夏祭り前夜祭、学友との遭遇

 夏祭り前夜祭に行くメンバーとゲームキャラのおさらいをしておこうと思う。

 花蓮さんは本名を相原花蓮(あいはらかれん)という。

 ゲーム内では茶色の髪をしたミディアムボブヘアの剣士の女性の姿になっている。

 元リーンさん達のパーティーリーダーで、キャラクター名はカレンだ。

 現実では黒髪黒目の肩口までのロングヘアの女性で、身長は高めだ。


 鈴さんは本名を榊鈴(さかきりん)という。

 ゲーム内では金髪青眼のロングヘアのかわいらしい魔術師の女性の姿をしている。

 元カレンさんパーティーのメンバーで、キャラクター名はリーンだ。

 現実では黒髪黒目で、背中まで伸ばしたロングヘアをしていて、身長は花蓮さんより低めだ。


 このはちゃんは本名を榊このは(さかきこのは)という。

 ゲーム内ではリーンさんを小さくしたような見た目をしていて、弓師の小さな女の子の姿をしている。

 元カレンさんパーティーのメンバーで、キャラクター名はコノハだ。

 現実では黒髪黒目の背中まで伸ばしたロングヘアをしている。

 なお、身長は143センチあるかどうかだ。


 ちなみにみんな黒髪なのは、校則に従っているからだそうだ。

 なので、ゲーム内だけは違った色にしているようだ。

 もちろん雰囲気も違う。

 このはちゃんに限っては、お姉さんの鈴さんとおそろいにしているという。

 これはゲーム内も現実も同じらしい。


 美影は本名を烏丸美影(からすまみかげ)という。

 ゲーム内では茶色のミディアムボブヘアをしていて、妖刀士見習いの少しだけ凛々しい和風剣士の姿をしている。

 ボク達のパーティーに加入していて、キャラクター名はエレクトラだ。

 現実では黒髪のミディアムボブヘアをしている。

 身長は155センチ程度あるので、ボクよりも大きめだ。

 妖種といえど校則は守るでの、黒髪のままにしている。


 瑞樹は本名を烏丸瑞樹(からすまみずき)という。

 ゲーム内では水色のロングヘアをしており、髪を背中まで伸ばした召喚士の姿をしている。

 ボク達のパーティーに加入していて、キャラクター名はケラエノだ。

 現実では黒髪の背中まで伸ばしたロングヘアをしている。

 身長は150センチ程度でボクに近いものがある。


 ボクとミナのことは省くとして、これが今のボク達のメンツだった。

 そして今、ボク達は夕暮れの道を広場に向かって歩いていた。


「へぇ~、ゲーム内でそんなことが~」

「新しい二人の子が妖種だなんて、ちょっとわくわくするわね」

 美影と瑞樹と話しているのは、鈴さんと花蓮さんだ。

 鈴さんはちょっと間延びした話し方をするので花蓮さんとの区別はつきやすい。

 

