昔差別してたんだから当然じゃ?」


 エレクトラとケラエノは狗賓の居場所を知っているようで、クラマさんだけが知らず、悔しそうにしている。

 差別の歴史って、どこも同じようにあるんだなぁ。


「っと、おいでなすったよ。勝算あるんだろうね?」


「もちろんです。というわけで、ボクがもし倒れたら後はよろしく頼みますね」


 ボクはそう言うと、ただ一点を見つめる。

 その先は黒いオーラの中心。

 まるで辺りを包み込むかのように黒いオーラが侵食していく。

 包まれた地面は黒く変色し、元の土色や緑の色をしてはいなかった。


(さすがに、ひびが小さい……。間に合うかな?)


 陰石は回転しており、一定周期でひびが隠れてしまう。

 もう少し、なんとか見極めないと……。


「スピカ、大丈夫? そろそろ危ないよ?」


「そろそろ撤退するべきです。スピカに何かあったら……」


「もう少し、待ってあげな。勝算あるから動かないんだろうからね。信じることも大事だよ」


 クラマさんはエレクトラとケラエノを宥め説得してくれていた。

 その間にも、ぞわぞわした気配が近づいてくるのが分かる。

 毛が逆立ちそうなくらい、おぞましい感覚だ。


(タイミング……。まだ慣れない……。でも……!)


 ボクはそっと妖力を高めていく。

 大禍津の話通りなら、そこまで力を使わなくてもいいはずだ。

 今現在、ボクの妖力は通常より早く回復していっている。

 まだ夜であることが幸いしているようだ。


(見えた……! 今!!)


「【天狐流刀術:斬神】」


 頭の中で斬れる感覚が浮かび上がった。

 ボクはその感覚に従って、斬神を発動させた。


 ボクの刀から迸る光が一直線に陰石へと伸びていく。

 そして、その光が到達する寸前、陰石のひび割れた箇所が正面にやってきた。


 そして――。


 パキンという音と共に、拡がっていた黒いオーラが拡散。

 同時に斬られた箇所から、黒い光を放ちながら陰石のエネルギーが解き放たれた。


「わわっ」


「うわっ」


「きゃっ」


「一体なんだってんだい……」


 唐突にあふれ出した黒いオーラはすぐに収まり、侵食されていた地面の色などが元に戻っていく。

 まだ陰石は浮いていたが、だんだんと灰色になり、やがて崩れ去っていった。


『馬鹿な……。主の力が断ち切られるだと!? お前たちは一体……。よろしい。お前たちを真の強者と認め、私との戦いを認めよう。ハイオークは強者には礼儀を尽くす。お前たちの住むメルヴェイユからは遠く離れているが、絆の要塞でお前たちが来るのを待つ。楽しみにしているぞ。それと、主の力に立ち向かったことに敬意を表し、ささやかながら贈り物をしよう。敵に塩を送るのも、ハイオークなりの礼儀だ』


 ゴディアスの声はそれっきり聞こえなくなった。

 それがきっかけかはわからないが、ボクたち四人の前には武具一式が現れた。


「これが言っていたもの?」


「まぁ【鑑定】してみればわかるでしょ」


「えっ!? これって……」


「敵に塩を送るか。これは送りすぎじゃないのかい?」


 鑑定した結果、その武具一式はユニークアイテムであり、素材によっては色々な進化をするものであることがわかった。

 呪いなどの類はなく、メッセージが添えられている。


『真なる強者であり、我がライバルと認めた者に贈る。この武具を見た同胞は、攻撃せずに我が元へ通すがよい。そして強者よ、この武具を進化させる素材は私を倒さなければ手に入ることはないということを覚えておくが良い』


 裏切者のハイオーク将軍、ゴディアスは本当にただの敵なのだろうか?

 ボクは自分たちに贈られた武具一式を見ながら、そんなことを考えてしまうのだった。

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