「ねね、ミナちゃん。あの二人ってやっぱり強いの?」

「今はよわよわだよ? 私でも勝てると思うし」

「そうなの? 私、先輩として勝てるかなぁ……」

「大丈夫だよ、だってこのはちゃん弓の扱いすごく上手だし」

 このはちゃんとミナは、美影と瑞樹について話しているようだった。

 先輩として譲れないものがあるようで、地味にライバル視をしているようにも見える。

 これは良い成長するかもしれないなぁ。


「お姉ちゃん、何ニコニコしてるの? このはちゃんに会えてうれしいの?」

「ちょっと、ミナちゃんってば!」

「ん? うれしいといえばうれしいよ? やっぱりみんなに合えると楽しいよね」

「あぅ……」

 なぜかこのはちゃんががっくりと肩を落とす。

 ミナは何とも言えない顔をしながら、このはちゃんの頭をなでていた。


「どうしたの? 変なこと言った?」

「お姉ちゃんはお姉ちゃんに憧れている人のことも考えるべき」

 なぜかボクがミナに説教されてしまった。

 ボクに憧れる人なんているわけないんだけどなぁ……。


「えっと、ごめんなさい」

 ボクはとりあえず謝ることにした。

 反論してもこじれるだけだろうから、ここは謝っておくのが得策だろうからね。


「で、お姉ちゃんは何考えてたの?」

 ボクが頭を下げたことで、ミナのお怒りが解けたようだ。

 その代わり、ボクが何を考えてたのか問いかけられてしまう。


「んと、剣士に魔術師、弓師に道士、神官に妖刀士、そして召喚士に兄の魔術師。結構メンバーも増えて来たなぁって思ってさ。もっといろいろな場所へ狩りに行けそうでしょ?」

「ん~。たしかにね~。レベル差も大きく開いてるわけじゃないし、お互いにサポートしあえばいろいろな場所に行けるとは思うかな」

 ボクの意見に、ミナは同意してくれた。

 正直こんなに友達が増えるとも思っていなかった。

 今は花蓮さん達も同じパーティーメンバーだし、このままみんなで戦ったり楽しんだりしていければいいなと思っている。


「昴ちゃん、優しい笑顔をしてる」

「そうかな?」

「うん。そんな昴ちゃんが大好き」

 このはちゃんはそう言うと、やわらかくほほえんだ。

 ボクよりやや小さめのこのはちゃんだけど、ボクよりもしっかりしてるように感じている。


「でもさ。この状態って、お兄ちゃんにはすっごくよくないよね?」

 ふとミナがそんなことを言いだす。


「なんで?」

「だって、お兄ちゃん以外は女の子しかいないでしょ? そろそろ掲示板にさらされるんじゃない?」

「はっ!?」

 今更だけど、ボクはこの状況になじみ過ぎていたと思う。

 女子だけで集まっていつも遊んでいたため、男の子は兄が一人だということに気が付くのが遅れてしまったのだ。


「これはやばいよね。でも、今更男の子の友人を誘えるのかなぁ……」

 ボクがそんなことを考えていると、不意に大きな声が聞こえてきた。


「おっ! 烏どもがそろって何やってんだ? そこにいる女装している黒髪は、もしかして昴か?」

 聞き覚えがある声がする。

 うん、たぶん一番会いたくないやつだ。

 もちろん、前のボクなら喜んであっただろう。

 でも、今は……。


「ちょっと、ただの小鬼がなんでここにいるのよ?」

「せっかくいい雰囲気でしたのに。邪魔するなら容赦しませんよ?」

「おいおい待てよ。別にケンカしに来たわけじゃないぜ? たくっ、烏どもはどうして昴にくっついてまわってるのかねぇ」

 声の主は、ボクの妖種の友達の男子だ。

 鬼塚大和(おにづかやまと)、妖種の鬼人族の少年でゲームが大好きなやんちゃなやつだ。


「おい、昴。なんでこっち向かねぇんだよ? もしかして烏に女装強要されてんのか?」

 大和がボクの肩をつかんで無理やり振り向かせる。


「!?」

「……」

 驚いた表情の大和。

 そして唇を強く結ぶボク。

 お互いに黙ったまま、ボク達は動くことができなかった。


「あっ、あの……」

 ミナがおずおずと声を掛ける。


「大和! あんた!!」

「美影! ダメ」

 固まったまま動かない大和に、美影が飛び掛かろうとする。

 しかしそれを阻止するように、瑞樹が美影の体を強く引き留めた。


「瑞樹、放して!」

「ダメ! 見守らなきゃ」

 美影はちょっと変な子だけど、一番友達思いだと思う。

 そうでなきゃ鬼に飛び掛かろうとする烏天狗はいないはずだ。


「もう、行けよ。大和……」

「おまえ……」

 ボクは辛うじてそう言葉を口にする。

 一番の友達だけど、急に変化する友達なんて気持ち悪いだけだろ?

 たとえそういう種なんだとしても……。


「もういいよ。ほっといてくれ……」

 ボクはそう言って駆け出そうとする。

 でも、大和が肩をつかんでいるせいで離れることができない。

 ボクはやっぱり非力なんだな……。


「鬼ってさ」

 やがて、大和の口からそんな言葉が出てきた。


「結構裏切るとか、愉快な方向に物事を運んだり、混沌を楽しむって思われてることが多いんだぜ? 知ってるか?」

 一つ一つ切るように、言葉を紡いでいく大和。


「でもな」

 大和は一呼吸置いた。


「鬼ってのはダチを裏切ったりしねぇんだよ。仲間の縁や恩義を大切にする種だからな」

 大和は決して頭の良い方じゃない。

 結構楽しければそれでいいと言う感じだ。

 でも、一度も裏切られたことはなかった。

 そう、今まで一度も。


「おまえが変わったのは、正直驚いた。女みたいなよくわからないやつだったのが、短期間の間に女に変わっちまったんだからな。でも、そういう種だって予備知識はあったし、どっちかっつうと女っぽいところがあったから、妙に今の状態に納得しているところもある」

「大和……」

「まぁ、その、なんだ。すっかりかわいくなっちまったのには驚いたけども、俺たちはずっとダチだったろ? 昔もこれからもさ。だから、逃げんなよ」

「かわいいとかいうな!!」

「はは、面白いやつ」 

 大和は、ボクの頭を乱暴になでつけた。


「痛いって、大和」

「あっ、わりぃ」

 ボクが苦情を言うと、慌てて手を離す大和。

 相変わらず後先のことを考えて動かないやつだ。


 鬼塚大和、本来の髪の色は赤く、男の子らしいツーブロックの短髪をしている。

 今は変化しているため、黒髪だけどね。

 身長は158センチ程度で、もっと伸びそうな気配はある。

 女の子にチョコをもらうくらいには顔も整っている。


「ふん。ボクだって好きでこうなってるわけじゃないんだ。たまたまというか、いろいろあるんだよ」

「お、おう。そうだな……。まぁさ、いじめてくるやつがいたらいつでも守ってやるから、ちゃんと言えよな」

 これから起こるかもしれない問題を見越しての発言なのだろう。

 正直気がめいるところではある。


「ありがと。どうなるかわからないけど、どうにかしてみるよ」

「おう」

 ボクの言葉に、大和は短く返事をした。


「ふぅん? お姉ちゃんも隅に置けないなぁ~」

 ミナが急に変なことを口走る。


「えっ!? 大和と昴ってそんな関係だったの!?」

「そんな……」

 驚く美影に崩れ落ちる瑞樹。

 君たちは何を言ってるんだ。


「あのさ、勘違いしてるようだけど……」

「誤解だ、烏ども! 俺は純粋に心配しててだな!?」

 冷静に事実を告げようとするボクと、慌てふためく大和。

 そんなに慌ててたら、事実みたいじゃないか。


「もう、大和は黙っててよ。あのね、大和は――」

「大和君? 女の子達を囲って何してるのかな~?」

 ボクがそう言いかけた瞬間、辺りがどす黒い怖気を感じるオーラに包まれた。

 しまった、遅かったか……。


「いや、あのな? これは違うんだ……」

「な・に・が・ち・が・う・の・か・な?」

 そこには、鬼の形相をした黒髪の背の高めなきれいな顔をした少女がいた。

 桃色の布地に桃の花をあしらった浴衣を着た、大きめのリボンで髪をポニーテール状に結んでいる少女だ。


「誤解だ、彩夏(あやな)! 落ち着け!」

「話は、ゆ~っくり聞くから。こっち来ましょうね~?」

「や、やめろー!! 昴、烏ども、助けてくれえぇぇぇぇぇ……」

 彩夏に引きずられ、大和は夕闇の林へと消えていった。

 鬼頭彩夏(きとうあやな)同じ学校に通う、大和の許嫁だ。

 詳しい話はまた今度にしよう。

 ただ今は、大和の冥福を祈ることにしよう。

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